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気候変動対策を偽装 農業のデジタル支配を狙う大手テクノロジー企業 (COP26閉会を受けて)

ーーCOP26は分かりきったことを大仰に宣言して終了した。気候危機に最大の責任がある企業と国家は、生命より利益を優先する行動様式を放棄しなかった。インド出身の歴史学者、ジャーナリスト、評論家でアイルランド国立大学トリニティカレッジ、南アジア史教授である著者の評論を紹介する。  (訳者)

11月18日 トリコンティネンタル社会研究所 ヴィジャイ・プラシャド

 COP26が終了、その滓が残った。グテーレス国連事務総長の「地球は糸一本でぶら下がっている状態なのに、我々は気候破局のドアをノックしている段階だ。緊急体制に入らないとネットゼロの達成はゼロになるだろう」という閉会の辞に万雷の拍手は起きなかった。次回サミットを2022年、カイロで開くことが同意され、COPは一応継続されることにはなった。
 期間中は、連日宴会が開かれ、企業役員やロビイストたちが、政府代表と杯を交わした。議場ではなく、宴会の席やホテルの一室で重大なことが決定されるのだ。議題や提案のほとんどは、気候危機を作り出してきた企業が決定する。環境活動家たちは議場に近づけず、遠くで叫ぶしかなかった。議場となった石油開発環境安全センター(SEC)は、かつて植民地で採掘した天然資源を英国へ持ちこむ通路で栄えたクイーンズドックと同じところに建てられた。植民地時代の伝統が、COP26で再演されたのだ。
 議題にあがったのはエネルギー、金融、交通で、農業はテーマにならなかった。農業は11月6日のテーマ「ネイチャー・ディ」の中に押し込まれ、取り上げられたのは、森林破壊の焼き畑農業だけであった。アグリビジネスなどのグローバル・システムが、地球温暖化ガスの21~37%を排出しているのに、全く取り上げられなかったのだ。国連が、「グローバル農業資本が発展途上国の農民に与える年間5400億㌦もの「援助金」が食品価格を歪め、地球と人間を汚染する農業を作り出している」という警告を出したにもかかわらず、農業問題は取り上げられなかった。健康で生態系維持可能な農業への転換に関する議論も、一切なかった。

ーー農民不要を展望するハイテク農業支配

 その代わり、米国とアラブ首長国連邦が、ほとんどの先進国の賛同を得て、アグリビジネスや農業における大手テクノロジー企業の役割を支持する「気候変動に対応する農業イノベーション」(AIM4C)を提案した。
 アマゾンやマイクロソフトのような大手テクノロジー企業や、バイエル、カーギル、ジョン・ディアなどの大手農業技術企業が推進する新しいデジタル農業モデルを支援する提案である。気候変動の影響を緩和するという名目で、世界食料システムをデジタル支配しようとする企みである。この提案の中には、農民への言及が一切ない。まるで、未来農業においては農民は不要との予測をしているようだ。
 大手農業技術・テクノロジー企業の農業参入は、種の植え付けから生産物のマーケティングまで、食料生産流通の全過程の支配を狙ったものだ。すべてをオンライン支配し、小規模農民や農業労働者に全リスクを負わせて、上澄み利益だけを吸い取るものだ。
 ドイツの製薬会社・バイエルは、米国の非営利団体「開発のための精密農業」と提携した。その意図は、ネット教育を通じて農民に何をどのように生産するかを教えて完全支配し、リスクを農民に負わせ利益だけを収奪するためである。これは、農業における新自由主義的な利子とか地代のようなレントを得るための経済政策である。現場労働にすべてのリスクを背負わせ、上澄みの利益だけを大手農業技術・テクノロジー企業が搾取するのである。支配企業は土地や資源の所有には関心がなく、生産過程を支配して農民から富を吸い上げるのだ。

ーー「グリーン」を偽装、大手企業の農民搾取

 2017年のCOP23では、参加諸国が農業に関する「コロンビア共同作業」(KJWA)を立ち上げた。これは気候変動と農業との関係を集中的に調査し、農業改革を議論する場である。KJWAは、今回のCOP26で数回集会を開催したが、注目されなかった。
 逆に、「ネイチャー・ディ」には45カ国が参加し、大手農業技術・テクノロジー企業の目的と内容に合致する「農業におけるイノベーション」をスローガンに掲げた「国際農業研究協議グループ」(CGIAR)設立を承認した。CGIARはイノベーション推進を目標にした政府間組織である。
 農民は大手農業技術・テクノロジー企業の支配下に置かれ、企業はその活動を「グリーン」で偽装し、実際は気候破局阻止に努めることをしないで、自己利益を追求する。これでは世界の飢えを終わらせることも、気候破局を終わらせることもできない。

翻訳・脇浜義明

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