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ドイツで社会問題となる「投機による地価高騰」。ハウジングアクションデイで労働者が抗議

ドイツ・フランクフルト滞在 大学院生 安藤 歴

 3月26・27日は「ハウジングアクションデイ」だった。これは、居住や都市、土地への権利を求める欧州各国で同時に行われた抗議行動だ。呼びかけは、ヨーロッパ各国の31の組織からなる「居住権と都市への権利を求めるヨーロッパ行動連合」。 ドイツのフランクフルトでは、再開発で地価の急上昇が生じている「ガルス」地区周辺でデモが行われた。フランクフルト中央駅とも近いこの地域は、労働者階級が多く居住する地区として知られてきた。デモは、州政府から民間企業に2018年に売却された旧警察庁舎、ロックダウンの煽りを受けて売却された高級ホテル、そして巨大な再開発が行われている建設現場の前を通り、その都度に主催者側から抗議演説が行われた。

ーー投機対象となった住宅

 ガルスの東側のEuropaviertel(ヨーロッパ地区)という開発区域に、ドイツ最大の富裕層向け高層マンション「グランドタワー」と、併設の複合モールなどが建設された。デモ主催側の演説によると、この建物は一平方㍍で3万ユーロ(=約400万円)という高値がつけられた。だが少なからぬ部屋が、誰も住まないにもかかわらず、中国、ロシア、ヨーロッパ各国、アメリカといった世界中の投資家によって購入されたことが驚くべき点だ。 マンションのサイトを見る限り、現在販売中の一番安い部屋で181万1000ユーロ(=約2億4000万円)、高い部屋で911万5200ユーロ(=約12億3000万円)なのだが、投資家たちは、さらに価格が高騰することを見込んで投機対象として購入しているのだ。 こうした住宅価格、土地価格の高騰と、それに伴う家賃の値上げは、重大な社会問題として注目されている。ドイツの住宅価格は過去10年間に2倍以上になっており、特に2021年10月から12月までの住宅価格は、2020年の同時期から12%以上値上がっており、過去最高の上げ幅だった。これらの値上がりは投機によって引き起こされたものであり、「過度なインフレ」と指摘されている。ちなみに、住宅だけでなく、食品や光熱費など、その他の消費価格も毎年5%以上値上がりしている。  こうした住宅価格の高騰と、家賃の上昇に対する抗議運動の一つの成果が、昨年9月にベルリンで行われた住民投票である。ベルリンでは、昨年の国政選挙、地方選挙と同時に、住民投票が行われていた。それは、「ドイチェヴォーヌング社を収用せよ」という団体によってリードされたもので、ベルリン市にドイチェヴォーヌング社をはじめとする住宅業界の大手企業が所有する住宅を収用することを可能にする法案の可決を求めていた。収用の対象となるのは、最大24万戸である。

ーー住宅問題の底にある環境・人種・階級などの複合的問題

投票結果は「支持」が56・4%で可決だった。ただし、住民投票の結果は法的拘束力がないため、実際に法案が可決されても、収用が行われる可能性は低いだろう。 ドイツ社会民主党の反応は否定的なもので、他の政党も左翼党を除いて、住宅の収用に消極的だった。そうした政党が主張するのは、必要な住居の新たな建設と家賃上限の法的設定である。住宅を収容したところで、企業側からの訴訟がなされ、投資が減少し住宅建設も進まないため、住宅問題解決しないというわけだ。 こうした政党の反応は住宅の不足と価格高騰という側面だけに応答したものだが、住宅問題は単なる供給の問題だけではない。それは、建設や居住区の拡大などに伴う汚染や公衆衛生に関する環境問題だ。 さらに、どの地域や場所に誰がどのようにアクセスすることができるのかが、人種や民族、ジェンダーとセクシャリティー、所得に応じて違ってくるという点で、人種、性、階級に関わる複合的問題でもある。単に住宅を増築するだけでは対応できない問題が含まれているのだ。 こうした問題に対して、住宅に関する運動が概して要求しているのは、土地・住宅投機への規制と都市計画における意思決定への住民の参加促進である。地域ごとに個別の課題は異なるとしても、投機マネーへの法的規制と住民自治の強化が重要視されている。×▼参考…岸本聡子「ベルリンで住民投票可決:大手不動産の独占と家賃高騰にNO。住宅の収用と社会化にYES!」https://www.newsweekjapan.jp/worldvoice/kishimoto/2021/10/yes.php

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