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「ひきこもり」させているのは誰か

NPO法人フォロ 山下 耕平

 「ひきこもり」という名称を「社会的距離症候群」と変更すべきだという提言があった。提言したのは山根俊恵氏(山口大学大学院教授)で、その理由は、「ひきこもり」というと室内に閉じこもっているというイメージがあるが、実際には買い物などで外出する人も多いからだそうだ。それで、他の人と心理的な距離があることを表す名前として「社会的距離症候群」を提示したということだ。
 それに対し、「ひきこもり」の名づけ親である斎藤環氏(精神科医)は、ツイッターで「家族も社会と考えるなら、ひきこもりの家族関係はむしろ『密』すぎて問題のこともあるから(例えば家庭内暴力や巻き込み型強迫事例)、やっぱり『社会的距離症候群』には違和感」と反応した。私が聞いたかぎり、「ひきこもり」当事者のなかでも、「社会的距離症候群」という名前には違和感を示す声が多かった。それは、あたかも病名であるかのように、ラベリングを強化するように思えるからだ。
 しかし、そもそも「ひきこもり」という名前もラベリングであって、そこに暴力性はある(どんな名前であっても、名づけには暴力性があるが)。ある面を切りとって、イメージを固定化させてきたところがあるのは確かだろう。「ひきこもり」という名前は、本人たちが名乗ったわけではなく、その状態を親や周囲が問題として、精神科医が名づけたものだ。もちろん、名づけられたことによって、問題が可視化された面もあるし、当事者同士が集まり、声をあげられるようになった面もある。

ーー「ひきこもり」は若者問題ではない

 名づけには功罪がある。しかし功があるからといって罪の面が消えるわけではない。そこで切りとられてしまう面、切りとられたことによって生み出される問題から目を背けてはならないだろう。
 たとえば、「ひきこもり」は若者問題と思われてきたところがある。学齢期を超えても「社会」に参加できない、働かずに家にひきこもっている、というような例もまれではない。内閣府の調査(2016、2018年)によれば、ひきこもっている人の推計値は、15~39歳で約54万1000人、40歳~64歳で約61万3000人となっており、39歳以下よりも40歳以上のほうが多い。さらにいえば、40歳以上の場合、40代以降になってからひきこもった人が6割となっている。この統計は推計値に過ぎないが、少なくとも「ひきこもり」が若者問題でないことは、確かにうかがえる。
 「ひきこもり」という状態像が示しているのは、何かの理由で働けなくなったりしたとき、その人を支える関係が家族にしかないため、人が孤立しやすく、その孤立が長引きやすいという問題があるということだろう。
 だとすれば、本人を「ひきこもり」と名づけて、本人を立ち直らせようとするのではなく、孤立を招きやすく長期化させやすい社会構造こそを問わなければならない。
 「ひきこもり」を、ひきこもっている本人の問題とみて、いかにいまの社会に適応させるかを支援とするのではなく、あるいは、いまある制度につなげることだけを支援とするのではなく、この社会のあり方を、ともに考え、問い直していくことが必要なのではないか。つまり、それは「彼ら」の問題ではなく、「私たち」の問題である、ということだ。


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