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米国の アジア系 差別 有色人種の労組活動家 養成を通じて意識変革を

2021年4月12日『レーバー・ノーツ』
ソーラヴ・サカー(『レーバー・ノーツ』編集アシスタント)

 米国国防総省がインド・太平洋戦略の一部として、軍事費を270億㌦増額する予算。それに呼応して米国民によるアジア系への差別が拡大している。中国発生とも言われるコロナ・パンデミックと中国との新冷戦の背景にあるのは、かつての日米戦争や1980年代の日系差別と同じ、経済摩擦である。   (訳者・脇浜)

 「独りで外出する場合は、いつも護身用の催涙スプレーを持っています」と、ニューヨーク市で教員として働く中国系米国人のアニー・タンが言った。アジア系が街路や地下鉄でヘイトスピーチを浴びせられたり、身体的暴力を受けているからだ。
 「中国ウイルス」と隣人から罵声を浴びせられたアー・イェンは、娘に外では目立たないようにしなさい、と警告した。シアトルではアジア系のホテル従業員が街中で拉致された。「どこへ行っても安全な場所はない」と、フィリピン系のワシントン州の現業作業員ジョージナ・タバサンが言った。「年老いた親の外出は危険です」。
 米南部ジョージア州の州都アトランタで3月16日、「神と銃を敬愛する」と称する白人男性(22歳)がアジアンエステ店3軒を相次いで襲撃し、韓国および中国からの移民女性6人を含む8人を射殺した。
 射殺された女性について、「性労働者は殺されても仕方がない商品だと見做されている」と、アジア太平洋アメリカ労働同盟(APALA)は声明を出した。
 「このようなアジア系女性の非人間化は、1875年のペイジ法(米国初の移民規制法・アジア人対象)が、アジア人女性すべてを性的逸脱者と規定して、行動と自由を制限したことから始まった」と説明する。
 ある地方裁判所の記録には、去年だけで3795件のアジア系に対する差別事件があったとあるが、全国的にはもっと多いのはいうまでもない。被害者はほとんど女性である。
 アジア系差別は、トランプ前大統領の「中国ウイルス」発言と、メディアの追従に起因すると言われているが、さかのぼると、主に労働者階級女性が、英語力、階級、人種、移民という立場で、日常的に差別を受けている。
 サービス従業員国際組合(SEIU)の組合員のフィリピン女性アンジェル・シャーバーンは病院清掃員で、いつも管理職から「英語が下手」と言われ、彼女が結婚したとき、「旦那と会話できるのか?」とからかわれた。
 「私もバーで売春婦扱いされたことがある」とタンが言った。彼女はAPALAのシアトル支部長だが、昔アジアンレストランで働いているとき、「お前らアジア女は、客寄せホステスとして雇ったのだ」と言われている。


 米国のアジア人差別には、200年の歴史がある。1850年代、鉄道建設に従事した中国人は、白人の30%の賃金で働かされた。1945~48年、米国は南朝鮮を占領、日帝の慰安婦インフラに倣って基地周辺に性労働者を配置・管理した。「性病予防」とか「性犯罪予防」と称したが、女性の商品化であった。1958年には30万人の韓国人女性が性労働者として働いていた。同じことがタイ、ベトナム、沖縄でもあった。米軍の性労働者需要はドル収入源になったので、地元の政府と資本も協力した。米兵と結婚して米国に渡ったものの、差別で生活が破綻し、性労働者に戻った人も多い。
 1960年代、米国はアジア人に大量移民の門を開いた。初めは主に教育関係者の移民だったが、やがて労働者階級も入った。
 1982年、タンのいとこの製図工エビセント・チャンが、デトロイトで独身最後のパーティーの最中に白人に野球バットで殴り殺された。犯人たちは、「わしらに仕事がないのは、お前らちっぽけなアジア人のせいだ」と怒鳴った。当時日本車進出で米の自動車産業は斜陽だった。「この事件で、差別が経済に起因することが分かりました」とタン。
 犯人の白人は自動車工場の職制で、共犯の娘婿は、レイオフ中の自動車工。2人の刑は3年間の保護観察と、罰金3780㌦であった。この事件を契機にアジア系の組織化が進み、黒人、ラテン系、その他のマイノリティとの連携が強まった。
 スーは、差別を労働運動の視点で見ている。「白人を『奴ら』でなく、『我々』と見るようにしています」。
 彼女はレストランやスーパーマーケットで働く韓国系やラテン系を組織するコリアタウン移民労働者同盟(KIWA)の活動家だ。同じKIWAの活動家のハウは、「賃金や手当の他に、労働者が安全に働ける条件を労使契約の中に入れることも大切です」と言って、KIWAの一支部が、ホテルの客室係に非常ボタンやその他身を守る措置を獲得したと話した。
 労働運動としては、有色人指導者を養成し、組合代表として活躍させ、組合員と経営者の意識を高めることが大切だ、と活動家たちは語っている。

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