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マレーシア/熱帯雨林の先住民は問う 他国、次世代、動植物搾取する環境破壊 ウータン・森と生活を考える会 石崎 雄一郎

 ウータン・森と生活を考える会は、1988年に活動を開始した環境NGOだ。
 前年にボルネオ島(カリマンタン島)のマレーシア・サラワク州の熱帯林に暮らす先住民が日本にやってきて、「私たちの森をこれ以上壊さないでくれ!」と訴えた。調べると、身近な家具や合板などに熱帯林の木材が使われ、学校の箒や選挙ボードにも使われていた。学校の先生や公務員などの市民が,問題を調べて学習会を開いた。「私たちの生活を見直し、森で生きる先住民の生活のことを共に考えよう」と始まった活動が会の原点だ。
 熱帯林は、南米のアマゾン、東南アジアのボルネオ島、スマトラ島、ニューギニア島、アフリカのコンゴ盆地など赤道直下に広がる森林で、気温が高く、降雨量が極めて多く、多様な植生が織りなすジャングルだ。当会が活動するボルネオ島は、オランウータンやテングザルなどの類人猿、空飛ぶトカゲやヘビやカエルなど樹冠層で生きる爬虫類や両生類、世界中に愛好家を持つユニークな鳥類、擬態する昆虫、寄生植物や食虫植物、光る菌類などが数万年以上の時を経て互いに関係し、進化してきた生物多様性の宝庫である。先住民もまた、自然とともに生き延びてきた。狩猟採集民プナンは、森の中で移動しながら生活し、吹き矢でイノシシやサルを仕留めた。

1熱帯林記事写真


 現在、東南アジア熱帯林破壊の最大の原因は、熱帯林を皆伐して大規模に作られたアブラヤシ農園から採られるパーム油だ。パーム油は、スナック菓子、インスタント麺、マーガリン、洗剤、石鹸、化粧品など私たちの身の回りの安価な商品に多く使われている。しかし、私たちが100円で買えるポテトチップスには、先住民や農園労働者への人権侵害、生物多様性の損失、泥炭地破壊による温室効果ガス排出などのコストは含まれていない。
 そのような環境問題は、他国の社会的弱者を苦しめ、次世代が平和に豊かに暮らすことのできる機会を奪い、多くの動植物を絶滅に追いやっている。すなわち、金と権力を持った現世代の先進国の人々による搾取の問題だと言い換えることができる。それを解決し、持続可能な社会をめざすのであれば、国家間差別、世代間差別、種差別を改めなくてはならず、小手先の対策ではなく人々の意識そのものが変わる必要があるだろう。
 多くのNGOは、「環境破壊がこのまま続けば日常の生活を送ることが困難な世の中になる」と、以前より指摘してきた。気候変動や生物多様性の喪失が進めば、現在のコロナ禍よりもっと酷い状況が未来永劫続くだろう。今ですら対策が取れず、暮らし方を変えられないのであれば、もはや絶望的である。
 先住民は、大自然の中で伝統的な知恵を生かして生き延びることができるかもしれない。しかし、便利な暮らしに慣れて、出来合いのものが手に入らなければ何もできない都会の私たちはどうだろうか? 今が私たちの消費生活、グローバル市場経済や政治のしくみ、考え方や意識の抜本的な転換ができる最後のチャンスである。「7世代先のことを考えよ」―先住民の言葉には、すでにそれがある。環境問題は待ったなしの状況なのだ。

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