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「生存権」盾にパレスチナ人を囲い込み 絶滅を企図するシオニスト パレスチナ問題以外で進歩的 ──米リベラル・進歩派の限界

 米国の進歩派の中では「パレスチナ問題以外で進歩派」という言葉がある。一般に進歩派や左派は「親パレスチナ・反イスラエル」だが、有名なバーニー・サンダースに見られるように、米国の進歩派には「パレスチナ問題以外では進歩派」という面がある。
 国内問題では反体制的だが、国際問題では体制的な進歩派が多い。サンダースについては、「彼がユダヤ人だからイスラエルを贔屓する」という意見がある。だが『アナリシス・ニュース』のポール・ジェイも、高名な学者のノーム・チョムスキーもユダヤ人だが、パレスチナ人の闘いを支持してイスラエルを批判しているので、人種論的説明は間違いだろう。
 イスラエルは、イスラエル批判するユダヤ人を「自己嫌悪のユダヤ人」と呼んでいる。日本政府のオリンピック強行を批判する日本人を「反日」と呼んだ安倍と同じである。
 欧米人(白人)にはヨーロッパ史に流れるユダヤ人迫害という原罪意識があって、イスラエルやイスラエル・ロビーは、それを巧みに刺激する。
 イスラエルとユダヤを同一視して、親イスラエルこそがユダヤ人差別と闘う進歩的人士の姿勢だ、という奇妙な誤解を生じさせている。
 昔は、ヨーロッパ左翼もパレスチナへ入植するシオニストを「左派」、抵抗するパレスチナを「反動勢力」と見た時期があった。ユダヤ人の入植増大に対して「パレスチナ・アラブの大蜂起」を指導したエルサレムの大ムフティー(※注)、アミーン・フサインは、当時パレスチナを支配していた英当局によってパレスチナから追放された。彼は1941年に独へ渡り、ヒトラーと会談し、「中東・北アフリカからユダヤ人を一掃してくれ」と懇願した。
 シオニストは、この逸話を政治的に利用した。当時のシオニストは労働シオニストで、今の入植者のような極右ではなかったことも、シオニスト=進歩派、パレスチナ=保守反動という通念を作り出した。
 現代になって、イスラエルのネタニヤフ首相がドイツのメルケル首相と会ったとき、「ホロコーストはパレスチナの指導者のせいで起きた」と言った。これに対して、メルケルは「ホロコーストはナチス・ドイツの責任だ」と答えた。
【※注】大ムフティー…最高イスラム法官。ムフティーは、イスラム法規定に関する権威あるファトワー(法学裁定)を出す法学者。イスラム法の解釈と適用に関する権限を持つイスラム教の宗教指導者だ。ウラマー(イスラム法学者、神学者、コーラン解釈の専門家、などのイスラム学者)集団のリーダー的存在の人物である。


 サンダースがイスラエル擁護でよく使う、イスラエルの「生存権」という言葉が、米国左派やリベラルの心に訴えているようだ。「アウシュヴィッツのユダヤ人のように、イスラエル人が絶滅の危機に瀕している」というイメージを与えるのだろう。
 しかし現実には、米国と同じように、イスラエルは先住民を民族浄化して成立した入植国家(要するに他人の家の表札を張り替えた強盗国家)で、絶滅危機にあるのは先住民である。
 聖書にかつてパレスチナにイスラエル国があったという記述(様々な民族がパレスチナに存在したし、現代のヨーロッパ・ユダヤ人が古代イスラエル王国の子孫だというのは疑わしい)を利用した「帰還権」は、ユダヤ人救助の思想としてキリスト教徒に訴える。その反面、パレスチナ人の帰還権は認めない。
 パレスチナ人の非暴力市民運動で今や世界の市民運動が支援しているBDS運動(イスラエルボイコット・投資撤収・制裁)は、南アフリカの反アパルトヘイト戦術が始まりだ。親イスラエル派は、そのBDS運動に対して「反ユダヤ主義」「ユダヤ人差別の犯罪行為だ」と非難し、その言説は米国人リベラルの心を捉えている。とりわけ影響力が大きいのは、パレスチナ人の当然の抵抗を「テロ」とする、イスラエルのプロパガンダだ。
 米国人は、左派も右派も、自国による国家テロを空気のように当然視するが、それへの反撃を「残酷なテロ」と見る傾向がある。それと同じ感覚で、米国人はイスラエルの「パレスチナ人=テロリスト説」を受け入れる。だからサンダースは、パレスチナ人の「テロ攻撃」への反撃だとして、イスラエルのパレスチナ人攻撃を「生存権」の名のもとで擁護するのだ。
 しかし、事実は言葉以上に説得力がある。最近のユダヤ系米国人の若者は、次第にイスラエルの真の姿を見るようになっている。彼らは、先日のガザ攻撃や東エルサレムのイスラエル人の行為を、かつてナチス親衛隊が行った「水晶の夜」と同じだと批判している。こうした動きが進歩派の限界を超えていくだろう。(編集部・脇浜義明)

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