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政治的保身優先するナタニヤフ首相 パレスチナへの挑発で戦争に

イスラエル在住 ガリコ 美恵子

 ラマダン(イスラム教の断食月)2週目となる4月27日、イスラエルの最高裁は、「入植者にシェイク・ジャラの家屋を引き渡せ」という不当判決を下した。警察はシェイク・ジャラの一部を封鎖し、連日連夜、パレスチナ人を攻撃した。
 ライラット・イル・カデル(※)の前夜となる5月7日、イスラエル武装警察がアクサ寺院への侵攻を開始し、礼拝中の民衆を襲い、多くのけが人を出した。
 イスラエル警察は、この後もアクサ寺院攻撃を繰り返し、けが人は増え続け数百人にのぼった。
 5月10日、ガザのハマスは「午後6時までに、ダマスカス門とシェイク・ジャラの封鎖を解除し、アクサ寺院への攻撃を止めよ。さもなければ、エルサレムを攻撃する」との声明を発表。しかしイスラエルはこれを無視し、封鎖と攻撃を続けた。
 同日午後6時2分、エルサレムにガザからロケット弾が飛んできた。イスラエル空軍は即刻、ガザへの空爆を激化。ガザからもロケットは数分ごとに飛んできている。
 これに先だつ4月12日(ラマダン開始の前日)、イスラエル警察はダマスカス門広場と階段の周囲と芝生広場の3カ所を封鎖、立ち入り禁止にした。
 エルサレム旧市街のダマスカス門入口は、左右に階段があり、すり鉢状の広場になっている。ここはパレスチナ人にとって憩いの空間だ。
 オスロ合意により、イスラエル当局は、ラマダン時の特例として、ヨルダン川西岸地区やガザ地区に住むパレスチナ人にも、アクサ寺院訪問を許可している。
 そのため、毎日数万~数十万人がエルサレム旧市街にやってくる。屋台も出せる。遠方からのパレスチナ人は、断食明けに、旧市街で買った食物をダマスカス門広場で食べる。その後はエルサレム在住のパレスチナ人も集まってきて、屋台で買った飲食物を味わい、太鼓を叩いて歌を歌い、おしゃべりして、ダマスカス門で過ごす。ここはパレスチナ人にとって、出会いの広場であり、重要な場所なのだ。
 ラマダン時にダマスカス門広場を封鎖する。それが挑発行為であることは、一目瞭然だった。
 ラマダン初日の断食明け、民衆は柵前で立ち往生した。イスラエルの警官はこうアナウンスした。「皆さん、ここは通過する場所です。立ち止まってはいけません。今から5分内に立ち去らないなら、武力行使します」。
 これを聞いた民衆は怒り、抗議の声を挙げた。私の近くにいた警官は「こりゃあ、ちょっと落ち着かせないといけない」と言って、音響弾攻撃を始めた。逃げなかった人は武装警察に殴られ逮捕された。民衆はさらに怒り、警官にペットボトルを投げる若者もいた。これを機に、イスラエル当局は「戦争」を開始した。軍馬が逃げ惑う民衆を追いかけた。馬上の警官から目つぶしのペッパースプレーを噴きかけられ、倒れた人もいる。
 3日目からは、これにスカンクカー(汚水噴射車)攻撃も加わった。

 ラマダン2週目に入ると、ユダヤ教右派の国会議員や団体がパレスチナ人へのポグロム(殺戮・略奪・破壊・差別行為)を呼びかけた。「イスラム教徒征伐にてこずる警察に加勢しよう。4月22日午後8時、エルサレム市役所広場に集合」と。
 22日、「アラブ人に死を」と叫ぶユダヤ右派集団がエルサレム街中を歩き回り、パレスチナ人を見つけては袋叩きにした。パレスチナ人民家に入って攻撃もした。パレスチナ人の若者も入植者に応酬し、騒ぎは朝まで続いた。救急病院の発表によると、その夜のけが人は約100人。
 同夜、警察は旧市街付近でスカンクカーをフル稼働した。風が強い夜で、スカンクカーは汚水を噴射させながら町を何度も走りまわった。
 この弾圧に、全パレスチナが立ち上がった。ガザ地区と西岸地区とイスラエル国内のパレスチナ人町村で、抗議のデモが起き、ガザからはイスラエルに向けてロケット弾が発射された。
 ラマダン12日目の4月24日。一握りの民衆がダマスカス門広場の封鎖された柵内で断食明けの礼拝を行った。その後、抗議デモをしたが、警察に蹴散らされた。
 翌25日も再び同場所で、断食明けの礼拝が行われた後、若者たちが広場に張り巡らされた柵を撤去。民衆は口笛を吹き鳴らし声援を送った。海外メディアを含め多くのカメラが中継するなか、警察は手を出せない。
 警官がアラビア語でアナウンスした―「皆さん、お疲れさま。そんなにここが大事なら、自由に使ってください。その代わり、問題を起こしたら、また封鎖します」。
 民衆はこれを聞いて、歓喜の声をあげ、勝利を祝った。


 しかしその後も、イスラエル警察による弾圧は収まらなかった。ラマダン4週目の5月7日、武装警察が夜の礼拝中にアクサ寺院に侵攻。目を撃たれて失明した男性や背中を撃たれたジャーナリストなど、約200人のけが人が出た。
 翌8日はライラット・イル・カデル(前出)だが、警察は国道に検問所を設け、車両通行禁止にした。断食中の民衆は、徒歩で約2時間かけてエルサレムに向かった。いかなる弾圧にあっても、不屈の精神を保ち続けるパレスチナ人に胸が熱くなる。
 イスラエルによる今回の挑発、弾圧の狙いは何か。6点を指摘したい。
①パレスチナ評議会選挙への妨害。イスラエル当局はパレスチナ自治政府が選挙の記者会見会場に設定したセント・ジョージホテルに、「パレスチナ選挙に関係する行事を禁止する」と伝え、4月17日、エルサレム在住の3人の立候補者を拘束した。
 その1人、ナーセル・コウスは言う。「逮捕された時、シャバク(イスラエル公安庁)は、『パレスチナ選挙にエルサレム在住のパレスチナ人が参加することを禁じる。立候補を取り消せば、釈放してやる』と言った」。
②ネタニヤフ首相の保身。イスラエルで3月に総選挙があったが(リクードが第1党)、組閣は難航している。汚職事件で収監がちらついているネタニヤフ首相が政権に残るには、武力行使で内政を混乱させ、追求を逸らす必要があった。
③軍事訓練。警官同士で、軍事訓練をおこなっているような会話が聞こえた。
④兵糧攻め。ラマダン月の商売を妨害し、パレスチナ人を経済的に窮地に追い込む。
⑤「身代金」目当て。挑発に反発した者を逮捕し、釈放条件として数十万円の罰金を徴収すれば、一気に金もうけできる。
⑥世界へのミサイル売り込み。イスラエルは今冬、新型コロナ対策でワクチンを購入し、多大な借金を作った。借金返済のために、世界に誇る防空システム=対空ミサイルを売り込みたい。そのためにはイスラエルが攻撃を受け、ミサイルで有効に反撃する見せ場が必要。ガザからロケット弾を撃ってもらうには、エルサレムを攻撃するのが一番刺激的で効果的、というわけだ。
 今回も、「ロケット弾の約8~9割は空中で迎え撃った」とイスラエルのニュースが伝えた。対空ミサイルを海外に売るためのデモンストレーションだったと思う。

※ラマダン27日目の夜。「ミラクルの夜」と呼ばれ、一晩中アクサ寺院で礼拝する。

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