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「復興五輪」で見えた 人間よりカネという政府

福島原発かながわ訴訟原告団長 村田弘さんに聞く

 2021年9月5日、パラリンピックの閉会式により、東京五輪は全て終了した。「復興五輪」という大看板はいつしか「コロナに打ち勝った証」に変わった。原発避難者は、オリンピックをどのように感じたのか? 福島原発かながわ訴訟原告団長の村田弘(ひろむ)さん(79)に聞いた。 (編集部・河住)

 日本政府がオリンピック招致を行った際、安倍前首相は「原発事故はアンダーコントロールされている」と演説しました。さらに、子どもたちの甲状腺がんを含む健康被害についても、前首相は「これまでも、今も、これからもない」と発言しています。私は、頭が爆発するくらい怒りが沸騰しました。「冗談じゃない」と思ったんです。
 オリンピックは、原発避難者にとって大きな節目になりました。「復興」を大看板に掲げ、2020年のオリンピックで原発事故から立ち直った日本をアピールすると前首相が宣言したことから、「棄民政策」が始まったからです。2013年12月、日本政府は「原子力災害からの福島復興の加速にむけて」という指針を閣議決定しました。
 その後、帰宅困難区域の解除基準を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに引き上げ、2014年からは、避難指示解除も始まりました。
 東雲住宅(東京都江東区)には、多くの原発避難者が暮らしていましたが、管理者である福島県は家賃を2倍に引き上げ、払えない者は県から追い出し訴訟を起こされました。今、帰宅困難区域は大熊町と双葉町だけになりましたが、被爆被害は増え続けています。

 原発事故の核心は放射性物質です。今も、放射能は環境中に放出されています。放射性物質は消せません。なくなるまで待つしかないんです。代表的な放射性物質であるセシウム137の半減期は約30年です。政府は「除染」していると言いますが、まとめてどこかに移しているだけです。つまり、「移染」です。汚染水も同じです。薄めても毒性があることは変わりません。
 広島、長崎の被爆者は、今も苦しんでいます。子どもの甲状腺がんは原発事故と関係ないと言っていますが、発症に個人差があるために立証しにくいだけで、実際には福島県内で子どもの甲状腺がんは増えています。50代、60代でも放射能被害と疑われる病気で亡くなる人が出てきています。
 政府は、因果関係が証明できないと言って逃げていますが、実際に被害者がいるのです。健康調査の支援に力を入れてほしいと思います。政府は、隠したり、無視したりしないでほしい。人間より金という政府のあり方がはっきり見えます。

 被害者の切り捨てをさせないことが大事だと思います。原発事故の被害とはどういうものかを明確にすることです。「大したことない」にしてはいけないと思うのです。それでは本当の反省は生まれない。どれだけ多くの人の人生、コミュニティ、命を奪ったか、わかってほしい。
 事故によって起きたことを、直視しなければなりません。今、各地で行っている集団訴訟も、そのことを問うているのです。やれることを、地道にやっていくしかありません。被害を受けている人の命の尊さをわからせる。原発事故の被害の大きさをわからせる。今、これをやっておかないと、また同じことを繰り返します。国や東電だけでなく、世間の人々にも、原発事故をきちんと認識してもらいたい。福島原発事故を忘れてはいけない。
 今も、日本には40基以上の原発が存在します。大地震が起こる可能性もあります。こんな悲惨な生活をしている避難者の実態を知って下さい。私たちは、同情してほしいのではありません。原発がある地域のみなさんや次世代の人たちが同じ目にあわないために、原発事故を経験した者は真実を伝えていかねばなりません。
 みなさん、どうか、真実を見つめて下さい。原発避難者は、ここにいます。


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