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ワクチンと製薬ビジネス②しのぎを削るワクチン開発競争 安全確保は二の次

 ワクチン開発は通常、病原の培養や不活化・弱毒化などの基礎研究を行った後、動物による非臨床試験を行い、その後3段階に分けて臨床試験を行う。試験終了後、国による承認審査が行われ、承認されれば生産体制を整え、販売が始まる。
 このため、ワクチン開発にかかる期間は、最短でも10年は必要だと言われている。しかし、新型コロナに関しては、「世界的流行に対応するため」として、試験・承認手続きを大幅に簡略化。ワクチン接種を急いでいる。
 2020年11月、バーレーンが、中国のシノファーム社製ワクチンの緊急販売を承認。アラブ首長国連邦(UAE)がこれに続いたのを手始めに、2021年4月現在、16種のワクチンが1カ国以上の規制当局から認可を受けている。
 5月19日時点、各国の保健機関からの公式報告によると、全世界で13億回のCOVID―19ワクチンが投与されたという。
 富裕国が中心だが、中・低所得国に対しては、中国やロシア・インドがワクチンを供給している。
 ちなみに、日本の製薬企業でワクチンの承認を得ることに成功している会社はない。


 ワクチン開発には多額の資金と期間がかかるうえに、多数の人々に接種を行う関係上、巨大な生産力も必要となる。このため、資本力に優れた大企業が開発・供給を主導する傾向にあり、寡占化が進んでいる。
 2019年には、イギリスのグラクソ・スミスクライン、アメリカのメルク、アメリカのファイザー、そしてフランスのサノフィの4大企業で、ワクチン市場の79%のシェアを占めている。
 これにスイスのノバルティスを加えた、5大ワクチンメーカーが独占。ワクチン市場は巨大で、2018年には3兆9500億円の市場規模となっている。
 4月、WHOは、異なる技術と流通を持つ3種類以上のワクチンを開発するための総費用を80億米㌦と見積もっている。19カ国の80の企業や研究機関が、この仮想的なゴールドラッシュに取り組んでいる。
 ワクチン開発は、北米の組織がCOVID―19ワクチン研究の約40%を占めているのに対し、アジアとオーストラリアでは30%、ヨーロッパでは26%、南米とアフリカではいくつかのプロジェクトが存在するが、欧米企業の寡占状態だ。


 新型コロナワクチンの特殊性は、他にもある。製薬メーカーは、健康被害が起きた場合、賠償責任の肩代わりを政府に求めている。米保健福祉長官は、「ワクチン製造業者の過失、または誤った投与量を処方した医療提供者の過失について、故意の不法行為がない限り、賠償責任は除外される」として、製薬会社に免責権を与えた。日本も同様に製薬会社の損失を補償する制度となっている。
 税金で莫大なワクチン開発費用を負担したうえで、安全性確保の責任を免除する各国政府。巨大製薬メーカーは、、今や政府をも動かす力を持ち始めている。(編集部・山田)

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