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【性搾取語る】韓国の性売買経験者らがトークコンサート開催

韓国の性売買経験当事者・ネットワーク「ムンチ」が、自らの性売買経験を書いた書籍『無限発話~買われた私たちが語る性売買の現場』(萩原恵美訳、金富子監修、小野沢あかね解説、梨の木舎)が7月1日に出版された。これを記念して、7月8日東京、10日大阪でトークコンサートが開かれた。大阪での様子を取材した。

編集部 かわすみ かずみ

 午後5時に集合したスタッフ約15人は、実行委員を中心に打ち合わせを始めていた。受付や書籍販売などに分かれる中で、一番重要な役割があった。発言者のプライバシー保護を徹底するため、会場は録音・撮影が一切禁止される。そのため、会場内を見張る役割が必要だった。また入場時に身分証明書を提示し、参加者の本人確認が行われた。
 これほど厳しいチェックが必要なのは、性売買経験者へのバッシングや人権侵害が平気で行われるからだ。スタッフのほとんどが女性だった。大阪の運動ではよく見かける女性たちが、いくつもの運動を掛け持ちしながら、この企画を支えていた。
 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時の2004年、韓国では「性売買防止法」が制定され、買春者やあっせん業者などに懲役または罰金が課せられるようになった。これをきっかけに06年、自発的に当事者が集ってできたのが「ムンチ」だった。「ムンチ」とは、韓国語で「一致団結する」という意味があり、「誰も搾取されない社会を目指し、団結していこう」という思いがある。彼女たちのスローガンは「私たちの存在が実践だ」というものだ。そこには、韓国の市民運動の力強く、根を張った闘いの歴史が見えるようだった。
 ムンチメンバーが到着し、午後6時半からトークコンサートが始まった。会場には一般社団法人colaboの仁藤夢乃さん、日本で唯一の性売買当事者団体「灯火」のメンバーも来ていた。今回来日したムンチメンバーはジウムさん(創立メンバーの1人)、ジンさん(ムンチ政策チーム長)、ペクチさん、MKさん、ムムさんの5人。参加者はおよそ100人で男性も半数くらいいた。トークコンサートはムンチメンバーへの質問に答える形で行われた。質問は日本から韓国に行く買春男性の実態、日本の歌舞伎町を訪れた感想などだった。

韓国で買春する男たち

 証言によれば、韓国で買春する日本の男性の多くは最初は紳士的だが、性売買の場では変態的な行為を求めることが多かったという。また、「日本のアダルトビデオのようにやれ」という指示を出すこともあった。
 この証言に対して、会場では2つの反応があった。「みっともない」「恥ずかしい」と顔をしかめた人がいた一方で、おおらかに笑う人たちもいた。当初ムンチメンバーは「辛い、苦しい話が多いが明るく聞いてほしい」と会場に声をかけていた。だが、当事者はその反応をどう思っていたのだろう。
 東京の中心部にある歌舞伎町を訪れたムンチメンバーは、「無料あっせん所が多いことに驚いた」と語る。看板に女性の裸体写真が貼られていた。路地を入るとサラリーマン風の男性が10代と思われる女性と歩いていた。誰も止めないのが不思議だった。歌舞伎町に向かう電車の中で、ホストと思われる男性をたくさん見かけた。「ホストはあっせん業者と変わらない」と、ムンチメンバーは言う。あっせん業者がホストクラブを経営しているケースも多く、性売買女性をホストクラブに行かせて金を使わせ、性売買をしないと借金が返せないように仕組むこともよくあるそうだ。
 多くのあっせん業者は、女性たちの売り上げから食費や部屋代を差し引いたり、欠勤するとペナルティを取ったりする。1日10~20人も相手をして、それでも暮らしが成り立たない。
 『無限発話』の中では、韓国の性売買について書かれている。韓国では、「条件デート」(日本の援助交際にあたる)や集結地(日本で言う風俗街)などがある。多くの女性たちはあっせん業者や店主から理不尽な額の借金を背負わされ、働いても返しきれず、他の店に流れていく。
 ムンチは、「これが女性たちを搾取するシステムだ」と主張し、「性売買は社会構造を変えないとなくならない」と訴える。

日本と韓国の性認識の違いは何か?

 ムンチメンバーのある女性は、友達の彼氏によって集結地に売られた。必死に働いても前払い金が返せず、死のうと思った。最後の砦と思い、女性団体に電話して保護された。数年前、性売買の現場に戻りたいと思ったが、団体の支援もあって留まることができた。
 日本でもそうだが、多くの女性たちは一度離れた性売買の現場に戻ってしまう。それは、社会で生きていく術がないからだ。証言の中には、「若い頃から性売買をしていたので、電車の乗り方や通帳の取り扱いもわからない人もいた」というものもあった。ムンチはそういう人々の受け皿となり、自活するための支援や相談所を設けている。
 また、女性たちはなぜ自分は性売買をしたのか、他の選択ができなかったのか、性売買とは何なのかなど、対話を通して考え続けている。彼女たちはこれを「再解釈」と呼ぶ。
 これが大変重要で苦しい作業と言える。だが、再解釈によって性売買の本質や構造的な搾取など、多くのことが見えてくる。
 日本と韓国の性売買対策の違いは、もちろん「性売買防止法」があるかないかが大きい。日本では、性売買防止法もなく、放置されている。当然、性売買をやめても生きる術はない。一般社会で、面接に行って「風俗店勤務」という前職の女性を採用する会社はない。本人も書くことはできない。
 連帯アピールでは「灯火」のメンバーと仁藤さんが発言した。「灯火」の女性は、少年院を通じて仁藤さんに出会った。幼少期から親の暴力などに苦しみ、生きるために性売買の現場に行った。死ぬか、性売買か。お金が必要だった。でも、尊厳を踏みにじられ、自分を大事にできなかった。仁藤さんに出会ってからも何度も元の世界に戻った。「ムンチメンバーに勇気をもらっている」と涙を流していた。
 仁藤さんは、「日本の人たちは、本当に苦しい思いで発言している当事者の気持ちを理解できていない。大変残念だ」と述べ、この場は安全ではない、と危惧した。
 この日、主催者が90冊程用意した『無限発話』は53冊売れた。最後に本を買った男性は「多くの人に広げたい」と語った。トークコンサートを聞いてどう思ったか、と尋ねると、「簡単に語ることはできません」と言って去っていった。

『無限発話』(梨の木舎)

(人民新聞 2023年9月5日号掲載)

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