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住民投票条例制定か、林市長リコールか 2つのカジノ誘致反対運動 フリーライター 谷町邦子

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 菅義偉首相の選挙区がある神奈川県横浜市では、現在、IR・カジノ誘致に反対する運動が、2つ行われている。IR・カジノの是非を問う住民投票条例制定のための署名(9月4日~11月4日)と、林文子市長のリコール署名(10月5日~12月5日)だ。
 住民投票に向けた署名に力を注ぐ日本共産党神奈川県委員会と、住民投票に加えリコールにも受任者として参加する社民党横浜市連合の森ひでおさんに、運動の意義や現状について話を聞いた。

 住民投票条例制定のための署名は、「カジノの是非を決める横浜市民の会」をはじめとする市民運動とともに、立憲民主党、共産党、社民党などの政党が取り組む。一方、リコールは主に「一人から始めるリコール運動」という政党によらない団体が署名を集めている。運動を展開する期間が10月から11月初句まで重なっており、摩擦が生じているようだ。
 また、9月25日に議会において、市長が住民投票は誘致に影響を与えない、国の方針の中で進めると発言。そして、地方議会では議員定数の12分の1以上の賛成で条例案が提出できるのだが、86名の横浜市議会において、カジノ誘致反対の野党系の会派の議員は立憲・国民フォーラム(20名)日本共産党(9名)なので、条例案を出せたはずだ。「なぜ今、住民投票条例制定のための署名なのか」という疑問の声もある。 
 日本共産党神奈川県委員会には、住民投票とリコール運動との対立についてたずねた。「多くの市民の方々がさまざまな思いや立場で運動にかかわっておられることであり、政党として住民運動の内容についてコメントすることは差し控えたい」と、回答を得ることはできなかった。
 重ねて、市長が住民投票の結果はIR・カジノを左右しないと明言した今、住民投票のために署名を集める意義についてどのように考えるかについて質問。すると、「住民自治と民主主義を踏みにじる林市長の発言は許しがたい」と憤りとともに、「それだけに圧倒的な市民の世論で市長も市議会も包囲していくことが大事だと考えています。横浜市に民主主義を取り戻すたたかいとして、党派を超えた住民投票条例制定の運動に全力をつくしたいと思いますし、必ず成功させたいと思います」と、住民投票条例制定に向けての思いを語った。
 住民投票については、IR・カジノを止める手段であるとともに、市民の世論を市長に表明し、民主主義による市政を取り戻すための方法だと捉えているようだ。現在、団体としてリコール運動には関わっていないが、「日本共産党は賛成の立場」とのことだった。
 社民党は横浜市議会に会派を持たないものの、住民投票条例制定のための署名集めを行うとともに、リコール運動にも受任者として参加している。社民党横浜市連合の森ひでお氏に疑問を投げかけてみた。


 市長による住民投票に関する発言に加え、社民党が発行する社会新報2019年9月25日号には住民投票について「直接請求できても、議会が否決したり、住民投票を『骨抜き』にする可能性もある」と記載されている。住民投票の限界について理解している社民党横浜市連合は、どのようにとらえているのか。
 森さんはまず市長の発言について、「市民を無視すると言っているに等しく、地方自治の根幹を否定する看過できないものです。カジノ反対の市民の声を無視して、カジノ関連予算4億円を可決した横浜市議会も同じです」と、市長だけでなく横浜市議会のあり方についても言及。
 その上で、「市長や市議会の意向にかかわらず、住民自治の本旨として市民の声を市政に活かすべきという住民投票を求める運動は、意義があると思います。住民投票には法的拘束力が無いことが欠点ですが、市民に広くカジノ誘致の問題を呼びかけられることができて、世論を喚起することができると考えます」と答えた。カジノ誘致反対への世論を盛り上げていくことも、住民投票の意義だと考えているようだ。
 さて、リコール運動については、「市長や市議会の意向に左右されない、住民が持っているハードパワーがリコール請求」と認識していて、カジノ誘致阻止のために住民投票とともに成功させる必要があると語る。
 森さんはツイッターにて「カジノ阻止のために社民党横浜市連合は、9月~住民投票署名、10月~市長リコール署名に取り組みます」と投稿。発言については「10月8日に社民党横浜市連合は署名簿を受け取り、リコール署名募集を開始しています」とのことで、時期をずらして両方に尽力しようとしているようだ。
 リコールを進める市民運動は、住民投票とリコールが混同されるなど、期間が重なったことによる市民の混乱についてSNSで投稿している。署名を集めるなかで、そのような状況を経験することはあったのだろうか。
 「同じような署名だと思う市民も多いと感じます。街頭署名での説明で理解を得ることはなかなか難しいですが、できる限り説明していきたいと思います」と回答。実際に混乱は起こっており、その対応に努めているようだ。
 横浜市議会に会派を持つ立憲民主党神奈川県総支部連合会にも、以下の質問をしてみた。
 ①横浜市の立憲・国民フォーラムの議席数なら、住民投票条例のための条例案の提出が可能だったはずだが、住民投票という方法を選択したのはなぜか。②住民投票条例の制定に向けた署名集めは11月初旬までだが、その後、リコール運動に立憲民主党神奈川県連として参加する予定はあるか。③林市長自身が住民投票の結果はIR・カジノを左右しないと発言しているが、IR・カジノについて住民投票をすることの意義をどのように考えているか。④リコール署名を集める市民団体との対立について。
 だが、どの質問にも回答を得られなかった。
 取材後の10月16日、定例記者会見にて、林市長は「市議会に諮った結果、(住民)投票が行われることになれば、当然その結果を尊重する」と発言。2017年の市長選で白紙とした時同様、態度を翻している。
 カジノ誘致に反対する横浜市民の意思を結集させ議会に届けるか、林市政・カジノ誘致にダイレクトにNOを突き付けるか。住民投票条例制定のための署名集め、リコール運動は異なる意義をもって実施されている。それぞれが独立した手続きであり、署名・受任者という形で意思を表明できる。

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