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連載 コロナ と地域医療 コロナ禍が暴き出した「行政改革」のひずみ 差し迫る「地域医療崩壊」大阪府豊中市会議員 木村 真

 新型コロナの感染拡大が止まらない。私の地元・豊中でも、8月14日現在でPCR検査陽性者は204人を数えている。うち3分の2が7月1日以降に確認された方だ。緊急事態宣言の頃をはるかに上回るペースで、感染が拡大している。幸い、ほとんどの方が軽症あるいは無症状であり、すでに178名が回復したとされている。とはいえ、比率は少ないが重症者もいるのだから、このまま感染が拡大し母数が増えていけば、重症者も増え、医療崩壊へと至る恐れが高い。重症者が増えると、瞬く間に医療提供体制は破綻する恐れがある。
 そもそも、行革の嵐によって、感染症対策の最前線である保健所の数が、1990年の850から2020年には469と、半分近くに減らされてきた。地方衛生研究所の職員数も大幅に減らされており、これでなんとか感染症対策ができてきたという方がよほど不思議だ。
 「医療崩壊」と聞くと、コロナの感染が爆発し、医療機関がパンクして充分な医療を提供できなくなり死者が続出、霊安室があふれ、埋葬も間に合わない…といったイメージをする人が多いと思う。実際、日本でもその恐れがあることは述べたとおりだ。
 たとえば市立豊中病院は、「地域医療支援病院」「二次救急医療機関」「地域がん診療拠点病院」の指定・認定を受け、大阪府北摂エリアの診療所や中小医療機関・病院からたくさんの患者を受け入れてきた。24の診療科を持ち、一般病床数599、外来患者は30万人/年、手術は5500件/年、救急で15000人。患者の4分の1は市外在住者で、地域医療全体を支える重要な拠点病院である。その豊中病院は「指定感染症医療機関」でもあり、普段から感染症の流行に備えて一般病床とは別に14床の専用病床を確保していたが、コロナの感染拡大で、府の要請により45床に拡大した。
 しかし、物理的なスペースと、医師・看護師の配置の関係で、たった45床のコロナ病床を確保するために、一般診療約600床が、なんと半分の300床にまで減らされた。当然、他の病院から患者を受け入れることなどできない。緊急性のない手術は全て先送り。実際、市内の私立病院に入院している私の知り合いが、血液性の病気と診断され、豊中病院へ転院を打診したところ、「コロナ対応で精一杯で受け入れできない」と断られた。それでも手術を1年も先送りにはできない。
 豊中病院だけでなく、箕面でも吹田でも、公立病院はもちろん済生会や日赤病院など「準公的病院」のうちの相当数がコロナ患者を受け入れているはずで、恐らく豊中病院と同様に一般病床は大きな制約を受けているに違いない。コロナ患者の受け入れについては公表されていない所がほとんどなので、詳しいことは自治体議員にすら知らされていない。しかし地域医療体制には、全体的に重大な影響が及んでいる。
 たとえ運よくコロナの感染爆発を防ぐことができたとしても、今と同じ医療体制が1年以上続くことになれば、コロナ感染しなくても、普通の病気の治療が間に合わなくて亡くなったり、重篤化する人が激増することは明らかだ。もともと日本は諸外国と比べて人口当たりの医師の絶対数が少なく、病床数を確保できたとしても医師の数が足りない。そこへコロナ患者に医師を重点配置すれば、一般診療体制は簡単に崩壊してしまう。
 結局コロナ感染拡大は、もともとのこの国が抱えていたひずみを暴き出したということだ。
 文明史的なスケールの大きな話はともかく、この30~40年ほど吹き荒れた新自由主義の嵐は、「行財政改革」という名の下に、公共領域を私企業に譲り渡し、金もうけのネタとして好き放題に荒らし回ることを許す「規制緩和」を進めてきた。そしてそれを、少数とは言えない市民が支持してきた。中曽根にも小泉にも、安倍や橋下維新一派にも、「選挙」や「世論調査」のレベルで言えば、私たちはそこそこの支持を彼らに与えてきた。そのツケを今払わされようとしている。
 終息の目途がまったく立たない今、「コロナ後」を語ることは難しいが、間違いなく言えることがひとつある。それは、「コロナ前に戻ってはならない」ということだ。コロナ禍は、私たちにとって、試練である一方、時代を転換する絶好のチャンスでもある。
 よく似たチャンスを、私たちはすでに9年前東日本大震災・フクシマ原発事故で経験した。世界の少なからぬ国が、脱原発へ、再生可能エネルギーへとシフトしたが、この国はいまだ原発にしがみつくばかりか、あろうことか輸出まで企んでいる。私たちもそれを許してしまっている。同じ愚を繰り返してはならない。

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