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【韓国】任期中の「朝鮮戦争終戦宣言」目指す文大統領。半島和平後に訪れる「最大で最後のビジネスチャンス」とは

YouTubeチャンネル「在日ラジオ PodcastKorea放送局」 サラム西田


ーー文在寅大統領 「終戦宣言再」提起

 11月13日、イ・スヒョク駐米韓国大使が記者団との会見で「終戦宣言の文案をアメリカ国務省と意見交換中」と語ったことが報道された。終戦宣言をめぐっては、韓国の文在寅大統領が、9月の国連総会で南北コリアと米中4者による終戦宣言を(昨年に引き続き)提起。2日後に(北)朝鮮側ナンバー2の金与正副委員長が、「相互の尊重が約束できるなら、終戦宣言も含めた南北首脳会談も可能」と発言した。
 日本では相変わらずマスコミが朝鮮のミサイル発射のたびに大きく報道して、憲法「改正」の必要性を宣伝している。戦争できる国を目指す自民党や日本維新にとって、「北の脅威」は消滅してはならないのだろう。
 しかし、4年前の米朝シンガポール首脳会談の時のように、再び日本だけが東アジアでカヤの外に置かれる可能性も低くはない。外務省は、とりわけ安倍政権が都合のいい官僚を出世させてきた省庁だが、そのせいか、朝鮮戦争終戦という「周辺事態」での非常に大きな国際情勢の変化に対しても、正確な情報判断能力もなくなっているのかも知れない。

ーー韓米関係に劇的変化

 中国にとって、来年2月の北京冬季オリンピックを前に韓半島和平を演出できれば、習近平体制の安定にプラスとなる。また朝鮮側も、来年3月の韓国大統領選挙で保守派有力候補の尹錫悦候補が勝利することになれば、南北関係は敵対的関係に後戻りしてしまう。だから表面上で文政権を批判しようとも、文大統領の任期が来年5月に迫っているため、2月頃までに終戦宣言締結まで進めたいはずだ。
 「アメリカが障害になるだろう」という意見は多いが、今回のレポートで強調したいのは、韓米関係が《上下関係》から《水平の協力関係》に劇的変化を始めていることだ。すなわちアメリカは韓国政府の要請を簡単には断れない点だ。10月下旬には、国際会議の最中に重要な動きとして、文大統領とバイデン米大統領が相次いでローマ教皇と面談した。

ーー米中対立のはざま 進む韓米経済関係

 文在寅大統領、バイデン大統領ともにカトリック信徒だ。文大統領はローマ教皇に韓半島の和平への協力を要請、ローマ教皇も「招待があれば、喜んで平壌に行く」と表明した。
 文大統領との会談後のローマ教皇とバイデン大統領との会談でも、韓半島の和平について話した可能性は十分にある。それから2週間後の11月13日に冒頭で触れた「米韓政府で終戦宣言の文案を検討中」の駐米韓国大使発言が報道された。
 韓国の国際的地位の向上については、10月25日号に寄稿した「日韓逆転の現実」でレポートしたが、今回はアメリカと韓国の関係変化について述べたい。
 5月にバイデン大統領と面会した文大統領は、大きな歓待を受けた。その背景はアメリカが韓国に「気を使う」関係が生じている点だ。韓米首脳会談では韓国の企業人も同行し、韓国でのモデルナワクチン生産、アメリカ国内に韓国企業の電気自動車用バッテリー工場建設などの合意がなされた。
 中国との対立が深まるアメリカだが、気候変動対策とコロナ対応においてアメリカは中国に後れを取っている(電気自動車も生産1位は中国)。米中対立下にある中国との関係を優位に運ぶためにも、アメリカは韓国の協力が必要な状況だ。アメリカは、中国の「一帯一路」に対抗する「世界デジタルインフラ網」建設を同盟国と共同計画中だが、その中心を韓国企業が占めると言われている。
 さらにこのようにアメリカが韓国に「気を使っている」にも関わらず、韓国は対中国軍事同盟である(日米豪印の)QUAD等には参加していない点も重要だ。これを日本では「韓国は仲間外れ」などとネットなどで揶揄されている。しかし自国民を危険にさらす対中国軍事同盟には加わらず、アメリカと対等的な関係を構築した文政権。対して武力衝突の際の「鉄砲玉」の役目を率先して引き受けた自民党政権。どちらが賢明だろうか?

ーー特権階層の利害に死活をかける保守側大統領候補

 アメリカが戦争国家であることは否定しようもない事実だ。「だが台湾海峡紛争もありうる今、むしろアメリカは朝鮮半島では和平、経済的利益を望む」──それが筆者の分析だ。
 何よりも韓半島和平は世界市場で「最大で最後のビッグビジネス」をもたらしうる。
 韓国から朝鮮を通して鉄道と高速道路が繋がれば、陸路で欧州まで人も製品も移動できる。韓国企業の技術力と地下資源の豊富な朝鮮の可能性、さらに優秀な労働力についてジムロジャースなどの世界的投資家も数年前からその可能性を言及している。筆者はグローバリズムに対して批判的立場だが、「平和の見返り」として国際資本が巨大な利益を享受するならば、それは良しと考える。
 朝鮮側の指導者にとっても、「米国の巨大な資本が(インフラや鉱山開発などで)朝鮮に投資することがむしろ安全保障になる。すなわちアメリカも資本の損害を考えて戦争は避けようとする」との考えは、説得力を持つのではないだろうか?
 韓国駐留米軍の撤退や、北側の核の放棄が前提条件となれば、朝米ともに終戦宣言を飲まないだろう。だが「終戦宣言を締結して段階的に両者が経済制裁の解除と核施設の解除を行っていく」等の条件ならば、来年3月までの締結は十分にありうると予測する。

ーー南北平和共存で限りない経済発展

 最後に、最大の障害となっている勢力が韓国内の既得権益勢力であることを伝えたい。
 来年3月の大統領選挙の「国民の力」(保守系の最大野党)公認候補・尹錫悦が、早くも「終戦宣言反対」を表明している。一方で韓国の若い世代の多くは、南北の統一にはほとんど関心を持っておらず、李在明・民主党候補も「統一よりも終戦宣言による南北の平和共存で、限りない経済発展のチャンスが生まれる」と強調している。李在明候補の訴えは的を得ている。
 現在、大統領選挙は尹錫悦候補優が優勢なのは事実であり、それはメディアの尹錫悦への好意的報道が原因だ(現在13%から6%以上、民主党李在明候補をリード)。
 「政策なし、政治経験なし、品格なし、疑惑だらけ」の尹錫悦候補だが、大手韓国メディアは尹候補の問題点を一切報道しないで「与野党関係なしに捜査した検事総長で公正な人物」と報道している(日本でいうと、コロナ死亡者ダントツ1位の大阪で、メディアがそれを報道せず、維新が大人気というケースによく似ている)。韓国でもマスコミの報道を信じてしまう有権者は40%余りはいるということだ。
 マスコミ、保守党、司法界の「積弊の鉄のカルテル」と呼ばれる韓国の特権階層が、自らの特権を守るために、死活をかけて抵抗をしている。今回の韓国大統領選挙をそう分析するのが最も正確だろう。
 キャンドル革命のあった5年前のように、韓国国民の政治的熱気が沸騰するかどうかかカギだ。

写真:10月、文大統領(左)と会談するフランシスコ教皇(右)


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