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学校や介護現場で進むデジタル化 恒常化する不安定雇用と生産低下

カトリーナ・フォレスター&モイラ・ウェイゲル
 出典:『ディセント』2020年秋号

 コロナ禍でデジタル・テクノロジー企業が台頭している。グーグル、アップル、セールスフォースは、感染追跡アプリを開発。パランティアもパンデミックに目を向け、米国保健社会福祉省や欧州各国の国民医療サービス機関から契約を勝ち取った。
 ウェブ会議サービス提供会社の「ズーム」は、専門職階級が自宅で友人や家族と交わりながら勤務できるリモート・ワークを提供。ケアコムは、ベビー・シッターや在宅介護者を斡旋するサービスを売り出している。グーグル・エデュケーションは、少数の金持ち家庭の児童対象に学校閉鎖中に勉強できるサービスを売っている。
 配車サービスのウーバーやリフトは、公共交通機関利用を避ける人々を顧客にしてネットサービスを拡大している。食品配達サービスのインスタカートは、買い物に出かけるのを控える人々の利用で利益を上げている。
 アマゾンは、従来のコンピューターの販売拡大(世界のパブリック・クラウドのほぼ半分はアマゾン・ウェブ・サービスを利用、アマゾン創設者のジェフ・ベゾスの儲けは今年1月以降850億ドルも増えた)に加えて、数十万人を臨時雇用して教科書からトイレットペーパーまでの宅配事業を展開している。
 デジタル企業は単なる独占企業体を越えて、我々の日常生活の大再編を行う社会インフラとなっている。
 これに伴って数字に基づくアルゴリズム的管理・支配が増大している。かつての公的領域へのテクノロジー会社の進出と、公的領域と私的領域の民営営利企業化がすすんでいる。
 近代生活がもたらした基本的分離 ― 仕事と家庭、公と私、生産と再生産 ― がまだ解決されていないのに、コロナ禍で混乱を深めている。オフィスが閉じられ、多くの家庭が臨時オフィスに変えられた。社会的再生産費用が急速に公から私へ移行している。
 学校給食や会社の費用で作動していたエアコンの費用が、家計負担となった。リモート労働者は経営者に代わってコストを支払うか、立替として前払いしなければならない。インターネットをアップデートし、いつでもビデオ通話が可能なようにパソコンをオンにしておかねばならない。
 規制がないので、FAANG(アメリカの主要IT企業・フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグル)は、ズームなどのデジタル企業と並んで、目に見えない力をどんどん大きくしている。ユーザーは、新テクノロジー封建体制のもとで、デジタル・プラットホームで生活。データ提供に加えて年貢まで納めるのだ。

 「ソーシャル・ディスタンス」は、新特権階級の印となっている。コロナ危機が始まったとき、コロンビア大学ロースクール教授のジェディアダイア・ブリットン=パーディは、「身を引く余力」をコロナ禍階級システムの社会的地位を表す印だと表現した。その特権構造が定着しつつある。初期のリモート・ワークは、今や多くの経済部門で常態化している。しかし、現場では、金のために仕事に戻ることが優先され、労働者の安全や健康の危機は無視されている。
 「身を引く」政策は公的政治なのだが、同時にそれは極めて私的で個人的な種類の政治でもある。つまり「身を引く余力」の有無によって自分が何者であるか、身体的心理的にどんなリスクを背負わなければならないか、自分のアイデンティティとリスクに対する能力が家庭、職場、それを囲む力関係の構造によって規定されていることを明らかにする政治なのだ。
 テクノロジー賛美者も反対者も、オートメーション化によって我々が馴染んできた労働が終焉すると主張しているが、コロナ・パンデミックはその逆現象を見せた。オートメーション化できない仕事が多いことを見せたのだ。
 特に健康・介護部門の労働に関するテクノロジーの限界を明らかにした。職場に運ぶ肉体、肉体の持主のアイデンティティ、背負う歴史、夢がその限界とぶつかった。そこから新たな政治的溝、職場に肉体を運ぶ労働者とリモート労働者の間の溝が生まれた。
 この相違は昔からの階層区分の継続ではあるが、そうとばかりも言えない。
 医師や多くのジャーナリストや一部の大学教授も、清掃作業員や看護師と同じように、直接職場へ足を運ぶ。医療事務者、企業弁護士、コンテンツ・モデレーター、そして現在では一部の教員がリモート・ワークできる。
 しかし、リモート・ワーカーも出勤しなければならない人も、同じように何らかの職の不安定に見舞われる可能性がある。
 今のところリモート・ワーカーは特権に恵まれ、自由と楽しさを満喫しているかもしれないが、それが有利な特権として永続化する保障はない。やがて自分たちの仕事が分割され、専門的スキルが解体され、下請けとしてアウトソースされる憂き目を見る可能性がある。
 最も恵まれたリモート・ワーカーは、自分の時間を自分でコントロールできると思っているだろうが、やがて、彼が依存しているテクノロジーが彼を支配するようになる。仕事中も仕事外も彼を監視・管理するメカニズムとなるのだ。
 労働をコンピューター・プラットフォーム化することで、資本とリスクの新配分が行われるが、それによって昔ながらのアイデンティティ差別形態が強化・再創造されている。介護労働もデジタル・プラットフォーム化されている。
 そのオンライン空間が感染リスクに関する人種差別的考え方を方向付け、家事労働と子育て労働を担う黒人や有色人への社会的監視を強めている。学校やデイサービス閉鎖で、ケアコムのようなデジタル会社の利用が急増している。
 アマゾン・メカニカル・ターク、ウーバー、その他のデジタル・プラットフォームの労働者の新労働様式と言われるものは、旧労働様式の再生産にすぎない。
 出来高払いのデジタル仕事は、昔の衣料労働者の自宅での請負作業と同じである。効率的数字による管理が、収入の安定した雇用の可能性を奪っている。コロナ危機で不安定雇用と生産低下が恒常化するであろう。
(翻訳・脇浜義明)

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