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【カジノ止めた横浜市】25歳最年少の署名請求代表者に聞く、「カジノ阻止」成功の秘訣とは

2021年8月、横浜市長の林文子氏(当時)が、IRを誘致する方針を表明した。林氏は2017年夏の横浜市長選でカジノ誘致は白紙だと主張し、約6割の票を得て再選された。それが一転、誘致方針を表明したため、これを阻止すべく市民は立ち上がった。最年少の請求代表者として、住民投票の実現に奔走した「カジノの是非を決める横浜市民の会」の不破有さん(25)に話を聞いた。 (編集部)

 横浜の市民運動関係者の中には、住民投票ではなく市長リコールの一本方式を主張する人もいましたが、あり得ないと思っていました。カジノ誘致の白紙化を撤回したことは問題ですが、それ一つとって辞めさせるのは「自分たちの気に食わないから辞めさせる」という発想でしかありません。住民投票の署名が集まったにも関わらず、市長はこれを無碍にした、それでやっと「市民の声を聞かない市長だ」という証明ができ、リコールの理由が生まれるのです。

 私たちは、まず署名を集めることができる受任者を増やすため、街頭でよびかける活動を始めました。当初3カ月を予定して受任者集めをしていましたが、コロナもあり延長し、当初の予定から半年ほど遅れて署名集めをスタートさせました。
 受任者集めも苦労しました。「署名するのは良いけど集めるのは嫌だ」という人や、受任者の個人情報が役所で閲覧できてしまうことに抵抗がある人がいました。
 そうした中で集まった受任者へは、署名期間がスタートすると同時に署名用紙を郵送しました。ほとんどの人は了承してくれましたが、一部の人は受任者登録を本署名と勘違いしていて「何回やったらいいんだ」と怒ったり、時間がたって受任したこと自体を忘れてしまった人もいました。
 最終的に受任者は1万人ほど集まりました。この段階で私は、本署名が住民投票の直接請求に必要な法定数の6万2604筆を上回るだろうと確信しました。あとは署名の数をどれだけ増やせるかだと考え、30万筆集めるのを目標にしました。
 私たちは署名の請求代表者を23人立てました。受任者は自分の住んでいる行政区の住人しか署名を取ることができませんが、請求代表者は横浜市の18行政区全ての署名を受けとることができます。団体の中で一番動ける人を署名代表者にし、どの現場にも必ず請求代表者がいるようにしました。するとどの区の住民であろうと署名を受け取れるようになります。その代り、署名簿の上に請求代表者全員の名前と住所と印鑑を押さなければいけないので、その作業は大変でした。

ーー直接請求を「悪しき前例になる」と侮辱

 署名運動の中ではさまざまな人と出会いました。「カジノがダメならパチンコはどうなんだ」と言ってくる人もいました。パチンコという既にあるものと、これからできるカジノを同列に語ることはできないと思っています。カジノは、収益の多くが外資に流れますから、この点でも違いがあります。
 集まった署名の有効数は19万3193筆でした。住民投票条例の直接請求に必要な法定数の3倍以上集まったことになります。
 その後は、市議会議員と面会して住民投票実施に賛成するようお願いして回りました。自民党のある市議は面会時、「私と皆さんで考え方が違うから賛成はできないが、これだけの数の署名が集まったことは受け止めます」と言っていました。話し合いは終始和やかに進み、笑い声さえ出ました。しかし議会での採択時、その市議は「代表民主制の下で議会が結論を導いていくべきだ。住民投票を行えば議会制民主主義の根幹を揺るがしかねないあしき前例につながる」とスピーチを行いました。これには私も頭にきましたし、傍聴していた人からも「ふざけるな!」などの声が出ました。
 住民投票の審議は、2日で終わりました。否決されるのは予想していたので落ち込むことはなかったです。その後も街宣などでカジノ反対の活動は続けました。私は来年の横浜市議選でもカジノ誘致を選挙の争点にするつもりでした。しかし市長が代わったので、その必要もなくなりました。私たちの署名運動はカジノへの賛成・反対で分けることはありません。「賛成反対のどちらでも良いから、カジノの是非は市民で決めよう」と呼びかけていました。

(5月5日号掲載)

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