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『発酵食堂CHIMACHIMA』 ながたちささんに聞く どんな個性でもみんなで共に 働ける場所を目指して

(げいじゅつ と、ごはん スペースAKEBI)木澤 夏実

 大阪の阪急桜井駅近くに、異国情緒と懐かしさとが織り交じったスパイシーな香りが漂ってくる。昨年10月にオープンした、自家製スパイスカレーの持ち帰り専門店〈発酵食堂CHIMACHIMA(ちまちま)〉だ(以降、ちまちまと表記)。油・小麦粉・化学調味料は使用せず、7種のスパイスと少量の唐辛子をブレンドして丁寧に煮込まれた風味豊かなカレールウと、ふっくら炊き上げられた粒ぞろいのお米。作り手たちの実直な人柄が滲み出たカレーを求めて、老若男女が代わる代わる来店し、温かい笑顔で帰っていく。立ち寄ると、もれなくごキゲンになれる小さな食堂。その誕生についてお話を伺った。

 ながたさんたちが店名を決めた理由はふたつ。ひとつは、かねてから発酵食品の持つ健康効果に注目しており、それらを積極的に取り入れながら心身を健やかに保ちたいという思いから。
 店内では、彼女たちが吟味して選んだ雑貨や食品も販売されており、時期によっては丁寧に作られた味噌や納豆も並んでいる。
 そしてもうひとつは、自分たち自身も時間をかけて他者と交わり変化していく、その様子を「発酵する」という表現になぞらえたからだ。地域社会の中でさまざまなひとと関わりながら、みんなでぷくぷくと発酵し合って、食堂という「居場所」を育てていくイメージを込めてデザインされた店名のロゴもポップで素敵である。
 「ひとも場も、発酵して美味しく、楽しくなるねん」と笑いながら語るながたさん。欲張らずに決めたことだけを丁寧に実行していくその姿は、自然界の酵母菌がゆっくり熟成していくリズムと、どこか似ている。
 ながたさんたちは2011年から約9年間、桜井駅前にある市場内で〈ちまちま工房〉という豆腐屋を営んでいた。

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 身体に障害をもったひとも、性格上の個性や特性、こだわりが強いひとも、みんなで共に働ける場所を作りたいという思いで活動を開始した当初、まずは活動拠点として選んだ箕面市桜井の地域に既に根付き、人々の生活を支えている商売に関わりたいと考えた。そんな中で駅前市場にある老舗の豆腐屋さんとのご縁が発展し、古い豆腐工房の設備をそのまま借りて豆腐屋を開業したのである。
 最初の5年間は豆腐屋の師匠を交えての過酷な修行期間で、その後4年は少数精鋭の工房メンバーの努力と、周りのひとたちの支えで場を育み、毎日買いに行きたくなるような美味しい豆腐屋として市場を活気づけていた。
 しかし設備の老朽化には抗えず、周囲に惜しまれつつも2020年3月に豆腐屋は閉店。既に事務所として借りていた場所を改装し、豆腐屋時代から関係の深かったカレー屋の友人にさまざまなアドバイスを貰いながら、7カ月後には持ち帰りカレー専門店として再出発を果たした。
 具体的な事業内容は、その時々に巡り合ったご縁で決めてきた。事業の前に「わたしたち」の存在があり、その在り方を大切にできる働き方を自分たちで考えて決めていくことが重要なのだ。何屋さんにでもなれる柔軟さと、何屋さんになっても変わらない「ちまちまらしさ」の絶妙なバランスの良さは、彼女たちの大きな魅力のひとつだ。

スパイシーチキンカレー


 現在働いているメンバー3名のうち1名は障害をもっており、カレーのトッピングに使用する食材の準備など、比較的急を要さない仕込み作業を主に担当する。働ける時間帯・こなせる仕事量に個人差があるのは当然で、決して障害の有無だけによるものではない。作業が得意な人は苦手な人を助け、休む事情があるひとの代わりに他の人が働き……。メンバー間で逐一相談し合いながら、全員が深く納得し合った状態で働うことができる環境づくりに努めているという。
 明るく気さくにお話ししてくださるながたさんだが、彼女の使う言葉の選び方と説明の方法は、実はとても慎重である。例えば、彼女は決して「~すべき」とは言わない――自分の掲げる「正しさ」の裏側に、権利や尊厳を踏みにじられてしまう誰かの存在を常に意識してしまうから、とのこと。何かしら問題が起きたときに、特定の個人に対して絶対的な是非を問うのではなく、自分や彼らを取り囲む社会の在り方について「それってどうなの?」と問い続けることが重要だと、彼女は言う。
 2020年の春から猛威を振るい始めた新型コロナウイルスだが、冬の寒さが厳しさを増すことと比例するかのように、感染拡大の状況も深刻化している。都市部で発令された二度目の緊急事態宣言や、急ピッチで進められるワクチン開発…。日本だけでなく、世界規模であらゆる対策が講じられており、日々変化の連続だ。
 しかし、指令を順守するだけで本当に安全なのだろうか? 多数派の意見と行動が「正しさ」だと安易に受け入れるのではなく、その裏側に隠された情報や、言いたいことを言えずに我慢しているひとの存在を想像し、自分自身で考えて行動を決めることが必要ではなかろうか。コロナ禍以前からずっとそうやって進む道を選んできたながたさんの語りに、改めて考えさせられた。
 カレーを買って受け取る時間はほんの一瞬かもしれないが、是非ともちまちまへ行き、ながたさんたちに会ってみてほしい。明るくマイペースな彼女たちの接客から分けてもらえる明日への希望と、持ち帰ったカレーを食べたときに感じる豊かな風味と温もりを、離れて暮らす読者の方々と共有できれば、と思う。

住所:箕面市桜井2-8-15電話:072-735-7901
営業:11:00〜15:00     17:00~19:00
定休日:土日祝
最寄駅:阪急桜井駅
徒歩3分


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