書評『平成・令和 学生たちの社会運動 SEALDs、民青、過激派、独自グループ』ジャーナリズムに誠実さを

評者:直接行動 橘内 優一

 本書は、主に2015年から20年までの「学生による社会運動」が網羅的にまとめられたものである。なお評者も6章「独自に活動を続ける学生たち」にて紹介されている。
 まず本書を概説する。
 近年さまざまな社会問題がありながら「多くの学生はおとなしかった」とされているが、学生が社会を良くしようとしなかったわけではない。学生の運動が社会を良くしうるという著者の立場から本書は書かれている。
 紹介される運動は表題のとおり、大きな注目を集めた「SEALDs」、長い歴史と多くの同盟員を持つ「民青(日本民主青年同盟)」、「過激派」こと新左翼党派、またそれ以外の各運動体が「独自グループ」としてまとめられている。その他、運動の担い手が多い大学、全国各地の運動、さまざまなテーマの運動を取り上げている。後半には、学生の政治意識の分析や学生による社会運動の課題も記されている。
 社会運動に関する記述は、社会的注目度の高い運動に偏ってしまったり、党派的な思い込みが強く出てしまったりする場合が多い。その点本書は、SEALDsといった注目度の高い運動、民青や新左翼党派といった党派を紹介しつつ、全国各地の運動や無党派の各運動体をも幅広く紹介しており、評価できる。もちろんすべての運動は紹介できないが、ここまで網羅的に記述したのは社会運動研究やジャーナリズムへの貢献と言えよう。
 しかし、本書には大きな問題がある。本書に登場するA氏は仮名が用いられているものの、特定可能な形で出身学校名や活動歴、その他重大なプライバシーや虚偽の事実が無断で掲載された、という点だ。A氏は著者と出版社へ抗議した。評者の取材に対しA氏は、「活動歴を積極的に隠す意図はなく、運動や仲間はもちろんリスペクトしている。ただ、私の人としての尊厳を踏みにじる暴露行為は許せない」とコメントした。一方、著者の小林氏は評者の取材に対し、A氏から抗議を受けたことは事実としたうえで、「事前にAさんへ掲載確認できなかったことを後悔し、申し訳なさを感じている」とコメントした。
 本書は、社会運動研究やジャーナリズム、そして社会運動への貢献となる内容だ。しかし、本人の了解なく特定できる個人情報が掲載された点は残念だ。評者も運動の担い手として、ジャーナリズムに誠実さを求めたい。

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