いつかの6月

互いに期待を充分に積み重ねた結果、
男はキセルで改札を抜けてきた。
女は渡された切符の領収書を受け取らなかった。

部屋にあった饅頭と茶を飲み、風呂へゆく支度をすると女の視線の先、男がおもむろに灰青緑色の局部をさらして数歩彷徨った。

男は温泉旅館の二杯目の白飯を注文したが手をつけることはなかった。

部屋の明かりを消すと女は男の手を取りその手の甲へ口づけをした。
男がその手を送った女の手を持ち直すと男の局部へ導いた。

男と女は汗ばみながら5時間あまり無言の念仏を唱えた。

6月の明けが暗い部屋の障子を青白く染めた。

虫のように水を摂り朝風呂から出れば、
岩山深く沢の音から朝霧の隙間を幾重もの燕が舞っていた。

伸びたカセットテープのような日中の陽だまりに男と女は改札に立ち、もう会わないであろう再会を約束した。

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