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平塚タクシー強盗殺人事件

十三回忌

今年の五月二十日で事件発生から12年が経過する。
警察の懸命な捜査にも拘わらず未だ事件は解決の糸口すらみえてこない
流しの場当たり的な犯行のようでもあり、
一方で計算しつくされた凶行であった様にも感じる。
被害者である荒井庄次郎さん(事件当時62歳)が亡くなって12年経過
ということで今年は十三回忌にあたる筈である。
時の流れの無常さは豊田の記事でも触れたが、それはこの事件でも同じ
今年こそ無事に解決されることを心から願わずにはいられない。

平塚という街

平塚市は神奈川中部に位置し七夕祭りでつとに有名。所謂、湘南地域としても中部にあたり、西進すれば別荘地として名高い大磯町、東には「サザンオールスターズ」ファンの聖地として知られる茅ヶ崎、北に進めば厄除けで名高い「寒川神社」がある寒川町。「祭り」「神社」ときて「ギャンブル」というキーワードは平塚という街を語るうえで重要不可欠なものなのであるが後述する。平塚駅周辺は駅南口に大きな商業施設や競輪場が立ち並ぶ一方で、被害者が事件当日客待ちをしていた駅北口を西方向に向かうにつれ歓楽街が広がり夜が更けるにつれ、路上には何人もの呼び込みが立ち県内有数の夜の街としての顔を覗かせてくる。こういった一面もまた平塚という処なのである。そしてI会のお膝元としての一面もまたあることも付記しておきたい。

事件概要

事件発生日:2010年5月20日 3時頃
被害者:荒井庄次郎さん(当時62歳)相模中央交通所属運転手
死因:一酸化炭素中毒死
凶器:カッターナイフ様の刃物
被害金額:当日の売上金数万と財布にあった所持金(額不明)
メーターの示していた金額:¥2240
走行距離について
事件当時のタクシー料金が初乗り運賃2kmまで¥710
(現在は1.2Kmまで¥500)
以降301m毎に¥90であるとすれば
2km+(301×17)m=7.117kmで計算は合う
矛盾はないが、以下の可能性をも含む料金計算であるべきで
現場までの正確なルートはいまをもって判明しておらず、
現場まで数回、信号待ち以外での停車があったとされているので
時間の経過による加算分もあったものとして多少の上積みは予想されるが
当時の毎日新聞の記事によると
最後の客が乗ったJR平塚駅前から発見現場までの運賃とほぼ一致するため
とあるのでこの計算結果で現実に近い線までは出せているだろう。

現場

平塚市横内地内の東海道新幹線の高架下

このひとっ気の全くない土手付近を選んだというのが、
この事件の本質ではないかと感じた。
農道からも高圧線やら工務店の資材置場に視界を遮られ、
ここにそれがあるとは認識しにくいことも計算には入っていただろう。
言ってみれば、この場所自体が「素人」っぽくないと感じる所以である。
昼間に農道を自転車が通ることはあっても現場のほうまで入ってはこない
所謂、人を寄せ付けない場所でありそういう意味でここに優る現場はない。
車に乗っていようが、ここには長居もしたくないし、できない。
事件現場をいくつもそして何度も訪れたが、初めて当地を訪れたとき
直感的に…だが、
これより先には入らぬほうがよいと思い近くを通過するにとどめた。
背筋が凍るというが、そういった感覚に囚われたのはここと
多摩マンホール事件の現場その二つだけである。
夜に訪れたのも、失敗としか言いようがない
現場に入るはずが気が引けてそのまま通り過ぎたその先は農道というより
只の凸凹道である。徐行しても底を激しく打つし
下手をしなくともオイルパンに穴が開きそうだ
ここは一見が来るような場所ではない
寧ろ、人を拒んでいるというほうが相応しく思えてくる
そんな場所にタクシーをどうやって誘導しえたのか?
事件直前、なにか断れぬような空気というか雰囲気を
犯人が醸し出していたのかもしれない?
繰り返すが「背筋の凍る」様な場所である。
都合四度目の訪問で初めてというかなんとか現場前までいき、
実際に高架下を潜り反対の土手道に入りかけたがそこでやめた。
それが限界だった。
現場付近の路面状況については平塚のタイトルでいくつか
キャスの録画を公開しているのでそちらをご参照頂きたい。

時系列

5月20日

2時20分頃 平塚駅北口にて犯人と思われる乗客を乗せる
2時40分頃 発見現場となる高架下にタクシーが停まる
3時頃 近隣住人が現場近くでタクシーと白い車が停まっているのを目撃
3時30分頃 無線から異音 携帯に連絡するも不出 GPSで車両の位置を特定 同僚が現場に急行 車内が燃やされ煙が充満した状態で発見される 会社を通じ、通報
3時45分 警察が現場に到着 トランク内より遺体を発見

遺体の状況

首に切り傷(致命傷ではない)
腕に防御創あり
トランク内で横向きになっていた
首から出血した状況
死亡推定時刻は5月20日3時頃

補足情報

現場の手前200m地点で料金支払いの際に事件発生したと推測される
その際、被害者は携帯を捨てられ、トランク内に閉じ込められた
現場である高架下までは犯人がタクシーを移動させたと考えられている
犯人の指紋が検出されたとの情報はない
3時の目撃情報から犯人は複数犯の可能性が高い
当日の平塚の天気は雨~曇り 気温は18.5~19.4度
未明から朝9時頃まで数ミリ程度の小雨が降っていた

被害者荒井庄次郎さんについて

家族構成は妻と長女と長男・次男
長年勤務した製紙会社の倒産を経てタクシー運転手に転身
転身四年目の出来事であった
次男は事件当時美大生で父の無念さを伝える作品を卒業時に制作している
家族が把握しているトラブルはない
職場からも目立ったトラブルの報告はないとされている

動機について

考察してみる
①目先の金欲しさ…月末ということを考え合わせれば支払いが集中する時期でもあり、金銭的に追い込まれて…というのは充分にありうる話で短絡的な犯行の可能性も否定できない。競輪場が実際あるわけで、ギャンブル絡みでの資金欲しさにということも考えられる。因みに事件当日には平塚競輪の開催の初日でナイターでのレースが組まれていた。
②怨恨…3時の目撃情報の内容がどこからみたものか現場というがどこに停車しているのを見たのか詳細が不明なこともあり、これが高架下ということではなく農道上のものであるとすれば、犯行時間の現場近くに別のタクシーと白い車が停車していたという可能性もあり、この場合金品強奪とは別の目的も考えられ、例えば商売敵による怨恨の線等を疑う…が、ひょっとすると現場に急行した同僚の車両と警察車両を誤認しただけの可能性も感じないわけではない。
③把握されていないトラブル…②の線をより深堀するとこの可能性に辿り着く、転職後としては概ね順調であったこと自体が嫉妬ややっかみの対象となったり、夜の繁華街での酔客或いは店とのいざこざから始まり、駐停車含めた近隣住人等との交通トラブルや支払い時のもめ事、特に競輪場への送迎時特に締め切り時刻に間に合わなかったなどという言いがかりまで、とかく恨みを買いやすい地域密着型の商売がゆえに名前や顔或いはナンバーを覚えられたりということはあったかもしれぬ。本人には身に覚えがなくとも相手にはあるということは多々あることで、それが発端になって…ということも視野に入れねばなるまい。
特に交通トラブルに関しては昨今増加したというより、顕在化したというほうが正しいだろう。たとえそれが他人からしたら手前勝手でつまらない理由だったとしてもだ。ことによると、本人も気づかぬうちになにか大きなトラブル、例えば縄張りやしきたりを侵したとして標的にされてしまっていたということがあったとしても不思議はないのかもしれない。

今ある情報から犯行当日に起きたことを考察してみる
まずどういう理由で現場まで行かせたかだが
a目的地として横内辺りまで行ってくれと伝えた
b現場付近の店まで行くように伝えた

c夜釣りにいくので土安橋まで行ってくれと伝えた
おそらくこのあたりではないか

特にcに関しては、実際に平塚駅北口で喫煙所にいた運転手の方に
「この時間くらいからでも夜釣りにいきたいから乗せてなんていってくるお客さんはいたりするんですか?」と訊いたら答えは「いるよ」とのことで裏は取れている。その土安橋には現場から北に少しいくだけで辿りつける
「渋田川」に「歌川」と「笹張川」とが合流し渋田川の本流を形成する地点にあり、フナ釣りのメッカとして関東有数の釣り場だそう。
それに釣り客を装えば色々と都合がよさそうである。
例えば、手袋をしていても怪しまれないしフィッシングナイフを携帯していてもおかしくはないからである。

ここをもって、ひとっ気のない場所にも疑いなく被害者を誘導できただろう。
そして、信号待ち以外の数回の停車のいずれかにおいて共犯者を
拾わせた可能性もあると思うし、それ以外については現場に誘導するために「運転手さん、ここ入って」とか「そこを曲がって」と指示をしたためと考えている。3時の目撃情報が正しいとすればと仮定したうえでのはなしだが、料金精算の為に停車させた場所には既に白い車に乗った共犯者が待ち構えていたのかもしれない。清算中或いはその後どのタイミングで被害者に切りつけたのかはわからないが、被害者が車外に逃げることを想定して保険というかトラップを仕掛けたのかもしれないし、トランクに閉じ込めるには複数人のほうが容易い筈で私はその可能性が高いように考えている。
只、単独犯でも犯行自体は可能であり、白い車も犯人があらかじめ現場近くに逃走用に用意しておいたものかもしれないし。付近に駐車できるポイントは結構あるし、実際現場近くの農道に路駐している車は決して珍しくはないが、3時の目撃情報が現場に急行した警察車両等を誤認したものであれば、住宅地もそうは遠くないことから、近くに住んでいた可能性も否定はできない。
大筋はこのいずれかの筈でこれを分けるのは、動機①②のどちらか或いは③かということの様に考える。
実際は往々にして動機①②のケースが多い。③はあまりにも壮大なスケールの話になってしまい現実的に考えれば動機①の単独犯という可能性が高いだろう。

動機③の様な展開はあるか

動機③の線を考えていて仮説としては興味深いが現実性に乏しい感は確かにあるだろう、だが切りつけるだけならまだしも何故トランクに閉じ込めた上に放火までする理由があったのだろうか?現金を奪えばその時点で目的は達成できた筈で、事件の露見を防ぎたかったからとしても殺める必要性までがどこにあったというのだろう
更にこの事件、複数犯の犯行の可能性は捨てきれないのだからして
多くて十万程度の金目当てに殺人まで犯す必要性が果たしてあるのか
逆に金の問題ではないからこその凶行なのか
この辺がどうもスッキリしないが
なんにも考えてない場当たり的な犯行であるが故
ということですべて説明がつくような気もする。
「そんな取るに足らない理由」が動機だったとしたらだが

最後に

この事件を追って二年くらいになるだろうか
神奈川の未解決事件の現場としては一番多く足を運んだ場所であり、
解決する可能性が高いと感じていることと
現場のもつ非日常性という観点からも
これからも追い続けていきたい事件のひとつではあるが、
仮に③の様な大事ではなくとも、一筋縄ではいかない複雑な事情が絡んでいるように思えてならない。
繰り返すが、トランクに閉じ込めるまではまだしも、
何故、運転席周りに放火までする必要性があったのか

これこそ明確な殺意の表れである。
このモヤモヤがどうにかなるには事件が解決される以外の方法はない。
十三回忌を目前に五月雨の中、子供たちの成長を見届けることなく
閉ざされた生命。その無念を想うと胸が痛む。
被害者のご冥福を心より祈り
そして事件の解決を強く願いつつ結びとしたい。







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