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金沢スイミングインストラクター殺人事件

~すべてはこの事件から~

未解決事件というジャンルに興味をもつようになってもう二十年近くになるが、きっかけは皆さんご存じあの「TVのチカラ」なる民放番組である。やがてネットで詳細を調べたり、事件の現場に足を運ぶようになり、資料も集めると同時に法知識とともに捜査学や犯罪学も学べるからと大学にも入りなおして今に至ると。気づかれている方も多いと思うが、私の筆名も歌舞伎町の住人でありヘヴィスモーカーとして知られる某探偵が由来である。

以前は、「凸歓迎」という画期的なスタイルで事件系配信されていた方がいた。その番組に何度か凸者としてあがり、それが縁で何人かの方々と独自で考察番組を企画し実際いくつかの事件を取り上げて配信をした。そんな中凸者デビューも配信者デビューもこの事件を題材とさせて頂いたこともあり、私にとっては思い入れの深い事件でもある。
その理由として、この事件は「現在なら解決可能」であり「考察材料」も公開情報だけである程度揃っている稀な案件だからといえよう。今回、以前から所持していた未解決殺人事件ファイル(以下田宮本)に加え、捜査関係者による電子書籍のペーパーバック版(以下、関係者本)を入手できたのでより詳細な情報もお伝えできることになった。これもひとつの機会だろう。

まずは事件概要から振り返りたい。

~事件概要~


1992年9月30日深夜

被害者が門限を過ぎても帰宅しないことを不審に思った家族が勤務先だけでなく退勤した同僚にも問い合わせたものの皆一様に「とっくに退勤した」との返事で埒があかず、母と姉が外出している父に連絡後、思いつく範囲を捜索し始めた。
10月1日未明
0時50分頃、被害者勤務先より50m程離れた職員専用駐車場にて助手席側でシートを倒し仰向けの状態で目を閉じている被害者を発見。眠っている様にもみえたが首を絞められた痕跡があり、温もりもかんじられず息もしていなかった為、営業中向いのマンション1Fのカラオケスナックに「娘が死んでいる!」と駆け込み店主に通報を依頼(0:53)。

~被害者C~


年齢:事件当時20歳
血液型:A
経歴:石川県松任市(現白山市)矢頃島町出身
地元の県立高校卒業後、金沢市三十苅町のスイミングクラブにコーチとして勤務していた。父親は松任市の水泳協会副会長を務め、姉も高校時代は選手であり、本人も水泳部のマネージャーを務めていた。自宅から勤務先までは直線距離にして約5㎞で片道15分程度といわれている。
会員・父母からの評判もよく、素行については特に問題はなかった上に、被害者宅は22時迄の門限があり躾は厳しかったとされ、異性関係も特に目立ったものはなかったものの、事件数ヶ月前位から勤務先に被害者宛の若い男からの電話が何度か入り、被害者本人も笑顔で対応していたとの情報もある。

事件当日の様子:通常通り
18:45 タイムカードを打刻後に退勤
19:15(19:20田宮本) いつもとは逆方向に駐車場から出る被害者車両を同僚男性が目撃
20:45(20:50田宮本) 被害者車両がいつもの駐車位置にあるのを同僚が目撃
21:25 同僚3人も帰宅時に被害者車両を目撃
23:00 被害者家族が勤務先に架電し30分後に同僚にも架電
10/1 0:20 2人の同僚が退社時に被害者車両を確認

ここに空白の時間が約90分間存在する訳である。

~その他の目撃情報~

①19:30 有松交差点にて車輌目撃情報
②20:40 大額3丁目付近(後述)
③20:50 駐車場から北方向へ逃走した若い男性(後述)

このあたりか
①に関しては運転席側男性でパッセンジャーは女性だったというシンプルな情報だが、②に関しては詳細「すぎる」内容の為、ここでは割愛すると共に実際、捜査陣を大いに悩ませ混乱させる素となったらしい(関係者本)ことは記しておきたい。③に関しても1㎞移動したという距離感含め犯罪心理学で云うところの「事後情報」で盛られてしまった感を疑わないでもないので、ここは参考程度にとどめておきたい。
この手の目撃情報でひとつだけ補足する情報があるとすれば

④9/17 駐車場にて被害者と車内に一緒にいた


ところを目撃された「若い男性」ではなかろうか。約2週間前ということも気になるが、目撃者は職場の同僚と考えるのが自然であり、従ってスイミングクラブ関係者とは面識のない人物ということになる。だとするとこの人物が勤務先以外で接点のある人物であると同時に「電話の主」であった可能性は高いと思われる。要は表には出ていない交際相手だった可能性含め、それが故に何らかのトラブルが発生することもありうるし、結果事件に発展したのではなかろうか。
さて、ここで関係者本の素性について説明をさせていただく。要は事件発生から数年、そして時効までの数年とこの事件の捜査に直接携わった元刑事による顛末記である。実際に読みすすめてゆくうちに、この事件について調べ始めた際に参考にしたネット記事の大半がここからの引用であることに気づいた。内容については、ここで感想文の類いを展開する訳にもいかないので、以前配信番組内で考察した内容を再現したい。

~事件考察~



まず、被害者は退勤後に駐車場で時間潰しの後、クラブの最寄り駅である北陸鉄道石川線乙丸駅に犯人を車に迎えにいく


現在の時刻表で19時台は

①野町方面19:24
②鶴来方面19:28

であるが地方の単線ということもあり事件当時のものともさほど違いはないのではなかろうか。この通りだとすれば19:15~20分頃までに被害者が駐車場を出たという目撃情報とも合致する。その後は運転を代わり、現場辺りで束の間の逢瀬をいつものように過ごしていたとき、何かをきっかけにして犯人が行為に及ぼうとするものの、堪らず被害者が車外に出た為、それを追うように犯人も車外に出ることになる。そこで決定的ななにかが起きたのではないか?それに怯えた或いは慌てた犯人が被害者を結果として殺めてしまったのではないかと考えている。
あと本来であれば、彼女がすぐ帰宅できるようにという配慮もあって自宅から500m程度しか離れていないこの場所をカーデートの場としていたのなら自然であり、犯人の生活圏も現場から徒歩圏内にあると考えていて、それは「関係者本」を読んでからも変わることはない。
恐らく犯人は被害者が職場以外の外部の人間との接点がほぼないことを考え合わせれば、既知の関係―例えば中学・高校で接点のあった同級生或いは先輩・後輩といったある程度の信頼をおける存在で当時金沢方面の大学・予備校に電車通学をしており、免許は取得済だが自分専用の車は与えてもらえず運転の機会には恵まれていない20歳前後の人物の可能性が高いように感じるのである。その為、週の何日かは運転の練習を兼ねた送迎を重ねるうちに距離がぐっと縮まっていたのではないか。だが恋愛と呼ぶにはまだ早い段階で程よい距離感というものが保ちづらくなっていたのかもしれず、犯人も女性の扱いについては奥手の印象をうける。例えば被害者の衣服の一部を殺害後に切りつけた行為も関係者本にあるように性犯罪を偽装する目的だったという可能性も確かにあるし、素人が玄人に逆らうのも野暮だとは思うが、一見奇怪にみえる行為も経験不足含めた性的好奇心からのことと考えるのが自然な様に思う。ひょっとするとある程度の行為までは許容したものの、それ以上は受け入れがたい一線というものがあり、犯人はそれを越えても問題はないと考え、いよいよオーバーオールを脱がそうとしたのだが、被害者はそれを頑なに拒否して車外に逃避した。その際にキツい言葉のやり取りや或いは「他に好きなひとがいる(できた)」等とこれ以上の関係を望まない一言もあったかもしれない。結果、なんだかよくわからないうちに被害者を殺めてしまい、失ってみて初めて止めどなく後悔の念が溢れ出たのではないか。皿というのも、関係者本によれば昼食の仕出し弁当だけでは足らずあとで食べるために持参していたとのことだが、或いは通勤時に犯人を拾った際に弁当として渡していたのではと考えている。そういった小さな既成事実の積み重ねから適度な距離感というもののバランスが崩れ始めていたのかもしれない。殺めてはしまったものの犯人も彼なりに真剣に被害者を愛していたつもりだったとは思うので感謝と悔恨の気持ちから被害者の膝上に最後の弁当を載せたように感じたのである。友達以上恋人未満という言葉があるがそういった気持ちへの疎さと温度差が生んだ悲劇だったのでは…という妄想レベルの憶測で考察のレベルには到底至らないかもしれないがどうかご容赦戴きたい。決して捜査内容に対し否定する意図はなく、あくまでも別の選択肢の可能性について考察した結果である。
縁石はずらすわ、斜めにとめるわで焦りもあっただろうが運転技術が未熟なのは疑い様もないし
衣服を切り裂いた刃物についても「ある場所」にあったものを取りにいった(関係者本)と考えられなくもないが、女性であれば予備をグローブボックス内に忍ばせていても何ら不思議なく、犯人もたまたまそれを見つけただけかもしれないので、さして疑問にも思わないのだが指紋に関する情報がカセットテープのもの以外でてこないのは不可解ではある。このタイムスケジュールからして拭き落としたとしても漏れはありそうでありその辺りも首をかしげざるを得ないのである。
この何かスッキリとはいかないモヤモヤ感はある程度、関係者本或いは田宮本にて解消はするが、同時に新たな疑念もまた同時に生じる。例えば、関係者本にある犯人が現場付近で遠回りした根拠なるものが、件の占い好き女性による「詳細すぎる」目撃情報に依るものであったりして、こういった「証言由来」の考察は前提条件が間違い或いは嘘まで行かずとも「事後情報」により脚色されてしまった代物なら全てがひっくり返る危険性を内包しており、周知の事実からのみ抽出されたシンプルな考察のほうが案外事実には近いということも往々にして有りえるし、肝心な部分を伏せざるを得ないのも仕方ないが、ある程度読者の想像力・常識力に頼らざるを得ない訳で、正直この辺りももう少し突っ込んだ説明や根拠なりは欲しかった。駐車場から殺害現場に至るルートの考察や逮捕までは至らなかったが、本ボシと思われる男とその根拠については流石という他なく関係者本の真骨頂であり、実際に手にとってお読み頂くのが宜しいと考える。
ここで私なりの仮説を付記させて頂くと
仮に犯人が駐車場に戻らねばならない理由があるとしたら

~仮説そしてエピローグ~

①現場の特定を遅らせる等捜査の撹乱
②敢えて被害者が早期発見されるように仕向けた
③乙丸駅に戻り電車で帰る必要性があった

これらに加えて

④泥だらけの為、そこにある着替えをとりにいった

可能性もあるのではないか 
これは関係者本における
遠回りの理由が、その近くに立ち寄って
あるものをそこで手に入れて
偽装工作をしようとした

という仮説を補足する考察であるが
豊田女子高生強殺事件の考察に於いても
泥だらけで目立たぬ様に被害者の
ジャージを犯人が着たという可能性も
選択肢にあるべきという考えていることを
付け加えておきたい

本書も願わくばもっと早くから入手したかったが、当時はカード決済の電子書籍版しかなく二の足を踏んでいたのだが、今回ペーパーバック版も発売され漸く手に入れた次第。実際に事件捜査を担当した筆者による証言含め資料としても貴重な一冊である。因みに田宮本は私の入手時から更に高騰しているが八戸女子中学生刺殺事件や多摩マンホール事件等を扱っており貴重な資料ではある。
最後に関係者本の終章にあるように
方針・プライドその他の理由により「間違いを認めない」ことでお蔵入りとなった事件は幾らでもあるし、しそうな事件も大抵はそれと思われるフシがある。この事件もそれなりの証拠・情報はあるし、関係者本にあるように4000人も調べる時間があるなら何故、身内に絞ってきちんと調べなかったのかという疑問もあるが、DNA鑑定もできるころには証拠がその能力を失ってしまっていたというお粗末の一言では済まされない顛末もあるわで、
これをあなたならどう考察するか
その一歩を踏み出すことが被害者への供養に繋がる唯一の路ではなかろうか

参照:「千穂ちゃん ごめん!」西村虎男著

「未解決殺人事件ファイル」田宮榮一監修


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