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打越町たばこ店母・息子殺人事件

事件概要

発生日:1999年1月31日(日)20:00頃~2月1日未明
被害者:安井喜代さん(事件当時78歳)智嘉さん(事件当時54歳)
死因:共に刃物で首を斬られたことによる失血死
死亡推定時刻:1月31日19時~22時頃
※通称安井商店事件
※智嘉さんは数年前より敷地内にある離れで暮らしていた
※凶器は発見されていない
※智嘉さんの手に防御創(切り傷)あり
※智嘉さんは掘り炬燵に頭を突っ込んだ状態で死亡していた
※喜代さんは智嘉さんに折り重なるように倒れ死亡していた
※第一発見者は近所に住む女性
※その女性は度々閉店後にもタバコを売ってもらっていた
※その際に勝手口から声をかけていた
※その日も二回ほど声をかけたが返事はなかった
※夜になり、勝手口の扉から10cmほどの隙間があることに気づいた
※そこから灯りがもれていた
※声をかけたが返事がなく、店内に入ったところ二人が殺害されていた
※子供は智嘉さん以外に息子三人 夫は十年ほど前に死別
※雑貨店的な性格の店でもあったとのこと
※数件のアパートも経営しており家賃は直接現金で受け取っていた
※その現金の大半は折り込み広告などに包み、所謂タンス預金状態であった
※金庫内にも約900万程度の現金が印鑑等と共に保管されていた
※金庫を荒らされた形跡はない
※困った人には金を貸す反面、家賃滞納時の取り立ては厳しかったとのこと
※20:30頃に北野駅方向に駆け抜ける靴音が聞こえたとの情報あり
※同じ頃、私道を挟んだ隣家の飼い犬が安井商店の勝手口方向に向け吠えた
※普段は大人しいがこのときは激しく吠えたという
※数日前に道路を挟んだ向かい側~打越橋から様子を伺う不審者の目撃情報
※30歳代~50歳代 ベージュ色の作業着姿
※現場から200mほど北東に位置する橋の上で白い不審車輌の目撃情報
※白色のメルセデスベンツとの情報も
※付近は現在に至るまで再開発が進む地域である
※その為、この安井商店も例外ではなかった
※事件の一年後安井商店は取り壊され、現在は駐車場になっている
※そこが安井商店であった名残は敷地内に残る私道跡くらいである

事件の記憶が薄れゆく現場

昨夏、多摩マンホール事件の配信後、そこからそうは遠くないことを知り
車で数十分くらいだったろうかこの現場にも足を運ぶことにした。
現場近くは区画整理がすすみ、事件当時とは大きく様変わりをしている。
のみならず、再開発は現在進行形で進められていることを知った。
続けて配信を開始したのだが、おそらくここが…とはいったものの犯行後に北野駅まで向かったとすれば、どこをどう通ったのか。事件発生当時は川沿いの一本道を行くだけのようにみえるが、町並みそのものが今とは大きく異なるのだから想像のしようもない。
こんな次第で、歯切れの悪い内容に終始せざるを得なかった上に
雑音が酷く、一回目の配信動画はお蔵入りとなった。
二回目も不審車輌が目撃された橋の上などにも行ってはみたものの、
肝心の安井商店方向には事件後に住宅が出来てしまい現場を直接みることは出来ず、どの角度でどれくらい店の様子が伺えたのか全て想像の域をでないわけで、仮に見えたとしても精々がシャッターが下りたとか灯りが消えた程度が確認できるにとどまるだろう。少々離れすぎではなかろうか。
そんな中でベージュ色の作業着姿の男が目撃されたであろう辺りから、現場方向を撮影してみた。それがテーマの画像であり、私のTwitterの背景画像でもある。スマートフォンで撮影した割に、雰囲気のある画像が撮れたと自負しているが、あまりにも変わってしまっていて地理的条件からなにかを導きだすことは容易いことではない。只、多少なりとも犯人自身も返り血を浴びていただろうから北野駅から電車で…という仮説には疑問を呈したい。だが現場の状況から事件そのものを考察するには有り余るほどの情報―考察材料が揃った事件でもある。従って今回はそちらを重視した内容にしたい。

考察

考察材料が揃っているとは言ってみたものの、いささか揃いすぎの感もある。疑い始めたら心に鬼を見るというが地上げの件といい、公開されていない情報のなかに多少のトラブルの報告があったのではないかと疑ってしまうが、それではキリがなくなるというものだ。ここはシンプルに与えられた情報のみで絞り込んでみよう。キーワードは
①月末
②現金
③一家団欒

この三つである。
月末は支払いの集中する時期でもあり、契約ごとの区切りでもある。
豊田の事件でもこのことに着目したが、なにかの事情でこの土地を離れた人物はこの母子の周囲にはいなかったか。見落としはないだろうが、
口をつけずに置かれたままの缶ビールがあったとしたらそれは犯人に智嘉さんが勧めたものの可能性はなかったか。
安井商店の場合、月末になれば家賃収入がある筈で、しかも現金でのやりとりしかなかったとのことなので、金銭目的であれば恐らくこのタイミングを狙うだろう。犯行現場にセカンドバッグが落ちていたことも被害者母子と犯人の間で現金のやりとりが絡む何事かの交渉の席だったとは考えられないだろうか?つまり、犯人はあらかじめ何らかの交渉事を喜代さんに持ちかけておく。例えば借金話、まとまった金額での交渉ならば、額が額だけに喜代さんも即答は避け閉店後に腰を据えた状態で、できれば息子も同席させたほうがよいと考えるはずで、息子が確実に家にいるだろう20時ぐらいを指定しするのではないか。寧ろ、年齢的にもそういった心配事から息子との同居を始めたのであろうことは容易に推察できる。そこで犯人は智嘉さんを同席させたうえで犯行を決行するにはどうしたらよいかと考え、借金以外であるならば家賃の支払い或いは、逆にまとまった金が出来たから返済を口実に、一家団欒の機を狙った犯行を計画したのであれば、渡りに船の展開だったのではないか。勿論、智嘉さんが入浴後に晩酌の習慣があることもリサーチ済みだっただろうし、酒が入ることも計算のひとつだった筈でその一瞬の空白を衝いた犯行ではなかったか。ここを以て地上げの類は考えにくい、これが仮に立ち退きなどの交渉だったとしたら流石に智嘉さんも酒は飲まずにおき気を許すことはなかった筈である。つまり、犯人は被害者母子とはある程度信頼関係があり、それまでは金銭的な信用を裏切ることのなかった身近な人物が犯人なのではなかろうか。以前から相談事含め母子にはなにかと世話になりその際、酒食を勧められて馳走になったこともあったのかもしれない。その信用をいとも簡単に裏切ったのだとしたら背筋の凍るはなしである。

動機は金銭か怨恨かそれ以外か

ここで犯人が約1000万ほどの現金の一部にしか手をつけなかった理由を考えてみよう。
①最低限の現金でよかった

②返すあてのない借金の証文を取り返すことが目的だった
のか
③金銭以外が目的だった

大筋はこの辺りではないか。最低限の現金を狙ったのだとしたら、急に金回りがよくなっただの出処不明の金を持てばそれだけで疑いがかかるだろう人物で仕事の契約満了などで遅くとも2月一杯をもって東京を離れることが決まっていたと仮定する。そういう人物が過去にも同様の犯罪を犯したり、それが発覚してムショ暮らしを余儀なくされたことがあったとしたら猶更であろう。数十万から五十万程度を奪ったのも経験則的に妥当な金額がそれだったのかもしれない。単に隣家の犬が吠えだした為に慌てて逃走した可能性もこれに含めるとする。
②は状況的にお銚子が炬燵横に片付けられていたことから、卓上でなにか書類の類を広げた可能性がある点に着目し、例えばこの場合、借金の返済をしたいと母子にもちかけ、日曜の20時にアポイントをとる。その席で二人一緒のところを殺害し、証文を奪えばそこで目的達成である。この場合現金奪取は二の次なのは明確で、①のパターンに見せかけるために気持ち程度の現金を失敬し、強盗の犯行と偽装して完了であるが問題なのは③の場合でこれは少々厄介な話となる。

まず怨恨の線は身内含めその対象は無限に広がるが、トラブルの話は特に報告されていないことからもその可能性は薄いと考える。そこで気になるのが犯行の手口だ。犯人は最小限の動きで二人に致命傷を与え、血痕も広範囲に飛び散らせることもなく現場をあとにしている。時代劇の話ではないが刃物で刺すのではなく、急所を斬りつけるやり口はさながら暗殺剣法のそれであり、武道や軍事訓練を経験した可能性は非常に高いものと思われる。そういう人物は母子の周辺にいなかったか。そうでないとすれば、これは玄人の犯行で、例えば営業マンを装いなにがしかの商談をもちかけ「是非、息子さんも一緒に」等とアポイントをとり、後は粛々と計画を実行しいずれかに消え去ったとすれば、玄人の犯行という可能性も視野にいれねばならなくなるだろう。少々飛躍しすぎている感もあるが、素人の犯行にしては手際が良すぎる印象を受けるからだ。個人的には②の線を推したいがそれとて確証はない。ここが未解決事件たる所以である。

この事件の情報を集めるにあたって、一番胸を打つのは遺体の状況ではないかと思う。喜代さんは倒れた息子をみて咄嗟に覆いかぶさろうとしたのだろう。だとすればそれは母親としての本能であり、そして母子の情愛に他ならない。母親というものは子を持つことで強くなる。鳥ですら巣の雛を守るためには自分より何倍も大きな獣にでも命がけで立ち向かうものだ。
況や人をやである。
その親子の情愛を踏みにじった犯人に逃げ得をさせてはならない。
決して。
そしてひととして。

参照:「未解決殺人事件ファイル」田宮榮一監修

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