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20代最後に脳梗塞の手前の状態(TIA)になった話その1 倒れてから救急車で運ばれるまで

 20代最後の1か月、会社のトイレで半身麻痺になり倒れ、救急車で運ばれて検査を受けた結果、一過性脳虚血発作(TIA)と判定が出た。救急車搬送も入院も、生まれて初めてのことだらけだったので、振り返りながら記録してみる。

倒れたのはトイレの個室だった

 とにかく眠かった。
 2019年10月頭の昼下がり。大好きなお店で贅沢な洋風のランチを食べて、会社に戻って仕事をしていたのだけど、とにもかくにも眠かった。あまりに眠かったので自販機でエナジードリンクを買って飲んだが、眠気は一向に弱まらない。
 「トイレで少し休もう…」そう思い席を立った。トイレに座ってふっと目を瞑ったと思う。それから気が付いたら体の右側が重くなり、ずるずると床に倒れた。眠くてボーっとしていて、「あ、倒れた…」くらいにしか考えられなかった。
 少し経って立ち上がろうとしたところ、左足は動くが、右半身がすべて重く、床から離れない。左手で地面から体を起こそうと力を込められるも、やはり全身は動かせない。顔も右頬は床にくっついたままだった。左手で右ひざを立ててみる。だらりと右に落ちる。まるで他人の足のようだ。今思い出すと気色の悪い感覚。
 何度か立ち上がろうとしてはどうにもならないことを知り、「あ、なんかヤバそう…」と相変わらずぼんやりではあるが、良くない状態なのが掴めてきた。だが結局どうにも動けないので、「今は頑張っても無駄だな。とりあえずもう少しこのままにしとこう。」と思った。自分でもなんとも諦観的であると思った。
 女性トイレの個室は二つ。私がこうしている間にも、隣の個室に人が入っては出ていく音がした。バタバタと忙しない所作の音がしたとき、仲のいい先輩だろうなと察しがついた。声を出して助けを求めようかと思ったが、まだ大丈夫かな、という根拠のない気持ちがあったし、下半身をさらけ出した状態なのも見せられないなぁと思った。そう、パンツをずり上げようにも右半身が石のような重さで床に接着しているので上げられないのだった。

言葉にならない

 トイレがまた静かになった時、声を出してみた。「あ」という音は出せる。が、話そうとしてみたところ、言葉にならない音になった。「あー、やばwdrtrtrfre・・・」と行った感じ。これも「なんかヤバそう」という気持ちに拍車をかけたが、変わらずボーっとしたままでそこまで焦りを感じることができなかった。普段はすぐパニックになるタイプなので、パニックになれないのも症状だったんだと思う。そこまで思考ができなかった。
 倒れてから20分くらい経ったころだろうか。やがて、だんだん右膝を立てられるようになってきた。少しづつ上半身を起こして安定してきたので、手で便座を押さえながら、左足で踏ん張って立ち上がった。右足には力は入らないものの重くはなかった。パンツをはいて、ズボンをあげて、右足を引きずりながら個室から出て壁伝いに手洗い場まで歩いた。鏡で顔を見たら、どうにもなっていなかった。こういう時は自分の姿を認めたら少し安心するものだなぁと思い、じっと見つめた。そうして少しずつ歩いて、執務室に戻った。

勝手に動く不気味な右手

 執務室に入り、「どうしよう、とりあえずこの状況を誰かに聞いてもらわなければ」と思いながら歩き始めたところ、すぐに一番手前の年上の女性社員が「どうしたの?」と声をかけてくれた。「あの、私、足が、手が、動かなくて、、、」とすごくゆっくり喋った。「座りなさい」と椅子を持ってきてくれ、掛けて説明を続けた。
 「倒れて、右手が、動かなくて、、、」そう話していると動かなかった右腕が今度は吊り上がって、ひとりでに動き出した。人と喋っているのに、その前を私の右腕が何度も横切る。上に下に、右に左に、肘がぐりぐりと動き、手がひらひらと舞う。顔にもぶつかってくる。一度停止したシステムを再起動したみたいだな、と後になって思った。その時話をしていた社員は、「動かしているのに動かせないってどういうことだろう?」と不思議に思っていたらしい。
 ボーっと話をする私のまわりに、人が集まってきた。みんな心配してくれているのだろうが、なんとなく「見世物じゃねぇぞ」という心持ちだった。「救急車呼ぼう。」とかなりスピーディに判断してくれた方がいてありがたかった。今でも命の恩人の1人だと思っている。そうしてみんなの顔をボーっと見回しながら、やってきた担架に乗せられて救急車へ運ばれた。続きます。

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