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ディスクロージャー誌から見るネット生保のLTV/CAC(2021年3月末/ライフネット生命/SBI生命/楽天生命/アクサダイレクト生命/メディケア生命)

こんにちは。お金のマッチングプラットフォーム"お金の健康診断"を提供する株式会社400Fで代表をしている中村仁です。

業界分析シリーズですが、今回は2021.3月末時点でのネット生保のLTV/CACをみていきます。全社のディスクロージャー誌が発行され、統一基準で比較することができます。前年度から大きな変化があり、非常に興味深いです。

ネット生保についてはライフネット生命、SBI生命、楽天生命、アクサダイレクト生命、メディケア生命をピックアップしています。

- ネット生保5社のLTV構成項目の数値比較
- ネット生保5社のCAC構成項目の数値比較
- ネット生保5社のLTV/CAC、前年度比較

1. ネット生保におけるLTV/CACについて

上場企業にとっては自社の評価を引き上げることや、投資活動を正当化するために投資家にわかりやすい指標を示すことは非常に重要です。最近はSaaS全盛期であり、例えばロボアドバイザーのWealthNavi社もIR資料においては自社のビジネスをSaaSビジネスのような指標で示すことでアセットマネジメント業界において相対的に高い評価を得ています。

同様にネット生保業界でもライフネット生命が自社のLTV/CACを公開し、非常に話題になりました。今回のレポートでは、ライフネットが自社のLTV/CACを公表してから1年が経過した中で、どのようにその数値が変化したのか、そしてLTVとCACの各構成項目はどのような状況なのかをネット生保5社で比較します。

なおライフネット生命が公開したネット生保におけるLTV/CACの概念はこちらになります。

LTV(生涯顧客価値)は契約1件当たり年換算保険料、平均保有期間、粗利益率を掛け合わせます。CACは営業費用から新契約件数を割ります。

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2. LTVの構成項目

では、早速ネット生保5社のLTV構成項目をみていきます。なお、各社同じ基準で比較をするため、ライフネット生命の数値はIR資料のものではなくディスクロージャー誌から他社と同様の数値を参照しています。

保有一件当たりの年換算保険料においてはメディケア生命がトップで保有契約件数、保有契約年換算保険料ともに他社を凌駕しております。また、2位のSBI生命は1件あたりの保険料は高いですが、絶対数は最も小さくなっております。

解約率については各社6-7%程度ですが、楽天生命だけ10%台と高くなっています。

Gross Margin Rate(粗利益率)に関しては楽天生命が65.5%と非常に高くなっております。なお、SBI生命は保険金・給付金等の支払額が大きく粗利益率はマイナスとなっております。保有1件あたりの年換算保険料が高いメディケア生命は責任準備金等組入額が高いため、粗利益率は26.3%と低くなっております。

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3. CACの構成項目

次にCAC(顧客獲得費用)の構成項目を見ていきます。CACは楽天生命が28,974円と圧倒的に安くなっております。こちらは楽天経済圏からの流入の効果があると想定されます。またSBI生命も3万円台と安く、こちらもSBIグループの連携が効いているのではないかと想定されます。

メディケア生命は営業活動費用が他社と比較して圧倒的に高くなっており、大手生命保険系列としてのコスト構造なのだと想定されます。ライフネット生命は積極的な広告展開などを行なっていて事業費用が高くCACは7万円台と楽天生命やSBI生命の倍以上となっております。

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4. LTV/CACの状況

以上を踏まえたネット生保の最新のLTV/CACはこちらになります。純粋なLTV/CACだけを見ると楽天生命が8.5と圧倒的な数値となっております。会社の規模としては小さいですが、アクサダイレクト生命は5.6と健全に経営活動をしていることがわかります。ライフネット生命は3.7となっており、一般的なSaaS企業において求められるLTV/CAC>3を上回っておりますが、メディケア生命は下回っております。メディケア生命は責任準備金への組入額などに変化が生まれて粗利益率が改善したらLTV/CACも飛躍的に改善する可能性があります。SBI生命は粗利益率がマイナスであるため算出不可となっております。

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なお、下記は昨年度のLTV/CACになります。楽天生命、アクサダイレクト生命、メディケア生命は数値を相対的に高く改善しています。

楽天生命は平均保有期間が伸びたことが寄与しており、また保有1件あたりの年換算保険料も10%ほど伸びています。アクサダイレクトは平均保有期間と粗利益率の改善、メディケア生命は平均保有期間の改善が寄与しています。

ライフネット生命はLTV/CACは微増となっております。なお、SBI生命については保有1件あたりの年換算保険料が10%ほど落ちており、平均保有期間は大きく改善しています。

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5. まとめ

以上、ネット生保のLTV/CACを比較してきました。再度に参考としてライフネット生命の上場来の株価を見てみましょう。

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ライフネット生命については株価が長期間に渡って低調でしたが、2020年の海外公募なども含めて攻めの経営に転じました。結果として、ここ数ヶ月は落ち込んでいますが、株価は2012年の上場直後を上回る水準で推移しています。

LTV/CACがどのような効果を発揮しているかは不明ですが、投資家に対して自分たちの経営効率をわかりやすく説明する材料、そして投資活動を理解してもらうためには非常に良いと思います。

ネット生保は生まれてから10年以上が経過しましたが、ここからさらにどのような変化をしていくのか引き続き注目です。

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