童話:マナーに厳しく!

これは、みんなにとって大事な、マナーのおはなしです。

まもる君は、小学一年生になったばかり。元気印のくいしんぼうで、なんでもがつがつ食べちゃいます。

「お口がソースでべたべたよ!」
「あっ、またこぼした!」
お母さんが困るのも無理はありません。まもる君は、食べるときのお行儀が悪かったのです。
あまりにお行儀が悪かったので、お母さんはつきっきりで、まもる君にマナーを教えることにしました。

あるときは、お肉を切るときにフォークとナイフを逆さまに持つので、
「フォークは左、ナイフは右!」
と教えました。

またあるときは、スパゲッティをずるずるとすするので、
「スパゲッティはフォークで巻く!」
と教えました。

ナイフやフォークの使い方を覚えると、今度は食べているときにおしゃべりをしだすので、
「お食事中はおしゃべりしない!」
と教えました。

ある日、まもる君はお母さんと、レストランまで出かけました。レストランと聞いてすぐに「行くー!」と目を輝かせていたまもる君ですが、果たしてマナーを守ってお食事ができるでしょうか。

席に座ったまもる君。マナーを覚える前までは落ち着きなく動いてましたが、今は我慢しています。目はきょろきょろしていますが、どうにかじっとしています。

「まあまあね」とお母さん。
となりのお客さんがぺちゃくちゃと、なにやらおしゃべりしています。まもる君、それが気になるようです。

まもる君の目の前に、どんと大きなハンバーグが置かれました。するとまもる君、一口でガブッ、といきたくなるのをこらえて、左手にフォーク、右手にナイフを持って、音を立てないようにハンバーグを切り分けていきます。そしてゆっくりと口に運び、よく噛んで味わっているのです。

覚えていたマナーを、まもる君はきっちり守っていましたが、動きはどうしてもカチコチで、ぎこちないものでした。お母さんがじっと見守ります。

となりのお客さんが、まもる君を見てクスクスと笑い始めました。まもる君は自分が上手くできないことに恥ずかしくなりましたが、それでもお母さんに言われたとおりのマナーを守りつづけました。

すると、お母さんはたまらず立ち上がりました。まもる君はびっくりしました。お母さんが、となりのお客さんを叱っていたからです。
「うちのまもるは、ただ学んできたマナーを守っているだけです。まもるのことを笑わないで!」
今までで一番厳しいお母さんに、となりのお客さんは背筋を正してすっかりおとなしくなりました。

帰り道。お母さんの手をぎゅっと握りながら、「ごめんねお母さん、お食事のマナーを守れなくて。」とまもる君。お母さんは首を横に振ると、立ち止まってまもる君に語りかけました。
「いい、まもる。これだけは忘れないで。 どれだけかっこ悪くても、どれだけ不器用でも、頑張る人を笑う大人にだけはならないで。恥ずかしいかもしれないけど、頑張る人を、困ってる人を励ますことで、みんながいきいきと胸を張ることができるの。みんなが元気になれるように、まもるの元気を分けてあげなさい。」

お母さんはようやく笑顔を見せたかと思うと、まもる君を抱きしめました。
「今日はよく頑張ったね!」
まもる君は今日、一番忘れられないマナーをお母さんから教わりました。

それからというものまもる君は、学校では一番面倒見の良い子になりました。友だちづくりが上手くいかない子を遊びにさそいますし、教科書を声に出して読めない子には、「ゆっくりでいいよ」と声をかけることもあります。その時のまもる君の背中は、とてもまっすぐで大きかったのでした。


地元の賞に応募しようと思ったけどすっかり忘れてしまいまして、機を逸したので今日ここに載せることにしました。宜しければご覧下さい。

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