秘密の牛の角

昔々あるところに、一人の少年が住んでいました。少年は祖父母と両親と一緒に、少し年の離れた姉と兄とがおり、一軒の家で暮らしておりました。

少年を一番可愛がってくれたのは祖父でした。両親は畑を耕すことをなりわいとしていて、麦とたくさんの野菜を育てます。祖父は猟師をしていて、時々山に連れて行ってくれるのですが、色んな生き物に興味があった少年は山も、山に詳しい祖父も大好きなのでした。

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祖父は猟のかたわら、動物の剥製を作ることがありました。特に猛禽の勇猛な剥製は村でも評判が高く、大きな市での品評会で金賞を取ったこともあるのだということでした。家族の土地には皆が寝起きする母屋と別に納屋が2つ、大きなものと小さなものがありました。祖父は小さな納屋を作業部屋にしており、火を熾すことのできる小さな暖炉と、背もたれのない4本足の小さな椅子があり、冬の間はそこで猟具の手入れをしたり、剥製の中支えの木組みをこしらえたりする祖父の姿をよく見ることができました。

少年は祖父の仕事を見るのが好きで、とある誕生日に3本足の小さな椅子をこしらえてもらってからは、同じようにそこに座って絵を描いたり、小さなナイフで木を削ったりしたものです。暖かい日には祖母もゆり椅子を持ってきて、編み物をしながらとりとめのない話をすることもありました。

夏になると、畑仕事も山仕事も家族総出の大仕事の日が多くなります。作付けに草むしり、動物たちの世話と大忙しですが、少し時間の空いた時に、祖父は川に少年を連れて行ってくれる時がありました。家から裏山を越えて更に遠くの山まで小一時間ほど行くと、祖父が猟場にしている小さな川があります。そこからもう少し山の中に踏み入っていくと、険しい崖の手前に開けた河原があって、キラキラ光る小石を見つける事ができました。目当ては少し大きめのよく磨かれた黒曜石で、祖父はそこから綺麗な剥製の目玉をこしらえることができました。少年も夢中で何時間も川底を探し、のどが乾いたら川の水を飲みました。お昼時には木陰で水のせせらぎに足を浸しながら、母の握ってくれた麦飯のおにぎりを祖父と並んで食べました。そんな時には祖父は山の話をよく聞かせてくれました。崖の上に巣をつくるワシのこと、とても賢い大角鹿のこと、そしてどの山の生き物も恐れる大きなクマのこと。
(続く)

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