タジキスタン 2of 5

次に、タジキスタン女性のユニークな美意識を語ってみよう。
タジキスタンの町を歩くと、普通に眉毛が一本に繋がっている女性を見かける。
これはタジク女性の昔からの化粧法の一つである。
タジキスタンのパミール地方(「パミール」は、タジク語で「世界の屋根」を意味するといわれタジキスタン、アフガニスタン、中国などにまたがる平均標高5,000mに達する)には、16~17歳の成人になると、男女とも眉毛にまゆ墨を書く習慣があった。それは成人になったことの衆知のシンボルであった。
 
この伝統が残り、現在は女性がまゆ墨を眉間にも書いて一本眉にするのである。
稀に、まゆ墨の替わりにウスマと言う植物の汁を出して、その汁で書くものもある。ウスマを眉毛に書くのは北部地方の習慣という。
更に、歯を金歯にする習慣もある。「金歯にした人はお金持ちに見られる」という考え方もあり、インドから伝えられたという。虫歯ではなく,ステータスシンボルなのである。
旧ソ連時代は社会主義だったため、私的財産が強制的に没収されることが多く、自らの財産を金歯にして没収を防いでいた名残だとも言われている。
金歯や銀歯は中央アジアでは裕福さの象徴と考えられている。
タジキスタンのエモマリ・ラフモノフ(ラフモンに改名)大統領は国のイメージを改善するため、公務員が金歯にすることを禁じた。この決定を下したのは首都ドゥシャンベにある学校の総金歯の教師と面会した後のことであったという。
大統領は「その教師は賃金の低さを訴えていたが、金歯をしていた」、「教師の口が金歯でいっぱいな国が貧しさを訴えても、どこの国際機関がそれを信じる? 金歯は我が国の文化や伝統でもない」と語っている。
 
ここで、エモマリ・ラフモノフ(ラフモンに改名)大統領の専制ぶりを示しておこう。
 
1992年11月19日、ラフモノフ最高会議議長就任
1994年11月6日、ラフモノフ大統領選出
1997年6月27日、タジキスタン内戦の最終和平合意成立
1999年11月6日、大統領選挙が実施され,ラフモノフ大統領が再選
2006年11月6日、大統領選挙が実施され,ラフモノフ大統領が再選
         (2007年4月、ラフモンに改名)
2013年11月6日、大統領選挙が実施され,ラフモン大統領が再選
2016年5月、憲法改正により,ラフモン大統領については大統領職任期制限撤廃,大統領選の立候補年齢引き下げ
 
近年、タジキスタンは、禁止を連発する「禁止大国」としてその悪名を馳せている。
これらの禁止事項には、政府が抱く宗教過激派への懸念に関連するようなものもあれば、中には理解を超えるものもある。
13項目にも及ぶ禁止事項を次に挙げてみよう。
 
その 1. 新年を祝うべからず。ソ連の名残は捨てるべし
この禁止令は2015年末に施行された。タジキスタンは学校や大学で「新年」をお祝いすることを禁じた。新しい年を迎える行事は、共産主義の時代には外せない祝祭だったのだが。現在のところ個人的には自宅で祝うことは問題ないが、それにも限度があるため、控えめに行うのが無難である。
 
その 2. ハロウィンやホーリー祭を祝うべからず
祝いたいならばアメリカやインドでどうぞというのである。
2016年5月15日、ドゥシャンベでヒンドゥー教のホーリー祭を祝う若者の集まりを警察が強制的に解散させる事態に至った
ハラーム(イスラム教徒の慣習に反する行為)に該当するという理由からだ。
とりわけ未成年者に対する行き過ぎた暴行は、国民の反感を買った。
とはいうものの、タジキスタンでホーリー祭を祝う人は少数派だ。プチブームとなった2013年と2014年 のハロウィンでも、お祭りムードで悪魔や吸血鬼に扮した人々を警察は取り締まった。去年のホーリー祭への弾圧行為もこれに続くものだ。警察が祝祭中止の理由にイスラム教を引き合いに出したのは単なる口実である。タジキスタン当局はイスラム教でさえもあまり快く思っていないのだ。
では、どんな祝祭日ならタジキスタン政府のお気に召すのか?
答えは簡単。ノウルーズだ。春分の日に当たるノウルーズは完全に無宗教であるため、イスラム主流でありながら世俗主義を掲げるこの国において、信仰心を高めるような心配は無用だ。そしてまた、タジキスタンに残る伝統的なペルシャ文化の流れを汲んだ慣習でもあるのである。
だが、いかなるときでも救いがあるものである。
現にタジキスタンにも祝祭日はあり、国民は思い思いに過ごす。
新たに制定された「大統領の日」が11月16日、「旗の日」が11月24日、そして「国語の日」の10月5日。この日は偶然にもエモマリ・ラフモン大統領の誕生日に当たる。
 
その 3. 誕生日は自宅だけで祝うべし。身の丈に合った暮らしをせよ
カフェやレストランで自分の誕生日を祝う度胸があるならば、罰金を支払うのに十分な額を蓄えておくべきだ。
アミールベク・イサエフというタジク人は、身をもってこの教訓を学んだ
首都ドゥシャンベのパブにこれ見よがしの誕生日ケーキを持ち込んだことで、タジキスタンでは大金である600ドル相当の罰金を科された。
パブでケーキを持つイサエフの写真がFacebookに公開されるとすぐに、検察は彼を起訴した。ステーキで祝っていれば最悪の事態は免れたであろう。
 
その 4. 卒業ごときで浮かれるべからず。想像を絶する厳しく辛い現実に備えるべし
「卒業パーティー」が禁止だなんて、しらけムード一色であろう。
2016年に、ソビエト時代に重要な伝統行事のひとつであった「卒業パーティー」が禁止に追い込まれた。これまで政府がこの禁止理由に触れることはなかったが、2つの狙いがあるようだ。
教師と生徒間での贈り物を禁止し、また首都ドゥシャンベで酔った卒業生たちが繰り広げるドンチャン騒ぎを抑制することだ。ともかく学業からの卒業は、今や一段と憂鬱な人生の門出になったといえよう。
 
その 5. 結婚式に贅を尽くすべからず
タジキスタンの結婚式は簡素に祝うのが王道である。
これは前述のアミールベク・イサエフの件と同じく、祝祭を規制する法律が厳格化されたことによる。政府は2007年に施行したこの法律を今まで以上に厳しく改正し、国民が人生の晴れ舞台で過剰な出費を控えるように目を光らせている。
タジキスタン南部に暮らすザイドゥロ・フドヨロフの家では、長女の結婚を祝う準備が整っていた。
しかし、結婚式が始まる数時間前に地元捜査当局の一行が家に踏み込み、披露宴のために家族が腕を振るった料理の大半を没収した。
捜査官は、料理が「無駄に多い」量であり、法に触れると判断した。同法律に基づけば、結婚式や葬儀、またその他の私的な行事への家庭における出費額には規定がある。
クリャーブ郊外で、強制捜査に加わった捜査官ホルムロド・イブロヒモフは語った。
「私たちはこの村の不届き者に手を打つことができました。この家庭に踏み込んだ時点で料理が必要以上にあると判断しました。そこにはフォカッチャ(パン)やハルヴァ(菓子)といったごちそうが並んでいて、花婿宅で行う披露宴で振舞うために用意したものだと分かりました。そのあと私たちはこれらの没収した食べ物をクリャーブ精神科病院へ持っていきました」と、没収の件をイブロヒモフは語った。
また、こうしたごちそうへの出費が「貧困家庭」の収入に不相応であると指摘した。
 
その 6. 葬式であっても悲しみに飲ま込まれてはならない
うそではない。この禁止令は貧困対策の一環であるという。
分不相応な豪華な葬儀などを禁止したものだ。
 
その 7. 「異国」の衣服は着るべからず。我が民族衣装に誇りをもつべし!
タジキスタンは、女性がイスラム教のヒジャブを被ることをよしとせず、民族衣装を身に付けることを促す法律を可決した。
欧米のメディア機関の数社は「タジキスタンはヒジャブを禁止した」と報じたが、可決した法律にヒジャブとは明言していない。むしろ、伝統的な民族衣装を異国風の服装から守ろうとする意図があるようだ。
いずれにせよ、近年タジキスタンでは、ヒジャブを被る女性に対する政府の締めつけは厳しさを増すばかりだ。中東諸国や隣国のアフガニスタンにおいては一般的な女性の装いが、タジキスタンでは取り締まりの対象になる。
公立学校でのヒジャブ着用の禁止に加えて、一部の都市ではヒジャブを販売することも禁じている。またヒジャブを身に着けた女性が病院から追い返されたとの報告も寄せられている。
タジキスタンの女性は今まで通り頭を覆うことは認められており、世間も概ねそのような装いを望ましいものだとしているのだが、「顎は出すこと」としている。
 
その 8. 脚は出し惜しむべし
この様に、タジキスタン政府の禁止連発は手当たり次第という有様である。
同国にて中東の装いは肩身の狭い思いをする一方で、肌を露わにするような服装は控えるに越したことはない。
実際に2016年以降、サウジアラビアと同様にタジキスタンの官庁施設においても、ショートパンツを履いていれば厳しい目を向けられる
丈の短いスカートを履くことは学校で長い間禁止されており、また公の場での着用でさえ寛容的でない。
 
その 9. ヒゲの手入れは怠るべからず
長いあごひげはタジキスタンではアウトだ。特にあごひげを禁じる法律というわけではないのだが、国内の聖職者が定めるものによると、あごひげの長さは3センチまでとしている。
さらに、タジキスタンの警察があごひげを生やしている男性に対して強制的なひげ剃りを実施する判断は、個々人に委ねられているようだ。
「強制ひげそり」の憂き目にあった人の数は何千人にものぼる。
さるブロガーのロスタム・グロブは自身が「強制ひげそり」の犠牲者だと訴えている。
「奴らが僕の所にもやって来た……。今日、3人の警官が僕をクジャン警察署に連行し無理やりにひげを剃ったんだ。この国って終わってる!」と。
 
その 10. 我が子に「異国の名前」や「キラキラネーム」は付けるべからず
この法律は、タジク族の国民を対象としている。
2016年以降、国民は公式登録の法に基づき子供に名付けることを余儀なくされた。
注目するべきは、人気のあるアラビア名の一部を登録条件から除外している点だ。
だが関係者によれば、「モップ」などの家庭日用品類の名前を子供につけない為の法律だという。 TV局の「オープン・アジア」は独自のあるクイズを作成した。
同クイズの出題内容はタジキスタンで禁止か否かを問うものだ。
それによると、「ジョン」と名付けることもまた、タジク語を話す人たちには御法度のようだ。
 
その 11. 洋食屋であれ中華料理屋であれタジクネームをつけるべし
ならばドゥシャンベで イタリアンレストランを開くとすればどうだろう?
無論、「ベラ・イタリア」のような店名を付けるなんてとんでもないことだ。
タジキスタンの公用語に関する法の下、レストランにはタジク語名をつけることが義務付けられているためなのだが、実に、ここにも型破りがいる。オープン・アジアというメディアによれば「サラーム・ナマステ」 という インディアン・レストランが裁判沙汰になり、約100ドルの罰金を科されたという。
 
その 12. 暴力的なスポーツにハマるべからず、テロリスト予備軍と見なす
2017年にタジキスタン政府のスポーツ文化省は、プロボクシングだけでなく総合格闘技(MMA)なども禁止した。
タジキスタンのスポーツ委員会は、厳しい経済事情を抱える旧ソ連独立国家において、プロボクシングと数種類の格闘技の禁止を視野に検討を進めていた。こうしたスポーツが暴力につながり、過激派思想に駆り立てることを危惧してのことだからである。
スポーツ委員会は声明の中でこの禁止案の趣旨を「暴力の芽を摘む必要性に迫られていること。また、スポーツにおける誇りや品位の低下に歯止めをかけること」だと述べている。
その代わりに国技のグシュティンギリの普及に力を入れる意向であるようだ。
調査によると、ISIS新兵たちは暴力的なスポーツを好む傾向があるという。そして1000人以上の国民がイラクとシリアで過激派組織に加担しているとタジキスタン当局は伝えている。
 
その 13. 切り札はコレ、ドローンは悪の手先!
タジキスタンは、いち早くドローン規制に乗り出した国々のような立場にはないが、2017年にこれらの国々に仲間入りしたかたちだ。
タジキスタンの航空法改正は「テロ組織や麻薬密売業者が操る無人航空機の飛行を防ぐため」のものであると国会議員は説明している 。
 
その14.ロシア語の廃止
ラフモン政権下の同国は自国民の愛国心を高める為として、ソ連時代から用いられ続けていた(公用語としての)。
2009年10月から国語法が成立し、公文書や看板、新聞はタジク語を用いることを義務付け、ロシア語の使用廃止を法制化した。
 
その15.産まれてくる子供に外国名を名付けることを禁止
 2016年には出生届に関する新法を施行し、産まれてくる子供に外国名を名付けること(特にロシア語での命名)を禁止している。
なお、エモマリ・ラフモノフ大統領自身は、2007年4月、自らの姓からロシア語の接尾辞を取り、ラフモノフから、タジク語のラフモンに改名している。
ともかく、大統領の目的はソ連の名残を払拭したいのである。
 
その16.セクハラの禁止
首都ドゥシャンベ市の内務総局(警察)に、男性の迷惑行為から女性を保護するための特別作業チームが創設された。
特別作業チームは、少女や女性に対する侮辱的な言動の防止、家庭内暴力に関する申し出の審査、争いや集団による暴力行為の防止など、「若者のモラル向上」を目的に、市長の指示によって創設された。
ドゥシャンベ市の内務当局は、ドゥシャンベの少女や女性から市の行政機関に対し、男性による不適切な行為から保護してほしいという要請が繰り返しあったと指摘している。。
 
 
以上
 
次は、3 of 5 に続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?