キルギス (4 of 8)

キルギスの伝統的かつ有名なスポーツは馬術と競馬である。
キルギス人は生活の中で、子供の時から馬に親しんでおり、皆素晴らしい騎手になる。
この国では、馬は自由のシンボルとして認識され、「馬は人間の翼である」という諺がある。
子供の頃から馬に乗るのは当たり前で、14歳になると自転車を買ってもらうのと同じ感覚で、馬を与えられるという。
 
そしてキルギス共和国で最も憧れの的になっている競技は、「コック・ボル(Kok-Boru)」、ペルシャ語の『ブズカシ(Buzkashi)』である。
コクボルという名前はキルギス語で『蒼き狼』という意味である。
 
競技は首と足首を切り落としたウラク(山羊)をボールに見立て奪い合い、自陣のゴール「タイカザン」へ投げ入れるとポイントになり、言わば『騎馬戦ラグビー』である。
控(交代メンバー)の4騎を入れて8騎で1チームとなる。
8騎で1チームですが、実際に出場するのは4騎対4騎で対戦する。
残りの4騎は控えていて、試合中このメンバーと交代は自由である。
1セット20分、これを3セット行って1試合になる。
試合が始まると、サイドラインに並んだそれぞれのチームから4騎ずつ、
計8騎が真ん中に置かれたヤギを目がけていく。
見事ヤギを拾って抱えることができたら、あとはそのままゴールに馬を走らせます!
それぞれのチームにはゴールがあり、円形になっていて中が窪んでいる。
そこにヤギを投げ入れることが目的なのである。
 
ウラクは20~30㎏にもなり、持ち上げて馬上で奪い合うのは見る程には簡単ではない。
かなりの腕力と乗馬の技量が要求される。
馬が転ぶのも当たり前の競技なのでなんと、フィールドの外には救急車が待機しているほどの激しい競技である。
 
中央アジアのキルギスで、世界遊牧民競技会「ワールド・ノマド・ゲームズ2018」が開催された。「遊牧民のオリンピック」ともいわれる国際大会で、キルギス政府の呼びかけにより2014年に始まった。
以来、遊牧民族の文化の保存と継承を掲げ、標高1600mの高地にある都市チョルポンアタで、2年ごとに開かれている。
 
2014年大会は“武闘派俳優”スティーブン・セガールが観戦に訪れたが、今回はトルコのエルドアン大統領やハンガリーのオルバン首相ら、中央アジアの遊牧民にルーツを持つとされる国の首脳も駆けつけた。
小国キルギスにとっては、経済的にも外交的にも重要なイベントとなった
だが、それ以上に大きな意義がある。ソ連崩壊後、キルギスをはじめ中央アジア諸国は、自国のアイデンティティ形成に腐心してきた。
13世紀に大帝国を築いた遊牧民の英雄、チンギス・ハンの時代を想起させるノマド五輪は、彼らの「遊牧民スピリット」をくすぐるのだ。
2018年のノマド五輪では金銀銅あわせて103個を獲得。2位のカザフスタンを大きく引き離し、開催国の面目とプライドを守った。
文字通り「キルギス騎兵に向かうところ敵無し!」「現代に残る騎馬軍団」と喝采を浴びた。
 
ところで、このノマド五輪、オンラインで選手登録をすれば、遊牧民でなくても参加できる。遊牧民文化を伝承することが大会の目的だからだ。
 
次回2020年大会は、トルコで開催される予定だ。
 
コクボルの他にもキルギスには幾つも馬を使った競技が伝統文化として残っている。
その他の馬の競技を列挙してみよう(清水隼人「キルギスの騎馬文化」から)。
 
ティーンエングメイ(走行拾得競争)
 地面に置いたリボンを疾走する馬から拾い上げる競技。
10mおきくらいに地面に並べられたリボンをいくつ拾い上げるかを競う。
太古より戦場で地面に落ちた剣や槍を拾い上げる練習だったという説もある。
疾駆する馬から、ほとんど逆立ちのようになって地面のリボンを拾い上げるのは至難のわざ。
4から5つ拾い上げると拍手喝采となる。
 
クズクーマイ(鞭追いの娘)
 男女が一対一で直線2・300mを馬で追いかけ合うゲーム。
初めは、男性が女性を追いかけ、追いついてとらえると、抱き寄せ、キスしたりする。
次に逆に女性が男性を追いかけ、追いつくと鞭でひっぱたく。
なにか人生の恋と家庭のあいだを象徴するようなゲーム。
この競技は男女とも民族衣装の正装で行なわれる。
 
オーダルシュ(騎馬相撲)
 日本にも馴染みの深い運動会での騎馬戦のスタイルそのものだが、こちらは本物の馬で行なわれ、迫力はケタちがい。
上半身裸で、どちらかが馬から落とされたら勝負あり。
おもしろいのは、馬に乗った行司がいて、両者の間を立ち回り、調整したり、勝負の裁定をしたりする。
土俵のようなワクが設けられ、そこから出ると、行司が元の位置へ戻して続けられる。
 
アトゥチャブシュ(競馬)
いわゆる競馬だが、キルギスの場合は長距離が特徴。通常は25~50km。
距離が短いレースでも5~15kmある。側対歩レースも10kmほどの距離で行なわれる。
さらに、キルギスでは、数年に一度のイべントとして、数百キロに及ぶ超長距離レースが開かれる。
1995年には、1,000キロレースというトルクメニスタンからキルギスタンまでの気の遠くなるような長距離レースが開催された。
これらのレースはさすがに昼夜通して走るのではなく、馬を交替し、日をあらためて次々と区間ごとに移動していくものだが、騎馬民族全盛の往時をしのばせるものとして、興味深い。
 
20~30kmの競馬「アット・チャビッシ」、「ジョルゴ・サルッシ」、「オオダルッシ」には騎手としての力量、勇敢さに加え、如才さが必要だ。
 
また「キズ・クウマイ」というとても面白い競馬は、もともと若者の中で普及されてきた。
これは、馬に乗った女の子を追いかける。捕まえたら3回キス出来る。逃げ切られたら、3回叩かれる。
 
ジャンビアトマイ(騎射競技)
疾走する馬上より弓で的を狙い射つ競技である。
残念ながら、この競技はキルギスにおいても、現在は稀になってしまった。
第一回キルギス民族競技大会にも採用されなかった。
キルギスの騎射は的は一つで、馬の尾の毛によって吊るされた貴金属の装飾品や小物類を落とすことを競う。走路から的までは距離約10メートル。
射手は馬を走らせながらこれを射るわけだが、直接的を狙うのではなく、吊るしてある毛を狙って的を落下させるのである。
も汗血馬」とうたわれている。
●キルギス人こそ騎馬民族の真の末裔
この様に古代より騎馬民族ならではの競技として継承されてきた。
キルギス族は紀元前匈奴の時代よりその存在が知られ、西暦840年には内陸高原を統一し、さらに時代が下って12世紀末その高原に新しい支配民族が登場し、現在はその民族名を使ってその土地をモンゴル高原と呼ぶようになったわけである。
遊牧騎馬民族と言うと、一般にまずモンゴルをイメージするが、有史よりの騎馬民族文化をテーマとする場合、キルギスは最も古いグループであり、現代まで続くオリジナル性を保持している。
中国の史書に登場し、民族名とその系列が現在まで続き、しかも名称を国家として継承している古代騎馬民族は、堅昆(キルギス)と丁零(テュルク)という二つのトルコ系民族だけとも言われる。
テュルクは西へ移動を続け、ご存知の通りボスポラス海峡まで達し、「トルコ」という大帝国を興しました。一方キルギスは北方ユーラシアで幾多の騎馬民族と交戦を繰り返しながら天山山系に移りその命脈を保った。
「太古より現代まで民族が続いているから」、そして逆に「伝統文化を大切に強固に守る意志があったから」、どちらにしても騎馬競技が現代まで存続し民衆から支持された所以といえる。
競技名コクボルの名の由来も、狩りのあと獲物の狼を騎馬で取り合って遊んだのが始まりとされている。まさにユーラシアの騎馬民族が「蒼き狼」のイメージを持っていることの伝承の最も初期のものと言えよう。
 
・映画『馬を放つ』
壮大な自然と奥深い異国文化!キルギスの文化を映画『馬を放つ』で知ることができる。
「あの娘と自転車に乗って」「明りを灯す人」などで国際的に高く評価されるキルギスの名匠
アクタン・アリム・クバト監督がメガホンをとって自ら主演を務め、熱い信念を秘めた純粋な男の姿を通し、文化的アイデンティティーが失われつつある現代社会に静かな問いを投げかけたドラマである。
馬は人間の翼である”と疾走する馬上で天を仰ぐ男は、古くから伝わる伝説を信じて夜になると馬を盗んでは野に放つ。
第67回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で国際アートシネマ連盟賞に輝いた作品。
 
あるキルギス人が言う、
「車を持っている人もいますが、隣の村へ行くのであれば馬で行く人が多いです。干し草を運ぶときは馬車で運んでいましたね。村を歩いていると人に会うより馬に遭遇します。
キルギス人にとって馬や羊などの家畜は財産なんです。
貯金の代わりでもあり、肉や乳は食料でもあり、毛や脂を使った雑貨も作っています。すごく生活に密接した存在です」と。
 
・馬乳酒をご存知であろうか?
農村で住んでいるキルギス人のほとんどは牧畜で生計を立てていて、酪農産業のポテンシャルが非常に高い。馬や牛を飼っている酪農家が多いので肉と乳が不可欠なものである。
キルギスで最も人気な飲料はクムズという馬の乳を発酵させて作られる民族的な馬乳酒である。
キルギスとカザフスタンとモンゴルのような遊牧民のいる国の文化にはこの飲料が象徴的な飲み物である。
新鮮な馬乳は馬が分娩してから出るものであるからクムズを5月から9月までしか入手できなく山間部の路上のお店で販売されることが多い。
 
以上
5 of 8 に続く、

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