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曖昧な悲観主義

もちろん、15年後の答えは誰にも分からない。でも、もし日本の人々が世界のほかの誰も知らない隠れた真実をもとにそう答えているのでないかぎり、10パーセントという数字は、ピーター・ティールの言う「曖昧な悲観主義」の格好の実例だ。ティールが著書『ZERO to ONE』で伝えたかったことは、「曖昧な悲観主義からは決してイノヴェイションは生まれない」というシンプルなメッセージだった。
ただ、先進国が軒並み「悪くなる」と考えるのも無理はない。このまま世界の人口が100億まで増え続け、かつネットワークで情報も意識もつながったフリクションレスなグローバル化によって生活水準の地球規模での平準化が進めば、当然ながら、平均以上の生活を享受している人々の水準は、平均値まで下がることになるからだ。先進国がそれを防ぐ手立ては a)反グローバリゼーション、b)格差を拡大して「上」を維持し続ける、のふたつしかない。ご存知のとおり、どちらもいままさに起こっていることだ。
つまりこういうことだ。何らかのイノヴェイションが、それも、ティールの言う0→1のイノヴェイションが起こらない限り、100億のぼくら人類は、いまのリソースをさらに多くの人々で分配することになる。ただでさえ、地球の資源をすでに使い尽くしているのにだ(去年の「アース・オーバーシュート・デー」は8月1日だった)。オーガニックの野菜やグラスフェッドのビーフや手付かずの自然のなかでのリトリートは忘れたほうがいい。そんな贅沢を100億人で分かち合う余裕は、もう地球にはない。

だから、宇宙に希望を託すのは非常にロジカルな帰結だ。イーロン・マスクもジェフ・ベゾスも、宇宙開拓こそが人類を救済する唯一の手段だと本気で信じている(もちろん、現代の“GO WEST”でありビジネスでもある)。この年末年始には、「WIRED.jp」でも読み応えたっぷりの宇宙モノをロングストーリーでアップしている。でも、もしあなたが、オンラインアパレル業で財を成した大富豪でないのであれば、一足飛びに火星に向かうのはまだ少し先の話になる。
だからいま必要なのは、アイデアとイノヴェイションによって、まずは地球をアップデートすることだ。その可能性の端緒に手をかけたのが、リブート号となった昨年のVol.31『New Economy』だった。「新しい経済」を考えることは、つまりはぼくらがこの地球上でどういうライフスタイルを目指すのかを考えることであり、そこで本当に問われているのは、人間や社会や地球にとっての「ウェルビーイング」とは何かという問いに他ならない。それが、次号の特集「DIGITAL WELLBEING」のメインテーマとなるはずだ。3月の刊行を、ぜひ楽しみにしていただきたい。

「過去が現在に影響を与えるように、未来が現在に影響を与えている」と言ったのはニーチェだけれど、だとすれば、曖昧な悲観主義から未来を語る限り、その未来ばかりでなくいまこの瞬間をもぼくらは悲観して、イノヴェイションの芽を摘んでいることになる。『WIRED』は「現在にポジティヴな影響を与える未来」をこれからも提示し、「15年後に人々の生活が良くなる」と思える人をこの日本で少しずつでも増やしていくことを、引き続き2019年のミッションとしていく。

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