小林大吾「いまはまだねむるこどもに/the lighthouse」
2010年5月12日初版発行 アルバム「オーディオビジュアル」より
歌詞
飛行機が青い服のジッパーをとじて消える
さっきまでは視野の端にあった町あかり
古びた橋をわたれば横たわるしじまに
ここはただすすきが穂をゆらすばかり
みちびく背中を追い求めながら
最後はほとんど迷子のように
こんなところで時間をつぶす
その名を地図が見すごした領域(エリア)
かさなりあう声から切り離されて
みるものすべてに覚えがなくて
かすかな混乱に拍車がかかる
ポンと肩へ置かれた手に心臓が止まった
知らず流れつく所在のすきまで
そうして手渡される1枚の紙
人から人へと受けつがれてきた
設計図だとその人は云う
いま手に入れるべきはむしろ地図であって
あれこれと描(か)きこまれた図面ではない
けっこうです、と言いかけて我に返る
飛行機からここの位置は見えてたんだろうか?
「ソストラトス」…署名はそう読めた
はやくここを去りたくてしかたがないのに
呪文のようで耳ざわりなその響きと
のこされた言葉が脳裏にはねかえる
だれひとりとして例外はなく
その紙をかならずどこかで受け取る
何が描(えが)かれ、何を建てるのか
それもそのうちおのずとわかる
寄る辺がないという気になるのは
いつもならあるはずのものがないからだ
あなたは背中をもたない人だと
どこでそんなことを吹きこまれたのか?
ふれあう芒(すすき)のささめきと胸さわぎが
のこされた余白を埋めつくしていく
つられて色めき立つのはプラタナス
鈴から鈴へとつらなる細鳴り(さなり)
だれひとりとして例外はなく
その紙をかならずどこかで受け取る
日の出のように課せられた義務だ
いつまでも最後尾でいることはできない
足をひたす日だまり
その水面(みなも)に、くちた向日葵(ひまわり)
波紋はどこまでもひろがり
ここにいたとだけ伝える
なおもつづくモノポリ
保ちつづけるほとぼり
たくされる王の冠(かんむり)
いまはまだねむるこどもに
みちびかれることにもそのうち飽きる
わたしはわたしと知るときがくる
追いつきたいと願うその背中は
じぶんにもあると知るときがくる
ふいに理解して顔をあげる
とおくおぼろげに灯台がみえる
手渡された1枚の紙
点と点が線としてここでつながる
その設計図で灯台を建てる
手になじんだものさしで測る
次へとみちびく光ではなく、ただ
先客がいたというしるしのために
なるべく高く灯台を建てる
必ずここに来る者がある
次へとみちびく光ではなく、ただ
ひとりではないということのために