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嘘と言う嘘

 朝5時、いつもは人混みで賑わう商店街の入り口。客がいないコンビニの前で女性二人の会話に足が止まった。「最後のあのおっさんマジキモいんよ!」「ウケる」「ホントキモかったよね」いかにも夜の勤務後のギャル系の二人、内容から察するにキャバ嬢としてキャバクラで最後についた客がとんでもなく気持ち悪かったらしい。聴いてるこっちまで「キモ!」って言いたくなる話しだったが、「お兄さん面白いね」などとこの会話を聴いた後なら「嘘しかねぇ」って言いたくなる世界。「やっぱりああいう商売の女の人はみんな簡単に嘘がつけるんだ」そう言ってただ通り過ぎる俺。現場の仕事に行く前にパンだけでも食っとこう。コンビニでいつものチーズハムパンと甘いコーヒーを買って、親方が迎えに来るポストの前で買ったパンを食べながらスマホの画面を観る。「やっぱり返信はないか?」はぁーあ!またため息をついてしまった。「ため息ひとつにつき嫌な事がひとつ起こる」お袋がよく言ってたな。ちょうどコーヒーを飲み終わろうかというタイミングで、親方の車が来た。「いい加減免許取れよ!」また親方の嘆きがいきなり来る。半年前までは持っていた免許、今は持っていない。お察しの通り免許取り消しで乗っていた黒い軽バンも売ってしまったので、今は親方に迎えに来てもらうと言う微妙な雰囲気に、申し訳ないんだけどどうしようもない俺。鳶職人になりたくて中学出てすぐに別の会社の社長にお世話になったのに、会社の車をこっそりドライブに使い事故を起こし、事故の相手は死んでしまった。でも事故の原因は赤信号で飛び出してきた車を避けた反動で対向車に突っ込んだので俺はある意味犠牲者だが、コッチはスピードが出過ぎてたと言う事で敢えなく免許を持って行かれた。当然の報い。社長は許してくれたものの、申し訳なく辞めてしまった。先輩の友達の弟というまるで連想ゲームのような関係の今の親方だが「ちょうど若い職人探してたから」と言う巡り合わせで今お世話になっている。ただ、鳶職人になりたかったのに今は屋根板金の職人をしている。簡単に言うと、住宅やマンションの新築工事で屋根の工事をする職人。似て非なる職であるため、説明しても「そんなに変わらないね」って言われるのがちょっと納得いかない。

 現場に着くとまずは車から道具を出していつでも始められる準備して、材料を各場所へ移動させ一旦現場事務所へ。朝礼前に作業始めると現場監督からキツく怒られるので朝礼まではコーヒーを飲みながら雑談するのが大体の日課になっている。『今日はいつものおやっさんがいない』色んな業種の職人が集まる現場には見たことない、はじめましての人も多い。逆にいつも必ず会う職人も多く会社は違えど、仲間のように打ち解けた人も多いのが、こう言った現場の面白いところでもある。しかし「あのおやっさん」のように顔馴染みでも全く名前も知らない人がほとんどで、「そこのワケーの!」なんて急に呼ばれる事がある。あのおやっさんはまさにそれで、この現場で初めて話をした人だった。「あれ?ミノルさん!おやっさんは?」ミノルさんとはおやっさんの仲間で、いつも一緒に作業している人。「ああ!あの人急に辞めちゃって!」「えええ?!」とマジでびっくりした。まさかこんな急に。「何かあったんですか?」「うんまぁね」あれ?なんか歯切れ悪いな。いつもなら「いやーそれがさぁ」と話し始めるのに!今日はなんだか現場全体が変な感じがした。「そろそろ朝礼始めまーす」監督の甲高い声が現場中を振り向かせ、いつも通りのラジオ体操からの朝礼が始まった。

 作業が始まると、テキパキと段取りをものすごい勢いでこなす親方について行くだけて精一杯。考え事などする事すら忘れる怒涛の作業が続く。え?もう?と時計を二度見するぐらい時間は進み、10時の休憩をしてまた作業して、また時計を二度見するともう昼休みだ!と、1日ってこんなに短かった?と言いたくなるほど早送りのコマーシャルのような毎日。でもこれは時計ばかり気にして一日を過ごすよりよっぽど良い。そう思えて、充実した毎日を過ごせる幸せを感じ始めたある日、作業終りにいつものように親方に送ってもらい、お疲れ様でした。と車を見送り「ふぅー!」と完全オフのスイッチが押された瞬間、いつものコンビニで夜ご飯の弁当とカップ麺を持ってレジへ「いらっしゃっいませー」となんか聴いたことのある声、なんとあのおやっさんだ。「あ!」とおやっさんもこっちに気付いたが、気まずそうに俺の目も見ずに淡々と業務をこなして「ありがとうございました」「次のお客様」と、まるで知らない人を演じるかのようにかわされてしまった。何があったんだろう?気にはなったが、今日はサッカー日本代表の試合がある。「急がないと」家路へと進んだ。

 次の日だった、いつも通り親方の車に乗り込むや否や!「お前、ふざけんなよ!」え?と目を丸くした俺に追い討ちのごとく「嘘つくんじゃねぇよ!」なんの話っすか?と返す暇もなく「以前の会社の社長に会ったんだよ!昨日」はっ!?そういえば親方にはひとつだけ嘘を言っている事があった。以前の会社は円満退社だったと言っていたが、実は散々お世話になっていた社長に何も言わず辞めた事。接点がないから大丈夫だろうと思って、言いにくいから黙っていた。「でもなんでそれを」と聞くまでもなく親方は「お前もうクビ!」今日も現場いいから!と無理に降ろされ、走り去ってしまった。「うわ!どうしよう」と思いながらも考えてしまった。「もう合わす顔がねぇ」しばらくその場でぼーっと立ってると後ろから「そこのワケーの」あれ?なんか聴いた声だ。振り向くとおやっさんだった。「わりぃ、全部見ちゃったよ!」あぁ!なんか急に恥ずかしくなり、「いやークビになっちゃいましたよ!俺」するとおやっさんは、ちょっと話せるか?

 夜勤明けのおやっさんはコンビニで再度コーヒーを2つ買いベンチに座りながら意外な事実を話し始めた。「高橋がよ!」(高橋とは以前の会社の社長の事)お前さんが辞めた次の日に話したんだよ、お前さんの事。全くの展開に頭真っ白で??ってなってる俺に続けて「すごく期待してたんだけどまさかこうなるなんて、辞めるとは思わなかったって」いや、ちょっと待ってください。話がまとまらない。まずなんでおやっさんが社長の事知ってんすか?で親方も!まるでクイズを出されたかのように何もかも繋がらない俺に続けて説明してくれた。「なんで知ってるも何も元々は俺が始めた会社だから」え?ますますわからん!続けておやっさんが「社長はワシの娘の婿養子、業務全てを任せてワシは次の事業を始めるつもりなんだよ」ちょっと待って!じゃあなぜあの現場で作業して、いきなりいなくなって今度はコンビニの店員?「ワシはのぅ、20代であの会社立ち上げ必死に大きくしてがむしゃらに働いた!でも現場以外の仕事をしたことがないからのぅ!」「あの現場にいたのはミノルちゃんに頼まれて手伝ってただけ。私情を知られたくないからミノルちゃんには口止めしてたんよ!」あぁ、なんとなく話がつながってきた。「でよ!お前さん仕事ないんなら一緒に手伝ってくれんか?それは良いんですけど、なんで社長の事「高橋」って?「あぁ、仕事上はあいつの元の名で呼んでるだけ」「ややこしいやろ?」いやいや!そっちの方がややこしいっすよ!って。

 一旦話は保留にしておやっさんとは別れたが、どうしたらいいんだろう」今から親方に謝りに行くか?でも帰れ!って言われるだけだし。そんな時にピンコーン!スマホにメッセージが「やっと返事くれた」相手は先月知り合ったリエちゃん!いわゆるキャバ嬢だ!先月に親方と食事をして、そのまま二軒目で酔いもいい感じになり俺が行った事ないからってキャバクラに連れて行ってもらうことになった。親方は手慣れた感じでいつもの店にスイっと入っていき、「新しい子いないの?」なんて言いながら席に着く。慌ててついていくと「あらぁ!ケンちゃんいらっしゃい!」今日は若い子連れちゃって!」親方のお気に入りのご指名レイナさん。「リエちゃーんこっちきて」そう呼ばれて俺の横に座ったのがリエちゃん。「どうもはじめまして」お見合いみたいな二人。お互い今日がはじめてのキャバクラ。どうしたらいいのかわからず親方を見るともう二人の世界に入ってる。「まいったな」大学生ながら、学費のためキャバ嬢をやり出したらしいが、かなり浮いた感じで、常連さんにはウケが悪く辞めようか迷ってる!なんて意外と話は弾み結局お互いの連絡先交換して帰った。それから毎日何回かのメッセージのやりとりはするものの、中々返事をもらえない日が続いてた。作戦にはまったのか?それともただ返事が遅いだけなのか?妙に気になり出している俺。「ちょっと困ってて。話できる?今日ご飯でも行かない?」キャバ嬢の実態をよくわかってなかった俺は「この子行ける?」って普通に思い、かなりやる気満々でOKを出した。親方には内緒で。

 親方に謝りもせず何やってんだ!俺は。そんな事を考えながら待ち合わせの場所へ。少し遅れてきた彼女は店での派手なドレスとは違いいかにも普通の大学生だった。「ごめーん待った?」「何食べる?」「行きたい店あるんだけどどう?」ちゃんと行きたいところまで考えてくれてるんだ?そう思ったけど、今考えたらコレまでもが計算済みだったんだな。彼女の店からさほど離れていないオシャレな創作居酒屋さん。「オシャレなお店だね」素直にそう思ったが、ここは彼女の店の系列店。後から知った事だけどここにお客さんを連れてくるとボーナスが加算される仕組み!そんな事考えもせず、ワクワクした気持ちで店に入った。会うのは2回目とはいえ意外と会話は弾み美味しい食事もあってすごく楽しかった。そんな会話の中ふと出た彼女からの告白。「助けて欲しい」家庭の事情や学費のことで困ってるのはわかるが、俺はただの作業員。それも今はクビになったばかり。「お願いする相手間違ってるよ」「そうよね」でもそんなこと頼める様なお客さんいないし「なら、今日だけでも助けて」いわゆる同伴というやつだ。まぁ今日だけなら!って事でそのままお店に行く事になった。いや、なってしまった。コレまたお互いはじめての同伴。ドキドキの時間はあっという間にワンセット終了。延長をせがまれたが「そんな余裕ないんだ」さすがにそれはわかってくれたみたいで「今日はほっんとうにありがとう」と感謝され手を握られた。「惚れてまうやろぉ」と心で呟いた。

 なんかとても複雑な想いで酔い覚ましを兼ねて、いつものコンビニのベンチに座り空を見上げた。悔しいぐらいに星が綺麗だった。「あんなお願いされるの嬉しいが、正直どうすれば...「こんな時間に何してる」と言いながらゴミ袋を両手に店から出てきたのはおやっさん。あっそうか、そんな時間だったんだな?「いや今日は色んなことがあってね」「例の話今度ゆっくりしたいんだが?」そういえば俺明日からの仕事どうすんだ?って我に返り「明日でも良いですよ」と約束して家に帰った。完全に酔いは覚めたが、全然寝れない。寝れない寝れないと言いながらいつのまにか寝てたらしく、突然の電話の音で目が覚めた。時計を見るともうお昼を回っていた。「やべぇ」慌てて電話に出るとおやっさんだった。「今から話出来ねぇか?」って事で起きたてなので16:00にコンビニ近くのカフェで会う事に。そして一気に目が覚めた。「そういや親方に何も連絡してねぇ」時間はちょうど昼休み、電話してみたが全く出ない。直接会わないと!と思い慌てて用意してタクシーに乗り込み現場へ行ってみた。しかし親方と弁当食べながら話をしてるのは見たことのない若くて意気の良さそうなやつがいた!「すいませんでした」走り寄り頭を下げて謝るも、「今頃何しにきた」当然だと思う。「どうすればいいかわからなかったんで」そんな言い訳にもならないセリフしか出なかった。「見ての通りもうお前の代わりはいるからもう良いよ」邪魔だよと言わんばかりに幽霊の様に扱われ、休憩所の方へ行ってしまった。「何をやらかした?」と後ろから聞こえる。ミノルさんだ。声でわかった。この間とは違いいつもと同じ芸人の様なトークでたたみかける。「話は全部聞いたよ」これからどうするの?と聞かれ「この後おやっさんと会う事になってます」すっかりこの後の予定を聞かれたと思い答えると「いや仕事の事だよ」と顔色が変わった。「あの人と連絡取ってんの?」「お前、気をつけろよ」そう言ってミノルさんも向こうへ行ってしまった。ん?どうゆうこと?その時ちょうど昼休みが終わり現場が動き出し、仕方なく現場を後にした。この雰囲気、もう現場には出れねぇな。そう思いながら歩き出した。

 おやっさんにこの事を全て話すと「もう決まりだな」「お世話になります」と約束した。しかし内容がいまいちよくわからない。おやっさん曰わく、ワシの用意した投資に関わる商品をみんなに勧めてくれるだけで良いということ。『投資の商品』とあのミノルさんの反応、なんかとても胡散臭さを感じるんですけど!しかも、もらえる報酬額もさらに胡散臭い。おやっさん?これなんかヤバくないっすか?の俺の問いかけに「そうか?」とあっけらかんとした返事。「投資の世界ってお前さんが思うような悪いイメージ持つのが日本の教育のせいなんだよ」「資産をどれだけ上手に増やすかをもっと勉強しないといけない奴が多すぎる」とおやっさんのイメージとちょっと違う強いメッセージを感じた。この機会にお前さんも投資について勉強しないと時代に乗り遅れるぞ!この言葉が今までの疑いを晴らしてくれた。なんかちょっとやってみたくなった。その想いにはあの子のことも絡んでた。儲かればあの子を助けられる。そんな下心も絡み、それから投資はもちろん政治経済、世界情勢など今まで一切関わらなかった分野の猛勉強が始まった。若い男の下心なめんな!と言わんばかりにどんどん知識はついていき、出来るコンサルタント風になってきた。この商品攻めるは資産家といわれるお金持ちばかり、そりゃそうだ!お金ないと成り立たないもんね。資金が多いほど利上げは大きい。中小企業の社長や大手会社の取締役幹部など、小金をいっぱいポケットに入れてる資産家を片っ端に攻め、商品を勧める。これがなんと飢えた魚の如くまさに入れ食い状態。行けば行くだけ売り上げになる。「こんなに儲かって良いんですか」と言いたくなるぐらいに契約が取れる。俺は考えが変わった。「世の中銭や」の精神となり、お金持ちの数だけ自分の利益になる!ともうすっかりハマってしまった。日に日に羽振りも良くなり人生が変わった。もちろん例の彼女の店に入り浸る事になってしまっていた。言われるがままどんどんシャンパンを空け、欲しいと言われるモノは全て買いまさに若い成金野郎だ!この世に怖いもんなどねぇ!かかって来いや!

 もうすっかり本当の彼女にしたつもりでいる俺に反してお客様感覚でいる彼女の価値観の違いがどうしても納得できない。付き合って欲しいと告白するもこの仕事してる間は恋愛は出来ない。と仕事の意識高い系の意見しか言わない。しびれを切らした俺は「もう店通いは辞める」と切り出してみた。すると「あと3ヶ月だけ待って、もう夜の仕事辞めるから」と意外な言葉が出た。信じた俺はひたすら待つ事にしたが、ある出来事が全てをひっくり返した。見知らぬ電話番号から着信があり、新規のお客さんかと出てみると、なんと高橋さん(以前の会社の社長)だった。「お前、今すぐに今の仕事辞めろ」は?なんの事だかわからない俺に「うちのオヤジの仕事からすぐに身を引かないととんでもない事になる」どうも話を聞くと、おやっさんは集めたお金を持って逃げる計画らしい。「そんなはずないでしょ」そんな言葉もかき消す勢いで「いいな!すぐに手を引けよ」と言って電話は切れた。まさかとは思うが、気になりすぐに事務所に行ってビックリした!たった一晩でもぬけの殻になっている。「うそだろ」慌てて電話しても反応なし。「どうすんだよ」スマホの画面見ながら考えてる瞬間に今度はリエからだ!「大変よ!騙されてるよ!」何が?え?俺の事?もうパニックになった。なんでリエが知ってんの?「とにかく事務所に行ってみて」いやもう来てんだよ!「またかける」と切れた電話が今度はお客さんから次々と「どうなってるんだ」もう出るのやめよ!と電源を落とした。

 もう何だかさっぱりわからない。誰に何を聞けば落ち着けるのかを誰に聞けばいいんだ。自分でも何言ってるかわからない。ひとまず部屋に帰ってノートに書き出してみた。「誰がどうで何がこうで」結局わかったのは今連絡が取れる高橋さんに電話だ!さっき出てた番号にかけてみた。「今は部屋でおとなしくしてろ」こっちには警察が来てる」「内容次第じゃお前も連れていかれるぞ」「また連絡する」と切れた。「俺警察に捕まるのか」そんな言葉を発した瞬間、ピンポーン「警察だ」まさに言霊だ!その瞬間「もうどうでもいいや」諦めドアを開けると二人の刑事らしき人物がドラマのように警察バッジを見せている。一応任意同行なので、逮捕ではなかった。しかし人生初めて刑事が乗る覆面パトカーに乗って警察署に行く事になった。

 散々聞かれた事に返答する事、何時間経ったのだろう。「何回聞かれてもただあの人に言われた商品を売ってただけですよ!」未だにおやっさんは見つかってないらしい。でもこのままじゃ帰らす事はできないので、今日は留置所なるこれまた初めての経験をする事になる!そんな諦めムードの中で高橋さんが引取人として来てくれた。まさに神さまー!であった。「今日はうちに泊まれ」と車で連れ行ってくれた。「今までの事はもういいからしばらくここにいろ」正直言って本気で嬉しかった。そしてメシもお風呂もと、社長の豪邸で完全な「お・も・て・な・し」を受け上機嫌で久しぶりに社長と話をした。「お前、健二のところもクビになったんだって?」健二?「もしかして親方のことですか?」「そう!その親方が健二。私の息子であり、お前の親方」えーーーーーーっ!まるでマスオさんのように椅子から飛び跳ねた。「社長と親方親子だったんですか?」「あぁ、だった!だけどね」え?「まだ小さい頃に妻と別れてアイツと妹の二人は妻に引き取られたっきり会ってなかった」そうなんですか。「ところで、オヤジとはどこで知り合ったんだ?」そう聞かれてその後の経緯を話した。「言っとくがオヤジと私は全く考えが合わず、取締役会の満場一致でこの会社から追い出した」あのオヤジはまともな人間じゃない!この時だけ社長の表情もなんか憎しみに溢れていた。「でもなんで俺を迎えに来てくれたんんですか?」「警察がいきなり来て、事情を聞いたらあのオヤジに騙されてるんだろうと思った」「社員の一大事を社長が行かずに誰が行くんだ」「言っとくが、お前はまだこの会社の社員のままだから」ビックリというより嬉しくて涙が出てきた。「本当にすいませんでした」遅すぎる謝罪だが、社長は心優しく受け入れてくれた。ベットまで用意してくれたのは良いが全く寝れず朝を迎えた。

 TVのニュースで何度も映るおやっさん。次の日警察に捕まったらしい。社長の豪邸のリビングで朝ごはんをいただきながら見ていた。社長はもう仕事に出かけていたが、奥さんから「しばらくここにいれば良い」って社長が言ってたらしい。食べ終わりちょっとほっとたら睡魔に勝てず夕方まで爆睡してしまった。「おい!起きろ!」そう起こされてハッと気づくと社長だった。「お前リエの事も知ってるのか?」寝起きの俺に理解はできない。しばらく考えたあと「リエってあのリエですか?」「そうあのリエだよ」イヤイヤ!どのリエだよ!よくわからない会話になったが、話は通じた。「キャバ嬢のリエ」なんとまたもや繋がった。社長の娘でもあり、親方の妹。なんなのこの因果関係は!人生っておもしろいな!って言うか世間って狭いよな!「今連絡があって、あのオヤジと健二(親方)とリエは共犯らしい」「私から離れた3人が意気投合して金儲けを考え、そのターゲットがお前ってことかな?」え?って事はキャバ嬢リエは、巻き込むための嘘だった?「お前をあのオヤジに協力させる為の罠だったって事だわな」もう全てが繋がり、全てが嫌になった。親方がキャバクラに連れて行きリエに合わすのもシナリオ通りって事だった。  『まるでピエロじゃん』

 本人達の供述で事件は解決して、俺も一応被害者側の扱いで逮捕は免れたが、それもこれも社長の根回しでそうなった。これだけしてくれる人を俺は裏切った。それも社員扱いのまま。

 その後は社員である以上、はれて鳶職人に戻れた。色々あったけどここまでしてくれた社長に全力で返さないと!

 それから一年ほど経ったある日、社長がリエに会ったらしい。そこでリエはあの時の事を話した。最初は演技だったとはいえ最後は本気で好きだったと!社長が少し親の顔になり「お前とリエは似合わんよ」「あれ?それはオヤジとしての嫉妬ですか?「バカやろう」ちょっと照れた社長は親父の顔になってた。「そういえば社長?別れた奥さんはどうしてるんですか?」今回の事件に出て来なかったのを不思議に思って聞いてみた。「は?お前会ってるぞ!」ん?「お前が行ったキャバクラでいたろ、健二のお相手!」あ!あのレイナさん?「そう!それ」まじっすか?「私も聞いておいおい!ってなったよ!でもめっちゃ若くて綺麗な人でしたよ?親子には見えないぐらいに。あぁ!「社長って若くて綺麗な人が好みなんだ?」「お前!言ったな!」

『リエは嘘と言う嘘をついたんだ!』

淡い恋だったと言う事にしよう!




 

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