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「妄想警察P」第八話

第八話:国際指名手配の家族は無事に故郷の土を踏めるか

前回までのあらすじ:
バンパイア帝国の闇を知る男、プー上等兵を捜索するべくロシアに飛んだ渋沢等3人は、桂小金治が司会を務める『それは秘密です』のリメイク版の放送の甲斐あって、プー上等兵と彼の家族を無事に引き合わせることが出来たのであったが・・

登場人物:
渋沢吾郎:作家、心理学者
早川:渋沢の知人で元銀行強盗犯
万里子:渋沢行きつけのカフェ店員
プー上等兵:元バンパイア軍兵士
エドワード・スノーデン:元NSA職員


「残念なお知らせがあります」

ロシア政府の役人らしき男が朝早くプー上等兵家族が宿泊するホテルのドアをノックした。

「こんなに朝早くどうしました」

「昨日のテレビを見ていた者ですが」

「昨日の?」

「えぇ、それで先程、身柄の引き渡し請求が日本政府から届いておりまして、その件について、至急お話したいと思いまして」

「・・・」

 プー上等兵(布川太郎)は急いで渋沢に連絡を取った。

「それで私たちはどうなるのですか?」
布川は、心配そうに渋沢を見て言った。

「心配しないで、ロシアと日本の間には犯罪者の引き渡し条約は締結されていません。未だ時間はあるはずです」と渋沢は答えた後、早川の方を見て言った。

「何か良い方法はありませんか?」

「ロシアに亡命するか・・」

「亡命?もう山形には帰るごどは出来ねのだが?亡命なのすたら、田舎のおがぢゃんに死ぬまで会えね」と急に山形弁で布川は早川の方を見て涙目で言った。

「もしくは・・・」

「もしくは?」

「一つだけ方法がありますが、かなり難易度が高いです・・とにかくもう少し時間をください。その前に、バンパイア帝国の件についてお尋ねしたいのですが?」

「あっはい、私の知っている事なら・・」


 その時、ロシアに亡命したNSA米国家安全保障局元職員のエドワード・スノーデンは日本のメディア主催のパネルディスカッションに参加していた。進行役の元NHKのフリー女性アナウンサーの隣の席に何故か、一足先にバイトのシフトの関係で帰国していた、万里子もこの日はバイトを休んで、パネリストとして参加する程の多忙ぶりであった。


 一方ロシアでは、雨上がり決死隊の宮迫が経営する焼肉屋『牛宮城』に続き、2023年のクリスマスイブに渋谷スペイン坂にオープンした『オムサコライス』40cmの大海老が乗っかったサコライスのLサイズ(お茶碗5.5杯分の大盛りで卵6つ使用)¥6500の味には自身があると(誰に食べさせても今まで食べたオムライスの中で一番美味しいと、みんなに言われます)等と豪語していた、宮迫の特製オムライスを何処で聞き付けたか、ロシアの行きつけのカフェまで出前し、パネル・ディスカッション終了後、一気に平らげてたスノーデンが席から立ち上がって、振り返りざまに、バンパイア帝国についての解説を始めた。

「その前に亡命がご希望なら私のアパートの隣が只今、空き家ですよ」等とお得な不動産情報を軽く紹介した後、バンパイア帝国の闇についての説明に、小一時間の時間を要するため、トイレに行きたい人は先に行っておいてください。それから、携帯の電源はマナーモードにしておいてください。等と注意事項の説明後、助手で留学生の坂本にプロジェクターを使用する為、部屋の照明のスイッチをオフにするように目で合図した。

「それでは定刻となりましたので、第一回、『世界一分かりやすいバンパイア帝国のすべて』を始めさせて頂きたいと思います。私、本日の司会を務めさせて頂きます、三波春夫でございま〜す」と緊張した面持ちで挑んだギャグは見事に滑り、周囲をヒヤッとさせる場面もあったが、何とか助手の坂本が後を引き継いで、質疑応答までこぎつける事が出来た。スノーデンは、ホッとした表情で会場を後にした。

 バンパイア帝国の真の目的を知った渋沢と早川は、無言のまま、気が付いたら、ロシアのウクライナ侵攻を期に撤退を発表した、マクドナルドの後継店(フクースナ・イ・トーチカ)の席に座って、ハンバーガーを食べながら、「うーん、同じ味だ」と納得しながら、(それもそのはず、厨房機器もレシピも従業員もそのまま引き継いて営業されていた)スノーデンから聞いた、バンパイア帝国の事を考えていた。

「これからどうしますか?」フライドポテトを見つめながら、結構いけるなこのポテトと思いながら、渋沢が言った。

「我々も日本に帰りましょう」

「やはり貴方もそう考えていましたか・・」

「えぇ」

「それでプー上等兵家族はどうしますか?」

「私に任せてください」早川は難易度の高い作戦を実行する決意を固めたのであった。

 翌日、早川がとった行動は素早かった。先ずは、ハリウッド映画のオスカー受賞経験者のメークアップアーティストにメークを依頼し、KISSのジーンシモンズにしようか、ピーター・クロスにしようかと悩んだ挙げ句、中を取ってエース・フレーリーのメイクを依頼したが、結果的にはKISS全員のメイクを依頼した。

次に、プライベートジェットを一機とパイロット、コンサート用の音響機材をホテルに届けさせ、ウドー音楽事務所の協力を得て、ホテルの大宴会場でプライベートコンサートを開催する為、特設舞台を設営し、ロシア語の招待状を書くため、駅前のホームレスを無作為に選出し、予めグーグル翻訳で翻訳しておいたロシア語に不備はないか、入念にチェックしてもらった後、ロシアのマスコミ各社と政府高官宛に送付し、盛大なロックショウを準備していた。以前、日産の元CEOで保釈中だった、カルロス・ゴーンが日本からレバノンへ逃亡した手法でプー上等兵の家族を日本へ帰国させるカルロス・ゴーンの逆バージョンの作戦を秘かに考えていたのだ。作戦名は『Go To hell 命懸けの極秘入国作戦、必ず!山形の土を踏んでみせるぜ!』と命名した。当然、当作戦のテーマ曲は、AC/DCの(♫Highway to Hell)に決めていた。

 それではここで、カルロス・ゴーンがどのようにレバノンへ逃亡を図ったか、おさらいしておこうと思ったが、箱の中へ入っていた時の気持ちも含めて本人が語っているインタビューを英会話のユーチューブチャンネルで見つけたので、そちらを見て頂こうと思います。ついでにこの動画が、皆さんの英会話の勉強に役立てて頂ければ幸いであります。

  ↓
カルロス・ゴーンのインタビュー
https://youtu.be/Kr-a0uc6gjY?si=gl2H7nGcjoiBlLSq


 何故だか気が変わって、モスクワ赤の広場にライブ会場を急きょ変更した早川は、先程、言い忘れていた、逃亡用の楽器を入れる大きな箱を用意する際、表側には宮大工に特別に指示して、最近は見なくなった花嫁道具の総桐の簞笥ではなく、意表を突いて、高島屋の売り場でも扱ってないであろう桜の木でこしらえた木地に、黒の漆を塗り、先日、能登半島で被災した、輪島の蒔絵師が画いた、金の菊の文様が入った木箱を発注していた。


「実は日本で盛大なイベントを企画しています」と渋沢はプー上等兵に言った。

「イベント?」

「えぇ、上手くいけばもうすぐ山形に帰れますよ」

「しかし、どうやって?私達家族は国際指名手配になっているのでは?」

「心配しないでください。私の頭の中ではもう計画は成功しています。とにかく、明日の夜、赤の広場に来てください」

 その日の夜、赤の広場は、人で埋め尽くされていた。広場の中央に設置された特設ステージは、ムービングライトで照らし出されていた。そこへ現れた、ジーンシモンズ役の布川の妻、ポール・スタンレー役の布川の長女、エース・フレーリー役のプー上等兵、ピーター・クリス役の布川の長男がステージに現れ、赤の広場に歓声が渦巻いた。

KISSが以前に参加した、Ramonesのトリビュートアルバムから(Do you remember rock'n roll redio)のナンバーで一夜限りのライブはスタートした。観客のボルテージは一気に最高潮に達し、近隣からの苦情の電話が鳴り止まない地元警察署では、緊急にモスクワ全土のパトカーが赤の広場に集結し、周りをバリケードで囲う為、機動隊が出動するという場面もあったが、この日のライブのラストのナンバー、『Highway to Hell』のサビでは、♫Highway to Hell♫モスクワ市民の大合唱で街中が割れんばかりの熱気に包まれていた。興奮した聴衆たちのアンコールを求める叫び声は、ロシア全土を飲み込んでいった。

その時、バックステージでは、特注で宮大工に造らせた木箱(棺桶)の中に布川家族を隠して車に乗せ、急いで空港へ向けて出発した。観客に悟られないようにと、アンコールに応えてステージに出てきたのは、ジーンシモンズ役の早川、ポール・スタンレー役の渋沢、エース・フレーリー役の万里子、ピーター・クリス役には、スノーデンの助手をしていた留学生の坂本が買って出て、一夜漬けで覚えた♫Detroit Rock City♫のギターリフを弾く真似をして、この日のShowは終わった。
ライブを終えた渋沢等はコンサートスタッフとの談笑もそこそこに、布川一家が待つ空港へと向かい、プライベートジェットに乗り込んだ一同は無事にモスクワ空港を飛び立って行った。

 渋沢等一同を乗せたプライベートジェットが関西国際空港についた時、恐ろしい光景が彼らを待ち受けていた。

「この箱の中身を確認させて下さい」

カルロス・ゴーンの事件以来、税関のチェックは厳重になっていた。

「箱の中身ですか?」

「はい」

「中身は、宮内庁御用達の音響機材ですが」と言って、早川は、菊の御紋を指さした。

「ですが、中身は確認させて頂きます」

渋々箱を開けると、布川太郎扮するエース・フレーリーの眠っている顔が見えた。透かさず、早川が税関職員に説明した。

「これは蝋人形です。キッスの蝋人形まつりに出展のため、Hollywoodの映画関係者に製作させたものです」

その時、悪夢が渋沢等を襲った。布川太郎扮するエース・フレーリーが大きなクシャミをしてしまったのである。すべての箱は開けられ、中身は4人のKISSではなく、国際指名手配中のプー上等兵一家だと、税関にバレてしまったのである。

「直ぐに警察に連絡しろ!」

万事休止・・・と思った次の瞬間、事態は急展開した。

「静まれ!静まれ!この印籠が目に入らぬか!ここにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くも先の天下の副将軍水戸光圀公にあらせられるぞ!」 

「はっはー」と、税関職員数名はその場にひれ伏した。

水戸黄門の水戸光圀公役に渋沢が、助さん役に早川が、格さん役には、スノーデンの助手で留学生の坂本が又々買って出てくれていたのだ。

この日の為に早川は葵の御紋が入った印籠をアマゾンで購入し、秘かに懐に隠し持っていて、この後のお説教シーンの為の黄門様の台詞を、昨日の夜、飛行機の中で執筆していたのであった。

「この家族を自由にしておやりなさい」

「しかし、この者たちは!指名手配中の」

「黙らっしゃい!」

と、税関職員を怒鳴りつけた、黄門様は、昨日の夜、徹夜で早川が書き上げたロングバージョンの台詞を読み始めた。

「この家族は今まで離ればなれに生活し、どれだけ苦労してきたか、分かりますか・・」等と今回の黄門様の演技は、かなりの力の入れようで、約45分間の説教シーンは、放送時間をスポンサーのご厚意により延長せざる負えない状況であったと、後日、税関関係者は新聞記者のインタビューに答えている。

そんなプー上等兵一家を祝福するように突然、梅田コマ劇場の回り舞台が静かに動き出し、180度回って劇場の舞台に現れたのは、なんと!!!
ヤックン、フックン、モックン!
シブがき隊の3人であった!と言いたいところだが、薬丸役には渋沢が、布川役には早川が、本木役にはこれ又、助手の坂本がが務めることと相成った。そして、後方の舞台を埋め尽くすように全国から、選りすぐりの寿司職人が集められ、場内の客一人ひとりに極上の寿司を振舞う為、スタバっていた。そして、夢にまで見た、シブがき隊の一夜限りの再結成ライブ!『リメンバー!スシ食いねェ!』が、華々しく開演された。

全すし連(全国すし商生活衛生同業組合連合会)の全国加盟店の面々総勢300名の店長クラスの職人がバックコーラスに加わって、合いの手を入れて盛り上げてくれた。

♫トロは中トロ♫コハダアジ♫
(ヘイラッシャイ)
♫アナゴ甘エビ♫しめサバスズキ♫
(ヘイラッシャイ)
♫ホタテアワビに♫赤貝ミル貝♫
(ヘイラッシャイ)
♫カツオカンパチ♫ウニイクラ♫
(ヘイラッシャイ)
♫ここの寿司屋は日本一♫
♫スシ食いねェ!♫
♫スシ食いねェ!♫
「スシ食いねェ!」
アガリ アガリ アガリ
ガリ ガリ ガリ
♫タコの頭はまんまるで♫
(ヘイラッシャイ)
♫三角野郎はイカの耳♫
(ヘイラッシャイ)
♫タイにほれるは子持ちのワカメ♫
(ヘイラッシャイ)
♫ヒラメの縁側縁むすび♫
(ヘイラッシャイ)
♫ここの寿司屋は日本一♫
♫スシ食いねェ!♫
♫スシ食いねェ!♫
「おやじハウマッチ!」
おあいそ おあいそ おあいそ
おあいそ おあいそ マイド!

作詞:岡田冨美子
作曲:後藤次利
歌:なんちゃってシブがき隊

 次の日の朝、布川太郎一家は故郷の山形へと帰って行った。

 その後、プー上等兵は、(布川太郎)改め、薬丸太郎として、生きていくことになる。しかし、布川太郎のものとされる偽の遺骨は、薬丸家でも布川家でもなく、政府の目を欺くために建立されていた、本木家の墓に納骨される運びとなった。その後の薬丸太郎は、石川秀美似の嫁と4人の子供とハワイへ移り住み週1日のペースで東京へ出稼ぎに来る生活を送っている。そして、シブがき隊の再結成実現の為に尽力するが、頑固さでは定評の本木を落とすことが出来ず、未だ実現には至っていない。

長くなったので、今回はこれでおしまい。

「スパーシバ」ありがとう

つづく



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