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「妄想警察P」第九話

第九話:権力の中枢へ潜り込め!

前回までのあらすじ:
国際指名手配されていた元バンパイア軍の上等兵(布川太郎)一家を、ロシアから故郷の山形へ極秘入国させる為、カルロス・ゴーンが逃亡した手法を利用し、無事に一家を帰国させることに成功する。布川からバンパイア帝国の闇を知った渋沢と早川は次の一手を打つことになるのだが・・・

登場人物:
渋沢吾郎:作家、心理学者
早川:渋沢の知人で元銀行強盗犯
万里子:渋沢行き付けのカフェ店員
早川の知人:選挙プランナー
美山:議員秘書
ウグイス嬢:ひかる

渋沢は、日本に帰ってからずっと、布川から話を聞いたバンパイア帝国の闇について、考えていた。

「リバタリアン帝国は自らのコミュニティで頭を悩ませている熊の除去に専念する為、バンパイア帝国との停戦合意に署名し、その後、米国をリバタリアンの領土とし、日本をバンパイアの領土とする事で合意したという話を聞いたことがあります」

「どういう意味ですか?」

「要するに日本政府は権力を保持していないという事です」

「バンパイアが裏の政府であると?」

「あそらくですが、それ以上は・・」


渋沢は早川にメールを送信した。
「政界の闇について探らなければ・・布川さんの話が本当かどうか確かめたい・・・」


 後日、渋沢は、地元の有力議員の事務所に秘書としてボランティアで万里子をもぐり込ませ、情報収集をさせることにした。

「それで、何かわかりましたか?」

「いえ、まだ何も・・」

「そうですか・・」

早川は考えていた事を渋沢に伝えた。

「永田町を目指すしか無いでしょうね」

「永田町?」

「えぇ、私に幾つかアイディアがあります。とにかく、坂本君にも協力してもらうことにしました」


先月から、国会議事堂の食堂でバイトをしながら生計を立てていた坂本を、前回(ロシアで大活躍)に引続き、登場していただく以外ないと考えた早川は、かなり大雑把に計画の趣旨を説明し、坂本にも情報収集の協力を得る事にしていたのだ。


「実は長野の選挙区の補欠選挙が来月に控えていて」

「補欠選挙?」

「えぇ」

「汚職事件で議員辞職した」

「あぁ、ニュースで見ました」

「そこで長男が候補として、立つ予定なのですが、私の知り合いに選挙プランナーをやっているのがいまして、その彼が今回の選挙は厳しい戦いになりそうだと言って、私に手伝ってくれないかと打診がありまして・・」

「それで?」

「もし、その長男が当選したら、議員秘書として永田町に潜り込むことが出来るかと」

「なるほど・・・」

「週が開けたら長野へ行く予定なのですが、渋沢さんも一緒にどうです?」

「分かりました」


 翌週、長野の選挙事務所は地元の後援会長、与党幹事長から送り込まれた秘書はじめ、支持者の人達で忙しそうに選挙準備が始まっていた。

早川の知人で選挙プランナーのここでは仮にA氏としておこう。そのA氏が早川の顔を見て忙しそうにしながらこう言った。

「急遽、熊本の補欠選挙の仕事が入った。それで今から行かないと行けないので、ここは、早川!お前に任せることにした」

「任せるって?」

「心配するな、段取りだけはつけてある。あとは秘書の(深津絵里似)美山君に聞いてくれ。それじゃ!」

「ちょっちょっ、待ってよ!」と似てねぇキムタクのモノマネを思い切って言ってはみたが、あまりにも似てなかったのだろう。振り向きもせず、車に乗り込んで行ってしまった。

「早川さんですね、美山です。とにかく熊本も激戦なので、ここは私達で頑張りましょう!」と深津絵里似の美山の言葉にさすがの早川も舞い上がってしまい、裏返った声で、渋沢を美山に紹介した。

「こちらは、作家で心理学者の渋沢さんです」

「エッ、心理学者、じゃぁ渋沢さんに候補のキャッチフレーズを考えてもらえませんか?」

「えぇいいですよ」と渋沢も真っ赤な顔をして言った。

その時、慌てて一人の支持者が事務所に入って来た。

「大変だ!候補が居なくなった!」

「エッ!候補が居なくなった!」

「家に迎えに行ったら、こんな置き手紙が」

「ちょっと見せて!」

以下は候補が家に残し一人で出て行く数時間前に書かれたであろう置き手紙の内容である。

『後援会並びに支持者の皆さんへ
本日、私は朝5時3分の始発列車の一番のりばから、出発予定の東京行きの列車に乗り、この街を出ていきます。別に惚れた女と駆け落ちする訳では無いので、パチンコ屋の住込みで働いてるのでは無いか等と、気を回すのはやめてください。私はただ疲れたのです。口下手な私が選挙戦を噛み噛みな演説で喉を壊すほど支持者に訴えた揚句、真っ黒に日焼けした自分の顔を鏡で見ながら「もう少しだ!立つんだジョー!」と、『あしたのジョー』みたいな、とてもヘビーな戦いを勝ち抜く自身が私にはありません。こんな私を応援してくれた皆さん、本当にごめんなさい。選挙が終わったらお土産の赤福餅を大阪、西梅田の地下街で必ず買って帰る予定ですので、どうか、私を探さないでください』

しーんと、静まり返った事務所の中で、口を開く度胸のある者は一人もいなかった。

が、しかし、深津絵里似の美山が口を開いた。

「次の候補者を早く見つけないと大変なことになるわ!」

とその時、事務所の電話のベルが鳴った。

「美山さん!大変です!」

「どうしました?」

「来週の街頭演説に急遽、総理が応援に駆けつけて下さるそうです!」

「え~~~」美山はその場に倒れこみそうになった次の瞬間、早川の方を見ていった。

「早川さん!代わりに候補として立ってください」

「え~~~」

「お願いします」

「私より渋沢さんのほうが適任ではないかと、心理学者ですし」

「ちょっと待って下さい。心理学と政治は関係ないかと」と、慌てて渋沢が返すと透かさず美山が言った。

「いえ!関係あります!大いに関係あります!渋沢さん!お願いします!」
そこへ後援会長も割って入ってきて、

「それはいい、そう言われてみれば、あなたが適任者だ!渋沢先生!よろしくお願いします!」

「ちょっと待って下さい。私が適任者だなんて、そんな馬鹿な、早川さんなんとかして下さい」と早川に助け舟を求めたが、

「渋沢さん、この際、お受けになられたら如何ですか?」

「お受けになられたらって・・とにかく、一晩、考えさせてください」

 次の日の早朝、渋沢向けのキャッチフレーズが書かれた横断幕が出来上がっていた。
『渋沢吾郎を国会へ!国民目線でがんばります!』

渋沢は横断幕のありふれたキャッチフレーズを見ながら、これが政治の現実か・・ポツリと呟いた


ということで、急遽、渋沢が激戦区長野の補欠選挙の候補者として後援会の強引なラブコールの甲斐あって、立候補の決意を固めさせられることになったのであった・・

 「今回の選挙戦は『チェンジ』でいこうと思ってるんです」早川は自身有りげに言った。

「チェンジ?」

「木村拓哉主演のドラマがあったの覚えてませんか?」

「あ〜あ、見たことあります」と美山が答えた。

「選挙演説の原稿については、あのドラマにあったシーンを拝借して考えてみました」


「『僕は約束します。ホニャララホニャララを』等と国民に対して耳障りの良い言葉を並べ立てて、キムタクのあんまにてねぇモノマネで熱弁するっていうのは、どうかなって・・」

「キムタクの似てねぇモノマネっていうのがちょっと・・」と渋沢が難色を示した。

すると、ウグイス嬢でひかる役の加藤ローサが意表を突いて、
「それじゃ、えっ!鳳啓助でございます!っていうのはどうかな?ダメ?」

「今時、長野で鳳啓助を知ってる人が居るとは思えない・・」とうつむいて、渋沢が言った後、会話に入りたそうにしていた、秘書の美山が、「ここは王道で田中の角さんのモノマネで、まーそのー!っていうのは・・・やっぱダメ?」と真っ赤な顔をして言った、深津絵里似の美山に同調する空気感になっているところに、「それじゃ、足して2で割る方法で、今回の選挙戦は鈴木宗男スタイルをベースに戦略を組み立てていきましょう」と、早川が携帯にメモしていたアイディアを話し出した。

「先ず、選挙カーに乗る時のスタイルは新党大地で先日、ロシアを訪問したという理由で、猪瀬直樹が強硬に除名にするべきだと主張して騒いでいた問題で、維新の会を離党した、鈴木宗男先生に肖って、昔懐かしの暴走族もやっていた、ハコ乗りを採用したいと思います。それから、ファッションは長野県知事だった田中康夫ちゃんが、『なんとなくクリスタル』で一世を風靡した後、ガラス張りの政治を実現すると称して、わざわざ内装工事を地元の業者に丸投げする形で、知事室をガラス張りにしたように、短パンに白のランニングシャツに蝶ネクタイを首から引っ掛けただけの!ガラス張りの衣装!で、有権者の心を掴む作戦を考えています」

「しかし、それだけでこの選挙に勝てますか?」と心配そうに渋沢が言った。

「大丈夫です。私に任せて下さい。この後の策もちゃんと考えています」


 選挙戦初日の朝、辺りは静まり返っていた。選挙事務所から出てきた渋沢のファッションは予定通り、短パンに蝶ネクタイを首からかけ、白の靴下に黒のエナメルの革靴でアクセントをつけた出で立ちであったが、パンツについては、清潔感を選挙民にアピールする為、真っ白な短パンに、蝶ネクタイは情熱の赤のネクタイを首に引っ掛けて、白のパンツと赤のネクタイとで、オメデタイ紅白のイメージを演出し、日の丸の国旗を意識した保守的なコーディネイトで必勝祈願のハチマキと、白の手袋をして、支持者の拍手の中、颯爽と登場した渋沢は若干、緊張した面持ちであった。

張り詰めた空気の中、秘書の美山が候補にたすきを掛けて、激動の選挙戦がスタートした。

「渋沢!渋沢!渋沢吾郎でございます!朝早くからご苦労さまです。国民目線で頑張ります!勝たせてください!渋沢吾郎を国会へおしあげてください!」

選挙戦初日の第一声は駅前の歩道橋下で行われた。

昨晩、早川が徹夜で書き上げた選挙演説用の原稿に軽く目を通した渋沢はマイクを持って、聴衆に語りかけるように話し始めた。

『僕は約束しません!この街にカジノを誘致し、全国民から税金をむしり取り、ギャンブル依存症を増産させることを!』
『僕は約束しません!中国とズブズブの関係を築いてこの地域の自然を外資に売り渡すことを!』
『僕は約束しません!裏金をため込んで億万長者になることを!』

 選挙戦も中盤に入った頃、早川がマスコミ各社の世論調査を見ながら、次の手を考えていた。

「伸び悩んでるな、次の手で行くしかないな」

「次の一手って?」と美山が早川を見ていった。

「熱愛報道でバズらせるんだよ」

「熱愛報道?誰と?」

「そこが問題で、綾瀬はるかと長澤まさみで悩んでいるのだが、どちらも捨てがたい。しかし、ここは・・個人的な直感に従って、長澤まさみがいいと思う」

「へぇ~石原さとみ、とかは?」

「その線もあり得るが・・・石原さとみは既婚者で2歳の子供もいると日曜のあさ七時からフジテレビ系列で放送されている対談番組を見て、私の古くからの友人がショックを受けていた」

「じゃぁ、長澤まさみってなんで?」

「彼女の過去の男性遍歴を見てみると、二宮和也からリリー・フランキーまで幅広い。おそらく、私の見たところ、かなり度量が大きい女優だと言えるのではないかと・・・今回は彼女に迷惑をかけることになるからね」

「それでどうやって渋沢さんと?」

「それなら心配無用。長澤まさみが、レストランから出てくるところを待ち伏せして、その後ろから渋沢さんが出てくるところをフライデーに撮らせよう。内容は適当に書いてくれるだろう」

「その後はどうなるの?」

「上手くいけば確実にバズル」

「その逆だったら?」

「その時になったら考えるよ」

 翌週の金曜日の午後、芸能記者にマイクを向けられた長澤まさみがテレビに映し出されていた。勿論、ノーコメントで足早に車へと乗り込みその場を後にした。

(注)普通は長澤まさみの事務所等が雇った恐面のお兄さんから、恐ろしい目に合わされたりするんだろうけど、ここでは割愛しておきますのでご了承下さい。

フライデーの見出しは『激戦区DEデート』写真うつりは悪くはなかった。渋沢吾郎 本人と書かれたタスキをかけた渋沢と長澤まさみが、焼肉屋から別々に出てくる姿をバッチリとツーショットで写っていたからだ。

「これで確実にバズルはずだ」早川は久しぶりに興奮していた。

しかし、結果は長澤まさみの支持層から大ブーイングを受ける結果となってしまった。

 「まずい、ヒジョウーーーにまずい」事務所前にはマスコミ関係者が、渋沢の帰りを待ち構えていた。早川は悩んだ挙げ句、次の手を打った。

「記者会見しかないな・・」

「じゃぁ急いで、品川プリンスを押さえておきます」と美山が言ったが、透かさず早川が、「事務所前で囲み取材に応じるようにしよう。記者に対する模範解答は今から言うからメモして」


 「渋沢さん!先週のフライデーで長澤まさみさんとのツーショットが報じられていましたが、交際されているのですか?」

「その件について、先週のフライデーの記事は、事実ではありません。長澤まさみさんには大変ご迷惑をおかけして申し訳ないと思っております」

「では何故?あの店に二人で食事をしてたのですか?」

「いえ、他に支持者の方もいらっしゃいましたし・・」

「その中に長澤まさみさんもいた?」

「それは・・」

「それは?何ですか?」

「食べたかったからです」

「食べたかったって・・長澤まさみを食ったって事ですか?」

「いえ、カルビと塩タンをです」

「カルビと塩タンって?あなた今、長澤まさみが食べたかったから食べたって、おっしゃったじゃないですか?」

「そんな事言っていません!私はただ・・」

秘書の美山が割って入ってきて、「次の予定がありますので、会見はこれで終わらせて下さい」

「最後にもう一問だけ!食事は美味しかったですか?」との記者の質問に渋沢は静かに答えた。

「明鏡止水の心境でございます・・」と薄っすらと涙を浮かべながら、カメラ目線で、最後に大物の政治家が汚職をしたときに決まって使う捨て台詞を言い残して、事務所へと入って行った。

「取り敢えず今日のところはこれで良いだろう。少し様子を見よう」とほっとした表情で早川が美山に言った。

 翌朝の東スポを初めとするスポーツ紙各社の一面には、『涙の焼肉会見』と大見出しになっていた。お昼の情報番組では連日、各局トップでこの話題を取りあげていた影響で、今回の9候補激突の補選で唯一、政治経験ゼロの無名候補が一気に全国区の有名候補になっていったのであったが、不思議な事に女性層の支持率が急速に伸びてきていたのだ。


「今週の世論調査では、一気に注目を集めて、3位にまで急上昇している・・・奇跡が起こるかもしれない・・・」早川の興奮は頂点に達していた。この時既に早川は、最後の一手を考えていた。

 投票日の前日の午後七時、渋谷駅ハチ公口スクランブル交差点は静まり返っていた。交差点脇にあるビルに設置された日本最大級の「シブハチヒットビジョン」は、その時を待っていた。

失踪中の長男も、いても立ってもいらてなくなったのか、片手にお土産の赤福餅を持って最後の演説をこの目で見たいと地元長野の駅前の歩道橋の下の陰に隠れていた。

渋沢陣営の街宣車が駅前に到着したその時、早川渾身の最終作戦が開始された。

プロレスのリングを駅前のショッピングモールの真ん前に設営し生の公開質問状対決!60分一本勝負!のゴングが鳴らされ、元プロレスラーで新日本プロレスのレフェリーのジョー樋口が軽快なステップでリング上で円を描くように一周したところで、試合は開始された。

まず最初にリングに上がったのは、衆院東京15区補選で公開質問状と称してヤクザまがいの選挙妨害で大暴れした、つばさの党の黒川敦彦代表と根本良輔氏がリングに上がって、渋沢陣営に対して、逆公開質問状を叩きつけ、バトルを演出したが不発に終わり、その状況に業を煮やしたNHKから国民を守る党の立花孝志党首も乱入して、つばさの党の黒川の首根っ子を押さえてロープに振り、場外へと放り投げた。その日の実況は懐かしの、古舘伊知郎氏にご登場願い、解説には、机を叩いて役人を怒鳴りつけてでも、云う事をきかせる事で定評のある、新党大地の鈴木宗男先生も大事な試合を盛り上げてくれていた。そこへ大阪万博でズッコケまくっている、支持率急落中の維新の会の吉村共同代表が、自慢のフェラーリでリング横に乗りつけ、リング上にあがってマイクを握ったが、余りの聴衆のブーイングに声は掻き消され、涙目になった吉村共同代表を、颯爽とリング上に登場した、れいわ新選組の山本太郎がジャンピングニーアタックで仕留めた関係で、飯山あかりのアラビア語講座は幻となって消えた。マイクを奪い取った山本太郎は、天から降りてきたアントニオ猪木に平手を3発食らわされて、その場で失神し、渋沢が押さえ込んで60分一本勝負の終了のゴングが街中に鳴り響いた。

 場内の照明が消され、リング上に上がった渋沢にスポットライトが当たった。渋沢は首にかけられたE.YAZAWAのタオルを天高く放り投げ、白のテープで巻き付けたれたスタンドマイクを手慣れたマイク捌きで、アンコール曲『トラベリングバス』を矢沢永吉のトリビュートバンド、永ちゃんマンに成りきってシャウトした。

♫ルイジアナ〜!
♫テ〜ネ〜シー!
♫シカ〜ゴ〜!
♫遥かロスアンジェルスまで〜
♫きつい旅だぜ〜お前にわかるかい〜

この模様はライブで渋谷ハチ公口のオーロラビジョンに映し出されていた。街ゆく人々は足を止め、次第に大勢の人だかりができ、サッカーの日本代表戦の時のような異常な盛り上がりで、交通整理の為に渋谷スクランブル交差点名物のDJポリスが、この場を治める為、急遽、出動する騒ぎとなった程であった。


 翌日、選挙投票日の22時を過ぎた時点で、渋沢吾郎に当確がでた。奇跡が起こったのだ。


「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!ありがとーうございましたー!」

第十話につづく。

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