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「妄想警察P」第三話

第三話:宇宙とのコンタクトを遮断せよ

人間を監理する妄想法とは、権力を保持したい政府が、神に代わって未来の社会を形成する上で、不必要な人々のcreativityを監視、選別し、人間に代わって、AIが人間の内面の思考までも管理することにより、人々の誤った行動を事前に規制、監理することを目的としている。その為、不必要な思想信条の自由をこの世から永久に撤廃することにあると、結論付けられる。(バンパイア軍:政治学御用学者:Dr.アーノット)


人間監理担当技術者で無神論者のアンドロイド/ゼッティーJrは、渋沢の体内に埋め込んだチップの動作確認を入念にチェックしていた。
※ゼッティーJr:バンパイア軍の軍医Dr.ゼッティーの死後、軍によって製作されたアンドロイドのことを言う。

「Okay!ゼッティー!動作確認のチェックは済んだ?」と、Dr.キラーがゼッティーに爽やかな声で訊ねた。

「アトゴフンデ、オワリマス」と、アンドロイドなので、しょうが無いのだが、それっぽく、ゼッティーは答えた。
あっそれから、「Okay!ゼッティー!」は、「Okay!グーグル!」のパクリである。

「Okay!ゼッティー!渋沢吾郎の一部の記憶を消しておくのを忘れないでくれよ」

「イチブノキオク?トハ、ココニコウソクサレテイタ、キカンノコトデスカ?」

「そうだゼッティー!君は優秀だ」

ゼッティーは、渋沢の一部の記憶を削除して、ゴミ箱に入れた後、ゴミ箱を空にしますか?の問いに、はいをクリックした。

体内にチップを埋め込まれた渋沢は何も知らずに保釈された。バンパイア軍の上層部で渋沢の扱いについて、議論が激しく
行われてきたが、渋沢がこの先出会うであろうソウルメイトとの関係を観察しながら、AIのビックデータに情報を蓄積させることが今後のバンパイア政府にとって都合の良いことだと判断された。なので、逮捕から保釈までの期間の出来事だけは、渋沢の記憶から消されてしまった。

目が覚めると渋沢は何処かの病室のベットに横たわっていた。

「渋沢さん、目が覚めましたか?」

看護師の真希が病室の窓のカーテンを開けた。眩しい朝の光が差し込んで、秋の匂いがした。

「ここは何処ですか?」

「病院ですよ」

「病院?何も覚えていない」

「覚えていないのですか?」

「はい」

「一週間もここで眠っていたのですよ」

「まさか・・」
渋沢は起き上がろうとしたが、一人では起き上がることが出来ず、看護師の真希が、慌てて渋沢の背中に手を回して、
「あまり無理をなさらないで下さい」

「大丈夫です。すいません」

「直ぐに先生を呼んできます」と言って、真希は病室から出ていった。

※ここまでは、よくあるドラマのシーンをそのまま、コピーアンドペーストさせて頂きました。

「渋沢さん、ご気分はいかかですか?」

と、財前教授に何となく目元が似ているような感じの担当医の清水が入って来た。

「少し頭痛が・・」

「もう大丈夫です。明日には退院できますよ」

「何故?私はここに?」

「覚えていらっしゃらないんですね」
清水はニヤッと笑って、

「少し疲れが溜まっていたのでしょう。ご自宅の近所で倒れられているところを、親切なご近所の方が当院へ連れてきてくださったそうですよ」

「そうですか・・」

「ただ念のため、週に一度は診察にいらしてください」

「分かりました」

渋沢は目を閉じて考えていた。が、何も思い出せなかった。

翌朝、エレベーターで1階のエントランスへ出てみると、何故か、病院の医院長以下、病院のスタッフ一同が整列して、渋沢の退院を祝ってくれた。退院お祝いの拍手の中、花束の贈呈と、石原裕次郎か美空ひばりの退院ではないか!というぐらい!派手な演出であった。高額な医療費の請求書を回す前に行われる、まぁ、言ってみれば、ホストクラブのシャンパンコールみたいなもんだと考えて頂いても、差し障りはないだろう。

「渋沢さんのカルテは、担当医の私以外には見せないように注意してくれたまえ」

と、清水は、真希の顔をジロっと見て言った。

「はい、でも何故?」

「いいから私の言う通りにしてくれたまえ。いいね」

「あっはい・・」

清水は真希の後姿を見ながら、「この女が渋沢のソウルメイトかどうか・・今にハッキリする・・」

誰もが知っているこの有名大学病院の実体は、バンパイア軍の直属機関である、別名、妄想病院と党幹部の間で呼ばれている。勿論、そのことを病院内で知っているのは病院に潜り込んでいる一部のバンパイア軍医だけである。

自宅に戻った渋沢は、デスクの上の原稿とコーヒーカップを見ながら、記憶を辿っていた。

「朝方に原稿を書き上げて、コーヒーを飲んだ。その後、玄関のベルが鳴った・・それから先が・・思い出せない」

渋沢は家を出て、行きつけのカフェへ出掛けていった。

その時、マイケル捜査官は、渋沢の自宅前で張り込みをしていた。

「ボス!渋沢が今、家を出ました」

「そうか!そのまま尾行を続けてくれ」と、太陽にほえろの石原裕次郎のように、眉間にシワを寄せて、厳しそうな表情で、ジャーメイン警部が、「マイケル!渋沢に気づかれるなよ」と付け加えた。

「了解!」

マイケルは、犬の小便で根元が黒くコテコテに臭いがしみ込んだ、電信柱に身を隠しながら、そろ〜りそろりと渋沢の後を追った。因みにこの日、マイケルの頭の中で、太陽にほえろのテーマ曲が、消えることはなかった。

近所の行き付けのカフェに着いた渋沢は、何時ものように、抹茶のラテをオーダーした。

「お待たせしました」

「ありがとう、あっ、そのTシャツ」と、思わず店員の女の子が着ていたTシャツを見て言った。

「このTシャツですか?」

「確か・・SF小説のアンドロイドは電気羊の夢を見るか?」

「あっ、はい、お気に入りなんです」

「あっそう、この店には最近?」

「はい、先週からバイトで、常連のお客様ですか?」

「ほぼ毎日来てるかな、気分転換に」
渋沢は一瞬、「この娘に会ったのは確かに初めてだ・・・」

「どうかしましたか?」

「あっいや、なんでも・・・ありがとう」

「ごゆっくりどうぞ」

隣の席に座って、間違い探しのゲームに熱中しているふりをしながら、マイケル捜査官は、二人の会話をスマホのヴォイスレコーダーにRECし、保存した。タイトルを『黒いTシャツの女、カフェ店員バイト万里子』にした。ちょっと長いけど。

「やはりこの女がソウルメイトか・・早速、渋沢に接触してきやがった・・」
取り敢えず、渋沢が頼んだものと同じ、抹茶のラテを注文した。ヒョットして他に何か掴めるかもしれないと、マイケルは、マイケルなりに考えての行動であった。

グルメサイトのブロガーを運営している早川のサイトに訪れたフォロワーは、10万人を超えていた。特にスイート好きの早川のサイトは、女性のフォロアーが数多く、幅広い年齢層に支持されていた。早川は、最近になって心理学の記事を熱心に読むようになっていた。その中でも特に渋沢の書いた記事を好んで読んでいた。過去に読んだ『スイーツ好きをゲットしろ!グルメブロガーの心理学』の影響でグルメブロガーとして名を上げた早川は、渋沢のことを神と崇めていた。早川は、フォロアー10万人を突破した記念に思い切って、渋沢のオフィシャルサイトのコメント欄にお礼のメールを送信した。このメールの送信日が、初めて早川が渋沢に接触した、忘れられない日となった。

「マイケル!なにか掴めたか?」

「早川が渋沢に接触しました」

「早川が?」

「はい」

「そうか・・早川から目を離すなよ。今に必ず奴等は宇宙とコンタクトをとってくる。いいか!それを遮断するんだ!」

「あっ、はい」

「我々の世界に邪魔者は介入させない」
ジャーメイン警部は、決まった!と今の自分のセリフに酔いしれて、ドヤ顔で辺りを見回したが、そこには誰もいなかった。
♫誰〜れもいない海♫二人の愛を確かめたくって〜♫突然、ジャーメイン警部のそばに立っていた、ゼッティーはふりを付けて、歌い出した。ディープランニング・ジュークボックスには、南沙織の『17才』の歌詞とメロディーは、ビックデータにインストール済であるから、当然である。逆に言えば、和田アキ子の『あの鐘を鳴らすのはあなた』を、アンドロイドのゼッティーが首筋の血管を浮き上がらせながら、熱唱するのも可能だということだ。

その頃、プー上等兵を乗せた三段ロケットは、宇宙の果ての牢獄へ行く予定だったが、何かのトラブルで、想定外のロシア北東の東シベリア海に不時着し、スノーデンの紹介でプー上等兵は、ロシア軍に入隊していた。

「いっちにーさんしー」
「いっちにーさんしー」
「いっちにーさんしー」
「へんたーい!とまれ!」

プー上等兵は、ロシアで生き生きと軍隊生活をエンジョイしていた。

その時、あなたには聞こえていただろうか?人類史上最高傑作のべートゥーヴェン第九番の歓喜の歌が。

第四話につづく。


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