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日産キャシュカイ

 たまたまウェブのニュースを見ていたら、日産自動車が2月に欧州で発表した新しいSUV、キャシュカイのニュースが出ていました。そもそも車に関心がないので、この車の特徴などまったくわかりませんが、少なくともキャシュカイという名前には大いに興味をそそられました。

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 キャシュカイをローマ字で書くと、Qashqaiとなりますが、これはヨーロッパ人でもきちんと発音できる人は少ないようで、日産オーストラリアがかなりまえですが、QashqaiはCash-Kaiと発音するとわかりやすいというビデオを公開していました。まあ、ふつうはわからないですよね。

 ただし、中東の研究をしているものにとっては、たいへん気になる名前です。キャシュカイという名前を聞いて、大半の中東研究者はイランのファールス地方やフーゼスターン地方に居住するガシュガーイー(Qashqāī)部族を想起するはずです。ガシュガーイー族は実際にはさまざまな部族の集合体で、民族的にはトルコ系やペルシア系だとされていますが、言語的にはほぼ全員がテュルク諸語(トルコ語)のガシュガーイー語を話しています(ただし、イラン人ですので、日常的にはペルシア語もしゃべるそうです)。トルコ語では、カシュカイラル(Kaşkaylar)と呼ばれています(「ラル」は複数形語尾)。

 もともとは遊牧を主たる生業としていた部族ですので、日産はおそらく沙漠や荒れ地、高原を力強く走り回るというイメージからSUVにこの名前をつけたのかもしれません。

 中東系の名前をもつ日本製内燃機関としては、今はもう生産中止になってしまいましたが、スズキのデュアルパーパス型オートバイのジェベル(Djebel)が知られています。ジェベルはアラビア語で山を意味しており(正則アラビア語の発音では「ジャバル」)、オンロード・オフロード双方(とくに後者)での走りを意図した名前なんでしょう。

 ドイツだと、数年前に生産が終わってしまったフォルクスワーゲンのシロッコ(scirocco)がおそらくアラビア語起源です。この語は、夏にサハラ砂漠から地中海方面、さらにイタリアなどヨーロッパ南部に向かって吹く南、あるいは東からの強風のことを指します。アラビア語で東を意味するシャルキーやシュルークが語源だといわれています。

 ちなみにイタリアの高級車マセラティが生産していたギブリ(Ghibli)も元を辿ればアラビア語で、正則アラビア語だとキブリー(qiblī)といいます。キブリーは、マッカ(聖地メッカ)の方角を意味するキブラ(Qibla)というアラビア語から派生した語で、シロッコと同様、北アフリカから地中海を超えて(この場合は東南から)吹く熱風のことで、訛ってギブリーと呼ばれています。

 なお、知りませんでしたが、有名なスタジオジブリ(Studio Ghibli)のジブリは、このギブリをまちがってジブリと日本語表記してしまったことが由来だそうです。ファンにとっては当然なんでしょうけど、知りませんでした。

(保坂修司)

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