_獄中哀歌_

加藤介春著『獄中哀歌』獄中哀歌(その十六)心の輪

多くの囚徒が輪をなして歩く、
山櫨の青い繁りの周囲を
くるくるとその輪が廻る。

編笠の細きすかし穴から
やる瀬なき眼をかがやかし
黄色い日かげを見まもりながら。

編笠のなかの息のつまるくるしさに
しかめし顔がいくつも並びて
大きな輪をつくり無言に歩く。

追はれるやうなおちつかぬ心が
山櫨の青き繁りの
たれ下りたる葉先にすがる。

一様にかなしきおもひを抱ける
囚人の輪が太息と太息を繋ぎ合す。

黄色い日かげの下に立ちて
一足ごとによろめく歩みを
いつまでも続けていづくへ行くや。

いづくへと行くと言ふにはあらず、
無言の長き歩みが
ただ山櫨の繁りの下を廻る。

囚人のかなしき心の輪が
山櫨の繁りの下を廻る。

底本:『獄中哀歌』南北社
大正三年三月二十三日発行
*旧字は新字に、「ゝ」などの踊り字と俗字は元の字に改めた。また、一部を代用字に改めた。

加藤介春(1885−1946)
早稲田大学英文科卒。在学中、三木露風らと早稲田詩社を結成。自由詩社創立にも参加し、口語自由詩運動の一翼を担う。
詩集に『獄中哀歌』(1914)、『梢を仰ぎて』(1915)、『眼と眼』(1926)。
九州日報編集長として、記者であった夢野久作を厳しく指導した。久作いわく「神経が千切れる程いじめ上げられた」。
詩集『眼と眼』では、萩原朔太郎が「異常な才能をもちながら、人気のこれに伴わない不運な詩人」という序を寄せた。

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