_獄中哀歌_

加藤介春著『獄中哀歌』獄中哀歌(その七)弁当

五器口よりさし入れし弁当を
蓆の上にてむくりむくり。

ボロボロの引割麦の
一盛りの飯と菜葉(なつぱ)の副食物(おかづ)。

弁当はいつしか美味(うま)くなれり。
むさぼり食べるやうになりたり。

その飯に赤き夕日が照りて
囚人にふさはしきわがくらき顔。

何故か長く獄にあれば
檻の獣に似てゆく心地す。

底本:『獄中哀歌』南北社
大正三年三月二十三日発行
*旧字は新字に、「ゝ」などの踊り字と俗字は元の字に改めた。また、一部を代用字に改めた。

加藤介春(1885−1946)
早稲田大学英文科卒。在学中、三木露風らと早稲田詩社を結成。自由詩社創立にも参加し、口語自由詩運動の一翼を担う。
詩集に『獄中哀歌』(1914)、『梢を仰ぎて』(1915)、『眼と眼』(1926)。
九州日報編集長として、記者であった夢野久作を厳しく指導した。久作いわく「神経が千切れる程いじめ上げられた」。
詩集『眼と眼』では、萩原朔太郎が「異常な才能をもちながら、人気のこれに伴わない不運な詩人」という序を寄せた。

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