加藤介春未刊詩稿『夕焼』「悪魔創世」(二)悪魔出現

何かしらぬが深い地の底にかくれてゐる
うすぐらい空を飛んでゐる
又ははるかの地平の上に
けぶれる夢の如く立つてゐる―

何か知らぬが靴の鼻に立つ、靴は光る
ステツキの銀環にとまる、環は光る―
ポケツトのくらい底へ
不意に手をさし入るるおそろしさよ
何か知らぬか
すみつこにかくれてゐる

たましひの前にかげの如く佇み
鳥の如く風に乗りて経廻り
甘い眠りが深くしみ入れば
夢の中にもフヰルムの如く現はれる

あをざめた木が悪魔に見え、
うつくしい花もまた悪魔に見える
おそろしい人間の世界よ
それは又おそろしい悪魔の世界よ
悪魔は至る所にあらはれ
あらゆるものの姿に現はれる。

底本:「福岡大学研究所報 第23号」福岡大学研究所 「加藤介春未刊詩稿「夕焼」」境忠一校訂
昭和五十年五月三十一日発行
*旧字は新字に、「ゝ」などの踊り字は元の字に改めた。

加藤介春(1885−1946)
早稲田大学英文科卒。在学中、三木露風らと早稲田詩社を結成。自由詩社創立にも参加し、口語自由詩運動の一翼を担う。
詩集に『獄中哀歌』(1914)、『梢を仰ぎて』(1915)、『眼と眼』(1926)。
九州日報編集長として、記者であった夢野久作を厳しく指導した。久作いわく「神経が千切れる程いじめ上げられた」。
詩集『眼と眼』では、萩原朔太郎が「異常な才能をもちながら、人気のこれに伴わない不運な詩人」という序を寄せた。

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