3. 溢れる思いを。簡易書留速達で。

孤独な夜があるからこそ、鮮やかな昼は意味を持つ。夢なんか信じるから叶わない。それでも、窓を開けて入ってくる風に目は覚め、心は冷え、それでも命の炎は燃え続ける。太陽より熱いマイナス1ケルビン。常識は壊すためにある。ボタンは押すためにある。

僕のおばあちゃんは、本当に昭和の人って感じで、まずは絶対におじいちゃんのことを立てるし、おじいちゃんのことを超スーパーハイスペック爺だと信じて疑わないし、新しいものは完璧に拒絶してるから、携帯も、パソコンも論外だし、だけど僕には超絶優しいし。小さい頃から人並みにはおばあちゃんと触れ合ってきたけど、あくまで祖母と孫であって、それ以上でもそれ以下でもなくって。絶対に自分を前に出さないおばあちゃん、特に深い話もしてないけど。そんなおばあちゃんも、ボケが進んできて、軽度の認知症になって、僕の誕生日も忘れて。記憶も自我もなくなっていく中で、この前、ワイドショーを見てる時に、ふと「みんな横文字ばっか使って、嫌ね」って言ったのよ。側から見れば、ただの老害の独り言。だけど僕には、チバニアンの平均変化率が無限に拡散するような、それくらいの衝撃。会津のど田舎に生まれ、女性の教育なんてまともに考えられてなかった時代に、高校に進学し、さらには英語が好きなんていうだけの理由で青学の短大にまで行っちまう、当時では革命児みたいなおばあちゃん。まともに勉強をする機会なんてなかっただろうに、ただ好きっていう気持ちだけで英語でどこの誰かも知らんやつと文通しちゃうおばあちゃん。だけど、日本語が英語に侵略されていく様は、あんまり好きじゃなかったみたい。思えば、彼女が一番大切にしてたのは「言葉」だったのかな。どんなに人の心の表面を、地球を一周できるくらい隅々まで見渡せたとしても、触れてみなくちゃ内に秘める熱さは感じ取れない。みんなは太陽。僕は水星。油性ペンは剣よりも強し。

最後に言っておくと、ちゃんと人前では祖父、祖母って言うからね。嗚呼大笑。アカデミー賞。

煩悩。

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