外来魚としてのアメリカナマズ
分布
2020年現在、アメリカナマズは、阿武隈川水系、霞水系、那珂川水系、利根川水系、荒川水系、多摩川水系、淀川水系、宮川水系、矢作川水系で生息が確認されています。国立環境研究所データベースでは島根県でもアメリカナマズが生息とされていますが、最近の生息情報はネット上からは見つけられませんでした。
特定外来生物の指定理由
2005年、アメリカナマズは「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」の施行とともに特定外来生物に指定され、生体の輸入、運搬、飼育、放流などが厳しく制限されています。
アメリカナマズは生息域が限定的であったものの今後の拡散懸念から特定外来生物の指定を受けました。特定外来生物の指定から20年近くが経過していますが、アメリカナマズと同様に拡散懸念という理由で特定外来生物の指定を受けたスモールマウスバスに比べると、その生息域はそれほど拡大していないようです。
アメリカナマズの特定外来生物指定の理由
✔上位捕食者で大型化
✔棘があり捕食されにくい
✔冷水でも生存可能
✔ドイツで持ち込み禁止
✔霞ケ浦で増殖中
✔魚類学会が指定を後押し
国内移入から逸出まで
霞ヶ浦、利根川におけるアメリカナマズ問題は養殖場からの逸出に端を発していると言われています。内水面での養殖では、いけす一つが壊れるだけで数トンというゲリラ放流の比較にならない量が閉鎖した水域に放たれるという懸念が現実となってしまったわけです。
少なくとも霞ヶ浦、利根川においてアメリカナマズの根絶は現実的ではなく、何らかの形で共存することになるでしょう。ここでは、アメリカナマズが国内に移入してから霞ケ浦で大増殖するまでの経緯をまとめます。
年表
1971年 民間の研究所がアメリカから稚魚を輸入
1981年 霞ヶ浦で養殖が開始され、以降霞ヶ浦で捕獲報告があがる
1982年 台風時、埼玉県内の業者の養殖池から江戸川に逸出
2000年 霞ケ浦で爆発的に捕獲され問題視
2002年 北浦でも爆発的に捕獲され始める
2005年 特定外来生物に第一次指定
いけすからの逸出は、アメリカナマズの養殖が始まった1980年代からたびたび起こっていたようです。1995年に霞ヶ浦の定置網に成魚が大量に入網、1999年には幼魚が大量に入網しました。このように、ある時期から急激にアメリカナマズが捕獲されたことが分かります。
2ch掲示板過去ログは、釣り人目線で霞ヶ浦におけるアメリカナマズの増殖の様子を今に伝えていますが、2001年までは釣れていなかったようです。
年表
2001年 言及なし
2002年 釣果報告がぞろぞろではじめる。逸出の噂が流れる
2003年 ニュース沙汰。大物も釣れていた模様
Tips
養殖が盛んな1990年代まではアメリカナマズ、外来魚問題となった2000年以降はチャネルキャットフィッシュと呼称が使い分けられていました。
今は”アメナマ”、”アメキャ”の略称で呼ばれていますが、霞ヶ浦で爆発的に増殖した当時は”キャット”と呼ばれました。
アメリカナマズは”コイのエサを使ってフグを育てる”というコンセプトで、低コストで高付加価値な養殖魚として注目されました。また、減反政策の一環で稲作に代わる収入源としてもアメリカナマズの養殖は期待されていたようです。
茨城県議会議事録をみると、コイの需要が低下していたため霞ヶ浦ではアメリカナマズ等への養殖魚種の転換が進んでいました。一方では、霞ヶ浦の水質汚濁対策として沖いけすの削減という水産業の発展と反する政策も同時に推進されていました。
アメリカナマズの養殖が推進される一方で需要の開拓は進みませんでした。さらに、食品表示義務でアメリカナマズを「清水鯛」「河フグ」の名称で売ることもできなくなりました。
そして平成不況が訪れます。コロナ不況において養殖したタイやブリが行き場を失った例を見れば、養殖アメリカナマズの行き場に苦慮したのではないかと考えられます。
1996年3月15日 平成8年予算特別委員会
霞ヶ浦の養殖ゴイというのは日本一の生産高でございます。ですけれども,現在はなかなか生産コストが合わないということで,ナマズとかいろいろよそのものに転化しておるということも非常に多いわけでございます。
ですから,これから霞ヶ浦の浄化というのは,もう県民に負わされた大きな課題だろうと思うんですよ。そういう点を考えまして,できるだけ早く-これはお金もかかるでしょうが,できるだけ早く,水産業でとにかく網生けすをなくして,それで霞ヶ浦浄化に,このようにして霞ヶ浦がこのようになったんだといわれるように,これは何年も何年もかかっておったのではだめですから,できるだけ早くそういう善処,対処をしていただきたいということをひとつ要望いたします。
『現代農業』1990年2月号 128ページ~129ページ
発想転換!おもしろくなる水田利用 水を生かして野菜、イモ、魚、他
アメリカナマズ 味はあのフグに匹敵!?
『現代農業』1997年3月号 202ページ~203ページ
水を生かす減反田利用 アメリカナマズ
地元で需要も開拓
なまず屋さんのインタビューの中でアメリカナマズ関連の箇所を文字起こしして要約しました…(1:20~,10:40~, 24:20~, 34;40~)
1:20~
うちの本業は、アメリカナマズとマナマズを養殖して食用として出荷しているんですよ。釣り堀で使っているところもあるみたいですけど。
10:40~
霞ケ浦でバスが大量発生したのが30年以上前、アメリカナマズが大量発生したのはその後。養殖コイの需要が下がって、茨城県の内水面試験場がナマズの養殖に力を入れ始め、アメリカナマズの養殖をやってみないかと声をかけられた。それから本格的にアメリカナマズの養殖がはじまったけど、そのうちアメリカナマズが野で増えてきた。ものすごく増えて、ただバスに比べてそんなに魚をとって食べないみたいですよ。県で養殖を大々的に勧めたのに公害になって規制がかかるようになっちゃった。
24:20~
ウナギのエサは魚粉が50~60%くらい、コイのエサは魚粉が30%くらい。魚粉の割合が高くなると食用魚としての単価が高くなってしまう。一時期、うちだけで年間100tアメリカナマズを生産していた。いまでも年間30~50tは生産している。1匹あたり1~2kgくらいかな。
34:40~
霞ケ浦ではバスやブルーギルが一気に増えたんだけどある時点から減ってきた。アメリカナマズも増えたけど、だんだんと減ってるみたいだ。あと10年もしたらもっと野のアメリカナマズは減ってくるんじゃないかな。
遺伝子解析の結果
国内に拡散したアメリカナマズの遺伝子を解析すると、矢作川や琵琶湖では1~2系統、阿武隈川と霞ケ浦、利根川水系では5~6系統が確認されました。琵琶湖や矢作川と霞ケ浦の個体では系統が異なっており、霞ヶ浦産の個体が移入したということではなさそうです。また霞ケ浦等では複数の系統が確認され、複数の養殖業者が輸入したそれぞれの系統で逸出があったことを示唆していると思われます。
外来生物は遺伝子の多様性が乏しい場合が多く、ウイルス感染や近親交配が原因で個体数が激減する可能性もあります。さて、国内のアメリカナマズの行く末はどうなるのでしょうか。
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