見出し画像

全日本ロック駅伝 ライブレポ⑥

最終区 The Old&Moderns

ここまで詳細にレポートしてきたけれど、それはつまり演奏してる本人たちの真意がわからないからこそ勝手に書けたわけで、自分たちのライブとなるとちゃんと書けるんだろうか?ステージに立った時はとにかくやっとここまできたんだという感慨、そしてここまでタスキを繋いでくれた出演者のみんなのことや、長時間つきあってくれているお客さんを思ったらちょっとおかしいくらい緊張してしまっていた。

それでもいつも通り「オールドアンド!」「モダーンズ!」と声をかけあって1曲目、森ちゃんがうたう「歌の旅」。
森ちゃんの声には元々、これから何かがはじまるんだという前触れみたいな静かな佇まいがある。そして森ちゃんの曲は大抵すごく短い。「歌の旅」なんか1分半しかない。
その短い言葉や素朴なメロディーの中に、不思議な優しさや重みを感じるのは、森ちゃんが今まで過ごしてきた膨大な量の孤独が映し出されているからじゃないだろうか。
2番を作ろうにもどうにもしっくりこなかった短いこの歌自体が、これからはじまるライブ全体のイントロになっている。

「歌の旅」の余韻を残したまま、続く2曲目はぼくらをここまで運んでくれた船みたいな曲「明星」。森ちゃんに打明け話をするように作りかけの曲を聴かせたとき、いいねって言って歌詞の原案を考えてくれた。そこからふたりして謎を解きながら宝物を探すように、ひとつひとつ言葉を当てはめていくと、一体この歌は何の歌なんだろう?という作曲者らしからぬ疑問にぶち当たった。それはどうやら金星、つまり「明星」のことをうたっているようだった。それがわかった時、そうだったのか!と無責任にも興奮したものだけど、「何かを作る」っていうことは、なるべく元々の「何か」を損なわないように、細心の注意を払ってする発掘作業にも似ているところがあるんじゃないだろうか。そうしてふたりで掘り当てた「明星」は、出来てからいままでほとんどのライブで披露して来たけれど、イントロがはじまるといつも厳かな気持ちになる。イメージする理想の「明星」にはまだたどり着かない。やればやるほど難しくなる。まるで気がついた時には地平線に姿を消している「明星」そのものみたいだ。けれど観ている人にはぼくらの頭上に輝く星が見えたらいいな。そんなこと話したことないけど、きっと同じこと考えながら演奏してるように見えるふたりでした。

「きみがぼくを見ている」
所謂シャッフルという跳ねたリズムのこの曲をやるとき、いつも心がけているのはあまり鋭く跳ねないこと。森ちゃんの理想は「所(ジョージ)さんのスキップ」なのだそうだ。体の力が抜けていて低い割に滞空時間がふんわり、ゆったりしているような。そんなリズムが実際あるのか知らないが、ぼくらの間では共通の理解である。そういうメンバーの間でしか通じないコミュニケーションこそがバンドらしさだと思っている。
しかしほとんどスリーコードなのになぜか難しい。一応正しいコード進行もあるんだけど、もしかしたらふたりとも間違わずに演奏できたことはないかもしれない。それでもなんとなく外れてはいないように聴こえるこの曲は、よく言えば包容力のある、そのまま言えばふんわりした雰囲気の憎めない奴です。
いままで間奏ではぼくがハーモニカを吹いていたんだけど、この時から森ちゃんの口(くち)トロンボーンがデビュー。茶飯事くん直伝のこの技を、茶飯事くんが見ているだろうと想像しながら披露するのは相当緊張しているように見えて、思わず後半、ぼくもインチキ口(くち)トロンボーンで加勢してしまいました。森ちゃんだけでちゃんと鳴っていたのに余計なことしてしまったな…

森ちゃん口ラッパ

(真剣な顔で口トロンボーンに集中する森ちゃん)

「くすぶり」
今年の初めにコロナでライブが中止になって以降活動できてないんだけど、ぼくと森ちゃんともうひとり、はなえもんの3人で「プリーズ!」というバンドもやっている。はじめてのライブの時、みんなで曲を持ち寄って新曲だけでライブしようってはなえもんにハッパかけられて、そのとき森ちゃんは一気に曲を作った。「くすぶり」もその中の一曲。
そんなあたらしいバンドをはじめる時の生命力に満ちたこの曲は、だいたい3拍子なんだけど、「明日にはこの地球もなくなってるかもよ」という歌詞のところだけ4拍になる。プリーズ!ではぼくはドラムもやっていたので、4拍のところがどうしても変に感じたんだけど、森ちゃんにはそれがとても自然なリズムらしい。結局、そういう狙ったわけじゃない変なところは大事にしたほうがいいと思って、そのままやってるうちにぼくも自然に感じるようになってきた。
リズムには数字で割り切れない部分もあるんだな。そもそも割り切る必要がないのかもしれないけど、「1」で割れば解決する問題なのかも。右足、左足、一歩一歩足を前に出してずんずん進んでいく感じ。この曲を演奏している時、勇ましく行進しているような気持ちになるのはそのせいかな。命をたたえる行進曲なのだ!
いままでサビでハモっていたんだけど、せっかくの森ちゃんの主旋律をどうしても邪魔してしまうのでオクターブ上で森ちゃんと同じメロディーをうたうことにした。それにしてもぼくと森ちゃんの声のキャラクターの違いよ…同じメロディーでも全然混ざらないけど、曲の突き抜けるようなエネルギーは以前より増した気がする。

「斜陽」
斜陽がはじまるときは、往年のファンの人には最初の音を鳴らす前に空気でわかるという。録画を確認したら、確かに、はじまる前から斜陽の顔になっていた。ただのDのコードなのに、斜陽のDは重く響く。なにしろぼくのギターのフレットはDのコードの形にえぐれているのだ。2003年くらいにマーガレットズロースで生まれたこの曲は、それからいろんな演奏家と数え切れないくらい演奏したけど、森ちゃんとの斜陽はまた特別な方向に進化をとげた。マーガレットズロースのメンバーに負けないくらい、森ちゃんの中でも「斜陽」が染み込んでいるんだと思う。説明できない、考えられない、感じながら曲に入っていく。こんなふうに一緒にできる仲間に出会えて改めて感謝したくなる演奏。

平井斜陽

カメラマンの工藤くんも一緒に演奏しているみたいに映像が迫ってくる。アトホールの照明には普通のライブハウスにあるような鮮やかな色はない。真っ暗な背景はまるで夜の公園の街灯の下で演奏しているみたいだ。
日常の一場面を切り取ったような歌詞の世界は、美しいライトワークよりもむしろ素っ気ない灯りのほうが調和するのかもしれない。ライブを見ているのに、ドキュメンタリー映画を観ているような気持ちになる風景。

「どん底」
おんなじDなのに全然違う音に聴こえるから不思議。歌詞だけみたらむしろ暗いのにそれゆえに底抜けに明るい空気を放つ「どん底」は体力的にもテンション的にもアンコール以外ではあまり演奏しない。いままでの流れをひっくり返すのが目的のようなこの曲をライブの本編の、ラストでもないところでやるのはちょっとした実験だったけど、これは「ロック駅伝」なのだ。みんなで繋ぐ駅伝なのに最後にセットを壊して「8時だよ全員集合」みたいな終りにはしたくない。壊すんじゃなくて繋ぐための「どん底」はいつもよりポジティブで、森ちゃんの「ヘイ!」が突き抜けるように爽やかに響いた。

赤フンどん底

フロアではついに赤フンが再び服を脱いで変な踊りを踊り出して、このまま終わるのか?ってくらい盛り上がったけど、ぼくも森ちゃんも笑いながらもまだ先を見ている。ここはまだ通過点なのだ!
演奏後、「どん!」「底!」「どん!」「底!」とひとりでコールアンドレスポンスしてライブ後半に向けて息を整えるのでした。

平井どん底2


「いつものうた」
去年は日本中あちこちで150本くらいライブした。旅を続けるうちに会いたい人がどんどん増えて、毎年本数が増えて行くのだ。それが今年は一体何回できたんだろう?当然会いたい人にも全然会えていない。だけど配信というツールがあるおかげで、みんなそれぞれの場所で今日もうたってるんだなって感じることができる。これはとても幸せなことで、もしこんな時代じゃなかったらもっと心がすさんでいたことだろう。
ぼくは普段、配信ライブの画質にはあまりこだわらない。音と画がずれていたらいやだけど、音質もそれほど気にしない方だと思う。何にこだわるかというと、生配信かどうか、いま起きていることなのかどうか、だ。どんなに綺麗な音や映像でもそれが録画だったら、どうしておもしろいのか、実はいまいちわからない。
生配信にはトラブルがつきものだけど、一視聴者としてはトラブル自体も生でこそたのしめるものだと思う。(配信者としては本当にトラブルはない方がいいのだけど…)
会いに行けないこの状況で、同じ場所にいられないのだから、せめて同じ時間を感じたい。そういうことだと思う。
ツアーができなくなってからできたこの歌はまさにそのことをうたっているのだけど、演奏前にMCで話していたように「ロック駅伝のことだったのかな?」と思うほど、今回の遠隔セッションの状況を予言しているようで驚いた。
「いつものうた / いつものうたを / あの人がいま / うたっているのかな / おなじ場所にいるみたいに / 聴いてた / おなじ時間にいるみたいに」
歌い出す最初の一言をぼくはとても大事にしているんだけど、この歌は前奏もなく「そして」からはじまる。こんな状況になってライブができなくなって、の、「そして」だ。この一言に賭けていると言ってもいい。ロック駅伝にむけてずっと準備を重ねてきて迎えたこの瞬間の「そして」はぼくの口から光があふれたらいいなと思ってうたったつもり。
サビで森ちゃんは「いつものうた」というフレーズをぼくの後を追いかけてうたう。
そして2番で転調してからはふたり同時にうたう、その瞬間。時間や空間、あらゆる制約を超えて一緒に演奏しているような気持ちになる。それは森ちゃんだけじゃなくて、日本のどこかでいつものうたをうたっている友達とも。そんな多幸感に包まれてエンディングの余韻は続いた。

「うその地球儀」
いきなり森ちゃんが「歌、ギターヒライマサヤー!」と紹介してくれて、驚き照れつつ「歌、ウッドベース森孝允!」と返し、すぐさま「オールド」「アンド」「モダーンズ!」の掛け声、そのまま「ら〜らららら〜」と歌い出して「うその地球儀」がはじまった。
「もう天国も / 地獄もないよね / 忘れないでね / またここで会えるから」
死んだ後、どんな世界があるのかわからないし、もしかしたら、この世界だって本当にあるのかはっきりしない。それでもそのうそかもしれない地球儀の上でぼくたちは出会って、また会おうと約束をする。その気持ちにうそはない。
モダンズのふたりはうたいながらずっと笑っていた。ゴール目前で笑っていられるなんてなんてしあわせな駅伝だろうか?それとも逆にここまでの道のりがキツ過ぎたのか(笑)
終盤で曲に合わせて出演者紹介をしていった。
「全日本ロック駅伝、、第一回、、第1区を走ったのは、、サイキシミーン!大ききな拍手を!」
「第2区を走ったのは、、長野松本から、、岡沢じゅーん!イエーイ」
「第3区は、、FLASHザ徒歩5分〜♪ 5分〜♪ 5分〜♪ 徒歩5分〜♪ありがとう!」(この辺からメロディーなっていく)
「第4区、第4区、東京から、、原田茶飯事ぃぃぃ〜いぃ〜いぃ〜♪ さぁ〜はんじ〜さはんじ〜!さぁ〜はんじ〜さはんじ〜!(かなり歌になってた)イェイイェイイェイ!、、みんな、大好きな、ともだち、、」
「、、、ぼくたちは、オールドアンド」「モダーンズ!」「第5区、、アンカー!」
そしてらららの大合唱。うその地球儀のエンディングはなぜかいつも船の甲板でうたっているような気持ちになる。大海原、海はどこまでも続いている。帆をあげよう、旅はまだ続く。

モダンズうその地球儀万歳


そしてここからサイキシミンのドラム、江藤光を迎えて3人でラストスパート!
ど頭からリフが疾走する「コントローラー」。
もうはじまった瞬間からぼくの目つきが変わってた。ここまでの森ちゃんと足並みをそろえて人力車で走ってたのが、いきなりうしろから機関車にグイグイ押されているみたいな圧を感じた。一気に加速して気持ち良く視界が過ぎていく。こどもみたいにしっかり目を見開いて、流れる景色に感動している。そんな表情。
最後に大分平井正也BANDでライブした時よりもグルーヴが上がっている気がする。練習もできなかったのに、いつも一緒にやってるみたいな太いグルーヴは、森ちゃんの演奏力が上がったこともあるんだろうけど、前からドラムが入ると森ちゃんは別人みたいになってたもんだ。

3人モダンズコントローラー

その勢いを消したくなくて、曲名も言わずにいきなりカウントして「少年」へ。
このドラムがまたかっこいい!フロアタムがズンズン響いて、もうギター弾くのやめてもこのままうたえそうな気分。ハイハットで刻まれる2拍3連符は、調子がいい時ぼくが体でとっていたノリだ。いい大人が小学生の気持ちのまんま、宝物の地図をみつけて浮かれているみたいなノリ。当時と違うのはぼくらはいまや本当に宝物を見つける方法を知っていること。それは「見つかるまで探す」っていうバカみたいな方法だけど、下手くそでも人気なくても続けてたらこんな夜もあるって知っているのだから。
「こんなに近くにいたっていうのに / まるで少年のようにきみが好きです」
いつもうたっている歌詞も、はじめて聴いたみたいにドキドキするんだから、バンドにドラムが入るってすごいことだな。

ヒカルくんソロ


ここまでもアンコールみたいなものだったのに、まるでアンコールを避けるように矢継ぎ早に「駅伝野郎〜!駅伝野郎ども!集まれ〜!」と出演者を全員ステージに呼び込んだ。
精一杯低い声でドスを効かせて「ロック駅伝のテーマ」。ワン、ツ〜、スリ〜、フォ〜とはじまったその曲は、Dm・Am・Gmのスリーコード。マイナーキーに乗せて主に休憩の大切さについて力説する、このイベントのために作った新曲だ。
まあ、冗談みたいな曲なんだけど、これが変にかっこよかった。まるで普段だらしなくたるんだおっさんの腹が、祭りの日、さらしを巻いて法被を羽織った途端かっこよく見える、そんな魔法がかかったようだ。呪文の言葉は「エッサホイサ」だ。赤フンなんか鬼の首をとったような顔で「エッサホイサ」とたのしそうに踊っている。そうして怪我人が出てもおかしくない程にステージは、荒れた。

踊りロック駅伝


2番をソウルフルに歌い上げてくれたサイキシミン大谷くんはヴィブラスラップという打楽器(与作で有名な「ッカァァァァ!」という音が鳴るやつ)を持参し、いまかいまかと待ち構えていたが、ここぞというタイミングで意外といい音がしなかったのがおもしろかった。

ビブラスラップ


フラッシュくんが弾いてくれたギターソロは、アンプの前にマイクを立てられなかった分、遠い響きがカッコ良く、プレイもキレていたが、なにぶん照明の当たらないステージ最前で熱演していたため真っ暗でよく見えなかった。

フラッシュソロ


赤フンや大谷くんに比べると所在無げに見えたサイキシミンしゅうとくんだったが、後半からエアー神輿を担ぐという荒技をあみだし、祭りムードを盛り上げてくれた。
4番「文化庁の補助金出たら / たのしかろうな / 夢が広がる / 出ようが出まいが / 止められれぬ」という歌詞をうたってくれたフラッシュくんは、文化庁の補助金については知らなかったようだが、原曲無視でめちゃくちゃかっこよくうたってくれた。しかしやっぱり照明が当たらないところだったのでよく見えなかった。

踊りロック駅伝2


ラストの「GO!GO!ロック駅伝!」と連呼するところでは終わり方がわからず、しつこく引っ張ってしまい、「ゴゴゴゴゴゴゴゴロック駅伝」「ゴーゴーゴーゴーゴゴゴゴゴゴーゴーゴー」などとアレンジが発展。混沌とした盛り上がりは最高潮に達し、最後は自然の摂理で失速。おのおの楽器をかき鳴らしながら「きみも走らないか?!」と呼びかけて見事に着地。みんなで手を繋いで万歳し「やったー完走したぜー!」とにこやかにゴールテープを切ったのでした。うーん、バカバカしい!本当、最後がくだらなくて救われた気持ちだ。

万歳ゴール

そのあとLINEのグループ通話を使ってじゅんくんと茶飯事くんが再び登場。諸々の事情でスクリーンにふたりを映して会話することが難しかったので、最後の最後はスマホの画面をカメラで狙うというスケールの小さい配信になってしまいました。すみません!
ふたりに今日の感想を聞いてみたところ、茶飯事くんは「まさか走りきれるとは思いませんでした」という模範的な回答(笑)。じゅんくんは、「今度は中継させてもらうよ、こっちでセッションさせてもらうよ」って素晴らしい提案。そしたら「じゃあぼく長野行くわ」と茶飯事くん。会場からも笑いが起こってとも和やかな一体感が生まれました。

これもまたよし


イメージしてた終わり方とちょっと違ったので、どうやってシメようかちょっと困ったけど、最後はぼくが「全日本!」と合図を出して、みんなが「ロックえきでーん!!」と拳を高く挙げておひらき!
不思議と爽やかな感動が胸を駆け抜けて大団円。めでたしめでたしでした!
しかしこれで全てが終わったわけではない、まだ無料で配信してしまった後処理があるし、特典音源作りも残っている。
とにかく、たくさんの反省点は残ったけど、とにかく、終わった。
俺たちは完走した!完走したのだ!みんな、本当にありがとう!!

ラスト万歳

(もうちょっと続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?