28歳で初彼女ができた話 ⑦静かな亀裂… 何も言えぬまま、遠ざかる距離

ミハルは性格が良い子だった。家庭が複雑なのによくぞここまで良い子に育ったなと思えるほど、素直で人に対して思いやりを持って接することができる子だ。しかしどこかで人に怯えている感じというか、自分を卑下することによって攻撃されるのを防ぐような部分を感じた。

小さい頃父親が厳しかった僕も気持ちはわかるが、自分の意見を言うのが怖くて「自分がどうしたいか」よりも「どうすれば怒られないか」を優先してしまうのだ。そこに関しては共感できたし、心に抱える問題の根底はミハルと一緒だと勝手に思っていた。そこに至るまでの過程は違っても、一言でいえば「自尊心」が足りないのだ。

その自尊心を満たす手段として、ミハルは恋愛をしているような感じがあった。恋愛経験ゼロの僕とは対照的に、ルックスが可愛いこともありなかなかモテたようだ。その分どうやら軽い男に引っかかってしまうことも多かったのか、誰かと長続きすることはあまり無い様子だった。

ミハルは僕のことを好きで好きで仕方がないようだった。趣味も話題も合うと思っていたが、今思うと合わせてくれていたのかもしれない。心の隙間を僕で埋めようとしていたのだろう。心の支えにしてくれていたわけだが、悪く言えば依存でもある。

ずっとモテたいと思いながら日の目を浴びなかった僕にとっては本当にありがたい話だ。しかも相手は周りもうらやむ美女。でもこの強すぎる愛情が重荷に感じてしまった。僕の態度はだんだん、素っ気なくなっていく。でもミハルも、僕に明確な不満を漏らすことはない。お互いハッキリとものを言うのが苦手同士、静かに距離が離れてきていた。

ある時、ついに連絡さえあまり取らなくなった。3日間、5日間…そして1週間。もはや恋人同士と言うのは難しいくらい、距離ができていた。そんな中、久々に連絡をしてきたのはミハルのほうだった。「お疲れ様。明日会える?」何事もなかったように、会う約束をした。

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