劇団を会社にする理由 ~メリット編~

【時間堂 会社になる03】

 ご無沙汰してしまった時間堂P晴香です。こんにちは。前々回の「おかねのはなし」が思いのほか多くの方々にお読みいただけて、初めてお話しする方にもご感想をいただけたりしてわりと調子に乗っています。その割に更新頻度が低くてすみません…。

 前回は「そもそもなんで法人化なの?」に対するきっかけをお話ししました。今回は、法人化するとなにがいいの?というメリット編です。

 ホージンでないと応募できない助成金の存在によってホージン化とい言葉に憑りつかれた私。ホージンの種類もおぼつかないうちから「私、時間堂をホージンにする」と高らかに劇団会議で宣言したものの、まずは情報収集からのスタートでした。

 そして「芸術団体の法人化」というThat's私が知りたいこと!!!というタイトルのラウンドテーブルに参加したり、すでに法人化を成し遂げている先輩たちのお話を伺ったりしているうちに、

私のカン、割と外れてなかったんじゃないの?

という気持ちを強くしていきました。

 どの辺が外れていなかったのか。それは、芸術団体が発展的に存続していくには、法人形態になることが望ましいんじゃないか、というカン。その裏には、芸術団体の持続可能性を圧迫する5つの問題があると思います。以下、順不同。特に番号が若いからといって影響が大きいとかではありません。

1. 共有財産が増えてくる

 演劇団体というものは、長く続けていくうちにどんどん荷物が増えていきます。セットや衣裳がわりとシンプルなタイプの時間堂であっても、グッズが増え、資料が増え、小道具が増え…ついにはスタジオまで持ってしまいました(笑)。これを「任意団体」のゆるいサークル活動で維持するのはなかなかしんどいことです。黒澤家も大森家も時間堂のもので溢れていますし、スタジオに至っては「場所」です。個人の寄せ集めでは物理的に共有財産を抱えきれない状態、それが芸術団体の法人化の潮目かもしれません。

3. 個人での資金調達は限界がある

 前回のnoteでも書いた通り、演劇公演というのは収入が入る前から支出ばっかりかさむという、なかなかタフなビジネスモデルです。スポンサーがついていれば話は別でしょうが、助成金も終演後の報告書提出をして初めて支給されるタイプのものが主流で、ま、とにかく事前資金を自力で用意する必要が往々にして発生します。
 でもこれ、実は演劇に限ったことではないですよね。どんなビジネスだって先に仕入れや準備でお金が出ていって、商品やサービスが売れるまでは回収できない、なんてさほど珍しくはありません。なぜ他のビジネスに比べて演劇団体の方が圧倒的に難しいような気持ちになってしまうのか。それはもしかしたら、「融資」という名の借金の申し込みが、他のビジネスよりも難しいから、じゃないだろうか。それが法人ではなく個人であればなおのこと、です。助成金申請資格に「法人格」が必要とされてきている流れも、個人に貸すよりも団体に貸す方が、「対象事業に使われる確実性が高まる」というのが主たる理由ではないかと推察するにつけ、ますます個人での活動には経済的にも限界が。

4.利益・損益の分配が難しい

 小さくない額のお金が動くことで、黒字であれ赤字であれ、誰がどう享受・負担するのか、単純に頭割りでいいの?みたいな問題が生じてきます。しかも、こんなに時間と労力をつぎ込んでいるのに、劇団からお給料はもらえない、という現実が、決して珍しくありません。ちゃんと頑張った人が頑張った分くらい報われる仕組みを作りたい。それにはサークル活動のままでは限界があると思います。

5. 団体の仕事が増えてくる

 私は実はこれが最大の問題なんじゃないかと思っているけど、あまりよく知られていない問題かもしれません。
 演劇活動をする、というのは、演劇作品をつくるだけでは成り立ちません。例えば私たちの場合、今年10~12月にツアーをやるわけですが、その準備は昨年末くらいから始まっています。企画立案・予算立案・助成金申請・会場予約・広報宣伝・出演者公募……ひとつの公演をするだけでも無数の「作品制作以外の仕事」があるわけです。平行してワークショップをしたりイベントを企画したりスタジオを改装したり、できれば来年の計画、再来年の計画も持ちたい、なんてなると、必然的に劇団員の劇団活動に関わる稼働はうなぎのぼりに増えていきます。加えて、演出・俳優のコアミッション「演劇制作」にも文字通り心血を注ぐ、なんてなると、とても身が持たない。
 で、「制作」「プロデューサー」などの創作チーム以外の登場、となるわけですが、孤軍奮闘してどうにかなる分量ではありません。私は今まで何人もの制作者が辞めていくのを見聞きしてきましたが、「自分の能力不足」みたいに思っている方々が結構いるように思います。でも、本当は個人の能力の問題ではないんじゃないかな、と。「経営企画」「商品企画」「広報」「IR」「総務」「経理」「営業」「お客様窓口・コールセンター」なんて呼ばれる部署をひとりで網羅できるひとなんて、スーパーマンもいいところだと思うのです。はっきり言って無謀。
 で、どうやって持ちこたえるかとというと、「増員」「ワークシェアリング」「アウトソーシング」などが思い浮かびます(ほかにいいアイデアがあったら教えてください)。でも、大概の芸術団体には人を雇うお金もなければ外注するお金もない。そうすると、俳優であれ演出であれ、できるひとはなんでもやろう、という「ワークシェアリング」というか、「家族経営」的な体制になりがち。
 私も「創作チームにはクリエーションのことだけ考えてほしい」「ほかのことは私が全部ひきうけるわ」なんて若かりし頃は息巻いていましたが、それでは団体の安定性・持続可能性が損なわれると思うようになりました。現実的には劇団員総出でとりかかっても手が足りないくらい、劇団にはさまざまな仕事があるのです。でも、さっきも書いたけど、お給料の仕組みもあやふや。でも時間と労力は無限に吸い取られる。これを緩い任意団体の形態で維持するのは、なかなか難しいことなんじゃないでしょうか。そして「生活と劇団活動が両立できない」として休業に追い込まれたり(←かくいう私も、去年4か月ほどお休みしています)、最悪の場合、「私は俳優業に専念したいので」という結論に達して仲間が劇団を去って行ったりすることだってあり得るのです。そして残ったメンバーの負担は倍増。

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 こういう問題を解決するには、現状の延長線上には答えはなくて、抜本的な組織構造改革が必要なんだ、と常々思ってきたものの、じゃーその抜本的な改革って具体的になんなのさ、と言われると、ぐぬぅ…みたいな状態だったのが去年までの私でした。わかんないよ、わかんないから考えてるんだよ、みたいなね。はは。

 法人化がすべてを解決してくれる魔法の杖、とまでは思っていません。でも、いくつかの問題には効果がありそうですし、なにより「日本一の演劇屋さんになる」だの、「演劇を仕事にする」だの言うにはそもそも演劇が職業になって然るべき。

 私は時間堂の演劇が、品質的には日本一だと自負しています。演劇を構成する最小単位である「本」と「俳優」の魅力を、最大限引き出せるのがうちのすばらしいところ。ただ、それを知っていただく体制や、それを安定して発表する体制が、まだまだ未熟でアンバランス。

 法人化はそのアンバランスを解消する第一歩になるんじゃないか。

 私はそう考えて、法人化に踏み切りました。

 次回は「なぜ合同会社にするの?」みたいな話に入ろうかな。その前に、最近目の前で進めていることを挟み込もうかな。いずれにしても、次回は今月中に書く。書きたい。書こうと思います。

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