爺医はダンディに!
この世で「いちばん幸福な状態」とは?
「たえず有益な活動を続けられることであり、いきいきと仕事をしているときだ」とヒルティは言う。
そして「人間の本性は仕事をすることにある」と、信仰上の立場で強調する。
定年後の幸福な生き方を、私が問われたら?
「朝起きてやることが決まっていることである」と言いたい。
もちろん職場でのサポートがあってのことだし、妻の支えにも感謝している。
○ヒルティの『幸福論』によらずとも老いて働ける幸せを思ふ(医師脳)
*
テレビのドキュメンタリー番組『親の隣が自分の居場所~小堀先生と親子の日々』を思い出す。
国立国際医療センターの病院長で外科医だった小堀鴎一郎先生が82歳で在宅医療に走り回る。
その姿に、20年前のことが懐かしい。
国立国際医療センターに来ないかと誘われ、2000年の冬に52歳で上京した。
夫婦でのロングドライブは、後ろに積んだ神棚と買ったばかりのカーナビだけが頼り。
…だが慣れないメッセージに戸惑い、首都高の出口を間違えて焦る。
グルグルと探しまわり、夜も更けたころ何とか新宿のホテルにたどりつけた。
翌朝、総長や国際医療局長など、お偉方への挨拶回りに出かける。
最後に病院長室で、小ぶりの黒い机を見せられた。
「森鴎外の使っていたモノだ」と自慢気に指さすので、こちらも「それは貴重ですね」と冗談っぽく世辞をかえす。
「そうだよ。祖父のなんだ」
「えっ?」と今度は恐れ入るしかない。
あの森鴎外の孫だとおっしゃる。
そう言われて見れば〈鴎〉の字が一緒だ。
かつてはチョット突き放すような物言いの小堀先生が、今やおしゃべり好きな在宅診療の医師に大変身。
でもダンディな姿は当時と変わらない。
10歳も若い爺医としては負けていられない。
○満帆に〈老い風〉うけて「宜候」と老い真っ盛り活躍盛り
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そんなことを書いてから既に三年。
○金曜日、出勤前に迷ひしがピンクのズボンをナースに褒めらる(医師脳)
いつの頃からか、世間では「ズボン」を「パンツ」と言うのは、爺医でも知っている。
しかし短歌を「ピンクのパンツをナースに褒めらる」と詠んだのでは、何やら変な誤解を招く恐れもある。
ということで「ピンクのズボンをナースに褒めらる」のままにしたい。
それでもまだ誤解されるのではないかと気を回し、無粋ではあるが、この短歌を詠んだ時の状況を述べよう。
朝陽とともに目覚め、5時半には妻と朝食をとる。
ざっと新聞に目をとおした後、ゆっくりとシャワーを浴びる。
愛用の〈アレッポの石鹸〉ホーム頁を見ると。
――シリア第二の都市アレッポの特産品として千年以上前から作られているオリーブオイルとローレルオイルで作られたシンプルな石鹸です。
頭から顔、身体、つま先までこれ一つ。
お肌がつっぱらず、洗い上がりしっとり、お肌の敏感な方にも安心してお使いいただけます。――とある。
シャワーを浴びてスッキリしたら、前夜のうちにコーディネートした衣類を身につける。
そして8時半、妻に見送られつつ、迎えのタクシーに乗り込む。
これが、毎週金曜日における、爺医の出勤前のルーティンである。
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