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怒髪(どはつ)天を衝(つ)かず

 東日本大震災後の数年間、医療支援のため被災地で暮らした。
 近所には床屋もない。
 が、伸ばし放題にもできず、仕方なく電動バリカンで、鬚(あごひげ)髭(くちひげ)髯(ほおひげ)から側頭部まで、6ミリで一気に刈り上げる。
 頭頂部は、2センチで適当に薄毛隠しとする。
 自分で刈りにくい後頭部も、困るほどは生えていなかったはずだ。

 ひげ面は、それ以前にも経験した。
 スナップ写真の裏には、(クウェート・タワーで撮影)とある。
 2003年8月、当時の国立国際医療センターに勤務していた頃、〈日本・エジプト合同医療調査団〉の一員としてイラクに派遣された際のものだ。
 現地の男性をまねて、伸ばし始めたことを思い出す。

 被災地を離れ、盛岡では床屋通いを決心した。
 〈禁煙〉と〈予約〉をキーワードに(開運橋付近を)ネット検索し、ヒットしたのが駅前の床屋。
 そこの店長さん指名で、約二年間お世話になった。ヘアーカットだけである。

 弘前に戻っても、コロナ禍は続いており、電動バリカンの再登場だ。
 それも思い切って、薄くなった頭頂部も一気に丸刈りにした。
 中学生の頃を思い出す。
「天を衝く怒髪なぞなき老いの身は自宅でカットが相応なるらむ」医師脳。

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