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輸血管理室の開設事情

 弘前大学医学部を卒業した後も、そのまま大学病院に籍を置き、文部教官として活動を続けた。
 ところが、品川信良教授の次期教授選に先輩方が乱立し、結果は総崩れとなる。映画の『白い巨塔』を見るように、私も45歳で厚生技官となり第二の人生を目指した。
 半世紀余りの医者人生、その7割りを国家公務員として過ごしたことになる。

 役所を新明解(三省堂)で調べると、「国・地方公共団体の行政事務を取り扱うところ」という記述のあとに、お役所仕事とは「形式だけを無闇に喧しく言う上に、非能率的の典型とも思われる仕事ぶり」という説明もある。
 その弊害の原因として、セクショナリズム(縄張り意識)や前例踏襲主義が考えられる。
 そもそも病院というのは、非常に多くの職種から構成されるため、セクショナリズムに陥りやすい。その結果、横の連絡が取れにくいばかりでなく、自分たちの縄張りに立てこもって既得権を主張しがちになる。
 この上さらに、お役所の得意技である前例踏襲主義や官僚主義の弊害が加わるため、多くの国立病院では同じような問題を抱えているのが現状であろう。

 セクショナリズムや前例踏襲主義の打破をめざし、国立弘前病院で輸血管理室を設置した経緯を紹介したい。
 従来は、研究検査科で輸血検査を行い、薬剤科で血液製剤を保管する、という二本立てで輸血管理にあたっていた。
 しかし、「安全な輸血管理のためには業務の一本化が必要である」という輸血療法委員会の判断に、セクショナリズムを越えた研究検査科の協力が実り、輸血管理室が設置されたのである。
 当初は臨床検査技師の業務量が増加するという懸念もあったが、輸血業務が一本化してベッドサイドとの連絡が密になったことにより、逆に交差試験件数のみならず輸血件数まで減少した。
 この結果として、適正な輸血により患者の安全がはかられたことに加えて、血液製剤の返品が減少したことによる経営改善効果も生まれた。
 その後、輸血用フィルターセットまで輸血管理室が一括発注しており、さらに輸血業務の一本化が推進されている。
 一方の薬剤科も、血液製剤管理業務から開放されたことにより、病棟における服薬指導など新たな業務展開が可能となった。
 結局、輸血管理室を設置したことにより、経営改善という観点からも二重の効果が生まれたことになる。

 何かを新しく始めたり改革する際の障害には、セクショナリズムのほかに前例踏襲主義が上げられる。すなわち、同じ環境に長い間いると問題点があっても気付きにくくなり、たとえ気付いても「前例がない」という一言で摩擦を防ごうとする。
 もちろん、これらの問題を解決するため各種会議が頻繁に行われるが、同じメンバーで会議を繰り返していると前例踏襲主義に陥りやすい。特に毎週行われるような定例会議の場合など、それらに費やされた時間と見合うだけの成果を収めるためには相当の努力が必要であろう。

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