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フォロワー15万人の89歳◆SNSとの付き合い方は【時事ドットコム取材班】(2022年06月26日08時00分)

 ツイッターのフォロワー数が15万人を超える89歳がいる。そのつぶやきはあいさつに始まり、日課の太極拳、近所の公園を散策したときに気付いたこと、「脳トレ」のためのマージャンの話など他愛のないものばかりだが、何故か「ほっこり」するものが多い。人を引き付ける秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。時には、年長者ならではの「金言」もつぶやく女性に、ツイッターを始めたきっかけや、SNSとの向き合い方について聞いた。(時事ドットコム編集部 谷山絹香

 【時事コム取材班】

スマホは必需品

 私の祖父母より年上で、ツイッターを使いこなすって、どんな人だろうー。そんな思いを抱きつつ、2022年6月中旬、東京都練馬区にある大崎博子さんの自宅を訪ねたところ、「どうぞ上がって」と優しい笑顔で出迎えてくれた。背筋はピンと伸びており、動きは軽やかだ。

 ジーンズのポケットからスマートフォンをのぞかせた大崎さんに続いて居間に入ると、テーブルの上にノートパソコンとタブレット端末が並んでいた。タブレットは最近買ったものだそうだ。顔認証でスマホのロックを解除し、慣れた手付きでツイッターの画面を開く。「元は機械類は全然駄目だったの。でも1人だからやらざるを得ない。できるようになるもんよ、やらなきゃと思ったら。もう今はスマホがなかったら生きていけない」

震災きっかけに

 大崎さんがノートパソコンを使い始めたのは78歳のときだ。国際電話で連絡を取っていたロンドンにいる一人娘から「パソコンを使えば(通話料が)無料になるから」と言われ、2010年12月にノートパソコンを購入。特典で年9800円で受講できるパソコン教室に通い、電源の入れ方や絵文字の使い方から勉強した。

 少し上達した11年3月、娘から「面白いから」と勧められたツイッターを始めた。フォロワーは娘とパソコン教室の友人ら2、3人だけ。つぶやいてはみたものの、「面白くもおかしくもなかった」という。

 数日後、東京・銀座のパソコン教室にいた大崎さんは、突然、大きな揺れを感じた。東日本大震災だ。荷物をまとめ、ひとまず目の前の百貨店に避難したものの、電車が止まっており、帰宅できない。娘に安否を連絡しようにも、電話もメールも通じなかった。「どうしよう」。始めたばかりのツイッターでメッセージを送ると、返信があった。「ツイッターってすごいんだ」と感じた瞬間だ。

大崎さんのツイッターのスクリーンショット。2022年6月22日現在で15.8万人のフォロワーがいる

原発事故、戦争体験つぶやきフォロワー増


 翌日、東京電力福島第1原発の建屋が爆発する。見えない収束に、募る不安や憤りをツイートすると、「おばあさんがつぶやいてる」と話題になり、フォロワーが一気に数千人に増えた。当時、フォローされたことを示す通知をオフにする方法が分からず、「ピポンピポンとパソコンが鳴りっぱなしで怖かった」と振り返る。

 だが、つぶやきに日本中からたくさんの反響があったことで、「ツイッターの面白みも知った」という大崎さん。「戦争体験者として若い人に戦争の話を伝えられるかもしれない」と考え、その年の終戦記念日に、戦争についてツイートした。

2021年の終戦記念日に連投されたツイートのスクリーンショット

 以降、毎年8月になると、自身が経験した戦時中の暮らしの様子をつぶやいている。昨年は「戦時中の日本はないないづくし、食べ物着る物履くもの何もかもがなかった。戦争大反対!!」などと連投すると、「貴重なお話をありがとうございます」「普通の暮らしが当たり前だと思えるありがたさを噛みしめました」と多くのコメントが寄せられた。大崎さんは「私の年齢が戦争を鮮明に覚えている最後の年かもしれない。こういう時があって、今があるんだ。(当時は)こんなに大変だったんだ、ということを1人でも知ってほしい」と話す。

心掛けるのは「人を傷つけない」

 大崎さんの普段のつぶやきは「蒸し暑いですね」「太極拳&散策に出ます」「今日も麻雀(マージャン)勝ちました」といった何気ない日常の風景だ。「つまんないツイートしかしてないの」と笑うが、ここ数カ月のツイートを振り返ってみると、「幸せ」「素敵」「楽しみ」などのポジティブな言葉が数多く並び、「おはようございます」とつぶやけば、フォロワーから「素敵な一日を」と返事が来ている。

 時には「楽しい人生って、わいてくるもんじゃないのよ。自分が楽しみを見つけて、生きる事だと思う!」「私って性格が悪いのかしら?って悩んでる人いませんか?大丈夫です!本当にわるかったらそんな事で、悩みません」と、人生の年輪を感じさせる「金言」も。大崎さんによると、こうしたつぶやきに数万件の「いいね」が付いたこともあり、フォロワー数は右肩上がりに増加していったという。

2.1万件のリツイートと12.8万件の「いいね」が付いたツイートのスクリーンショット

 そんな大崎さんでも、ツイッター上で、見ず知らずの人から暴言を浴びせられたことがある。「むかっと来るじゃないですか。楽しくなくなっちゃう。私はその人に対して何にもしてないんだから。どんな気持ちでやったにしても、人を傷つけている」。そうした経験も踏まえ、「人を傷つけないツイート、読んで元気になれそうなツイート」を心掛けているのだという。「関わって気分が悪くなるだけだったら、しゃべりたくないじゃないですか。そういう人とは付き合いたくない。だから私もそうならないようにしています」

「私に答えられることだったら何でも聞いてね」。そう言って下さった大崎さんとの一問一答を後半で紹介します。

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