忘れていく
大人になって、わたしは自分が「忘れやすい」ことに気づいた。
お店の名前、ニュースの用語、聞いたばかりのひとの名前は、特に。
中学の頃、20個の年表を、5分で覚えて、次の日のテストで満点を取った記憶が残っている。
あの頃は、覚えられていたのか。
ーー いつから、わたしは忘れやすくなったのか。
あるときは、若年性認知症を疑った。
チェックリストをやってみたら、病院へ行くレベルではなかった。
パーキンソン病でもなければ、どうやら、記憶障害という類のものでもないらしい。
ーー これはいったい、どういうことなのか。
記憶しりとりは、ある程度なら、いまでもできる。
真剣に聞いたやりとりは、丸一日までなら、ある程度しっかり思い出せる。
でも、その後は。
なんだったんだろう?というくらいに、意識から消えていく。
意識から消えていく、と書いたのは、記録や写真などの手がかりがあれば、またある程度はその時のやりとりを思い出すことができるからだ。
ということは。
一度覚えたことは、頭の中から消えてしまったのではないらしい。
でも、エピソードからその時の状況は思い出せるけれど、ひとの名前からはそのエピソードを思い出すことはできない。
「○○さんがね」
(え?誰....?なんの話??)
「□□した方が」
(....ああ、△△だった、あのひとのことか)
これはちょっと、日常では、話が見えなくて、困ることがある。
ーー いつから、こんなことになった?
もしかしたら、自覚がなかっただけで、ずっとこんな毎日を過ごしてきたのだろうか?
年齢のせいなのか。遺伝子のせいなのか。
(ああ、それはあるね)
あるいは、さまざまな経験のせいで、無意識・無自覚に抹消癖がついているのか。
(ああ、それもあるかもね)
あれこれ考えているうちに、ふと気づく。
「これもまた、いまのわたしなのだ」
と。
等身大のわたし。
以上にも、以下にもなれない。
それでも生きていく。
...うん。それでいい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?