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黄昏

そのひとは、ずっと同じまちに住んでいた。

37歳になって、夫の転勤で、初めてそのまちを出たのだという。

新しく住んだ家には、お風呂がなかった。

広いだけで、その先の引越しが決まっている、仮住まい。

慣れ親しんだまちを離れて、そんなところに辿り着いたのだ。

晴れの多いそのまちは、夕陽がよく見えた。

その夕陽を見るたび、その人は、いつも

「ああ....帰りたい....」

と、思ったのだそうな。

あれから何十年。

思いを馳せるように、その人は、語った。

その短いエピソードの中に、いったい、どれほどの想いが込められていただろう。

泣きたくなるような夕陽を見ると、あの時の話が甦る。

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