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格上の風格

ソイツ。
あえてわたしは、そのひとのことを、ソイツと書きたいと思う。

ソイツは、いつも、なにかひとが嫌がることで、ひとの注目を得ようとするタイプの男子だった。

ラジオ体操の後に、女子の背中に蜘蛛を入れて泣かせたりするタイプ。

ソイツの行動は、理解したいとも思わなかったけれど、ソイツのことは、小学生の頃から知っていたから、なんとなく、そんなヤツなのだという認識で、特に避けることもなく、争うわけでもなく、中学まで過ごしてきた。

時々しでかす、意味のわからない注目行動に、わたしは、遠巻きに見ながらも、なんとなく呆れて見ていたのだと思う。

あるとき、ただ廊下に並んでいただけなのに、ソイツは、影薄めな女子にいやがらせをした。その子は、なにもしていないのに、ただ、嫌な目にあった。

その女子は、明らかに、抵抗できなくて、泣きそうな顔で、耐えていた。
何度も、何度も、執拗にやられていて、その表情から、わたしは、

「あ、これは限界だ」

と感じた。

その瞬間、わたしは、自分のことでもないのに、とてつもなく苛立って、初めて、ソイツがその子にかけた手を、パーン!!と払いのけ、大声で、

「やめろって言ってんだろ!!!!!!!」

と怒鳴った。

突然受けた攻撃に、ソイツはたじろいで、

「な、なんだよ・・・」

と言った。そして、驚きが、怒りに変わりそうだったその瞬間。

「おい、やめとけ」

もうひとりの男子が、ソイツを後ろからスッと羽交い締めにして、穏やかに、そっとささやいた。

「あ?あぁ・・・・」

ソイツは、自分を羽交い締めにした相手が誰かに気づいて、上がりかけた怒りを収めた。

なんと、そのもうひとりの男子は、ソイツよりも、格上の悪だった。
そのまま、その場は、なんとなく収まって、何事もなかったように、皆は廊下に並び続けた。

でも、わたしは知ってる。

その男子は、一瞬でわたしの表情を見て、本気に気づいて、これ以上このことが荒立てないようにしてくれたんだ、と。

男子のヒエラルキーは、やっぱり、こういうひとを視るチカラで、できあがっているんだな、と、MAXまで上がりかけた怒りを収めながら、わたしは思った。

その後も、ソイツは別の場面で、似たようなことをしていたように思うけれど、二度と、わたしの前では誰かに嫌がらせをすることはなかった。


これは、標準制服を着ながら、誰とでも平気で関わっていた、わたしの過去の話。

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