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『憑依体 ラメア』 第1話

第1話 「ドロップス」

2045年。
東京の西部にある北澤高次こうじエネルギー研究所。
セキュリティは厳重で、政府と警察の他は、承認に受けた研究員のみしか中に入ることはできない。
そのゲートにクルマでやってきた山戸レオ(27)。
ゲートの警備員に警察手帳を見せ、中に入る。
「駐車場内徐行:制限速度8km以下」という表示は認識しつつも、気持ちが急いて、カーブでややタイヤが鳴ってしまう。

研究所内。
「RHS(ラメア被験者)モニタールーム」と記された部屋には、「部外者の立入を禁ず」と書かれていて、物々しい雰囲気。
そこにレオが息を切って入ってくる。
ドアを開けると、手前に多くの器材が並んでおり、白衣の研究員がそれぞれの持ち場で、モニター上のデータと、ガラスで仕切られた奥の部屋にいる被験者の様子を観察し、記録をとっている。
ガラス貼りのモニタールーム。
テーブル、ベッド、キッチンなど一通りの生活道具が揃っており、24時間モニターし続けられている。
中央の椅子に座っており、脳波測定器をつけ、本を読んでいる被験者。
手首にはブレスレット状のモニター装置。
ドアが開き、レオが入ってくる。
振り向く研究員に、一礼するレオ。
レオ「お疲れ様です。様子はどうですか?」
研究員A「3日目ですが、特にこれといって異常は…」
研究員B「偽ラメア化の可能性もありますね」
レオ「偽ラメア化?」
初めて聞く用語にとまどうレオ。
研究員C「最近いくつか出始めているんです。確かにガラスに姿は映らないけれど、それはあくまで一時的なノイズではないかという……」
研究員A「それに、被験者は20代、ラメア化した被害者の平均年齢とは大きな乖離があるんですよね」
レオ「確かに。犠牲者は高齢者に著しく偏っている」

背中を向けていた被験者が、モニタールームの気配に気づき、顔をこちらに向ける。
被験者は山戸サラ(27)、レオの双子の姉だ。
脳波装置をつけ、白衣を着たサラが、少しやつれた顔で微笑みを作る。
サラ「レオ、来たんだ」
レオ「サラ…」
モルモットのように24時間監視され続ける姉が不憫でならない。
レオ「捕まったわけでもなく、自分の意思でここに入るなんて、どうかしてるよ。これはサラが望んだことなの?」
心配と憤りとのバランスがぐちゃぐちゃで、うまく整えられないレオ。
サラ「(笑って)何でレオがパニクってんのよ。落ち着きなよ。望むとか望まないとかじゃないよ。しょうがないじゃん。警察の人間なんだから、私は。ラメアかもしれないんだから。人間凶器かもしれないんだから」

タイトル:「ラメア 2045」

2045年の東京は、深刻な労働力不足に直面し、経済が低迷化。
東京の中にもスラム街がいくつも見受けられるようになっている。
5年前、2040年に現役人口(20-64歳)が2025年当時から約1000万人も減少、一方で75歳以上人口は加速を続けており、2054年には全人口の約25%に達すると言われている。
いまや日本は、国民の4人に1人が高齢者の「超々高齢化社会」という未知の領域に突入しようとしている。

東京の中心地、商業ビルが立ち並ぶ繁華街。
日曜日、家族連れなどで一見賑わっているように見えるが、よく見ると、車椅子や歩行器の老人と、それに付き添う看護師(家族ではない)などがかなりのボリュームで存在する。
かつては若者の街と言われていたエリアも、テナントが入らずシャッターが閉まったままになっている店舗も多い。

レオ、街の中をクルマで巡回中。
無線が入る。
音声「14時15分ごろ、品川で小規模なラメアが発生、特殊班が駆けつけたが間に合わず、ラメアヒューマンはメルトダウン。幸い、公園でのラメア化であったため被害者はゼロ。ドロップスも回収できていません」

レオ、時計を見る。時間は14時45分。

レオ「品川だったか…」
急にステアリングを叩いて荒れるレオ。
レオ「くそっ!ったく、どういうアルゴリズムなんだよ、全く読めないじゃないか!」

父が日本人、母がスペイン人のレオ。若干ブラウン味の強いふわふわした髪(くせっ毛&猫っ毛)、長身でスリム、普段は温厚だが、「正義」が絡むと沸点は低くなる。

助手席にはバディの木下圭吾(30)。
木下「まあ、落ち着けって。コーヒーでも飲むか、レオ。買ってくるわ、待ってろ」
レオ「すいません、木下さん」

東京のとある住宅街。
サラ、ある事件の目撃者を探して周辺住宅へ聞き取り調査中。
サラ「ありがとうございました。また何か思い出したら、ここに連絡頂けますか?」
「捜査一課 山戸サラ」と書かれた名刺を協力者に渡す。
そこにスマホのバイブレーション。
『品川での小規模なラメア集結』とのメッセージ。
サラ「(悔しそうに)また防げなかった……」
サラ、商店街を歩く。
サラ「あー、私も対策班に配置されないかなぁ。一発で見つけてやるのに」

レオと双子で姉にあたるのがサラ。
ロングヘアに長身、ジムで鍛えた引き締まった体。
モデルのようなクールビューティで、マンスプレイニングに徹底抗議し、ホモソーシャルを嫌悪している。
フェミニストというわけではないが、日本の縦社会、男たちの暗黙のルール、ヒエラルキーにモヤるタイプ。
スペイン人の母のカルチャーが、幼い頃から自然と体に染みているのだろう。
また、弟のレオがいい意味で脱力系メンズだったため、その対比でトキシックマスキュリニティ(有害な男らしさ)へのセンサーが敏感になっているのかもしれない。
だが、警察はあらんことかホモソーシャルが前提のような世界線。
サラは幾度も上司とやりあい、警察に入ったことを悔やんだりもしたが、
「自分がここに居続ける意味があるはず。私が風穴を開けてやる!」
との気概に満ちている。

2ヶ月前。
警視庁、フロアの一室に人がぞろぞろと入っていく。
多くのマスコミもカメラと共に後方に待機中。
入口には「ラメア緊急対策本部設置説明会会場」とある。
前方、プロジェクターの近くに陣取るのは10人ほど。
レオと木下もおり、北澤高次エネルギー研究所所長・広瀬康二(52)と研究員2人も揃っている。

ラメア対策本部本部長の郡司正宗(48)、マイク前に立ち、資料に目を通している。
説明会の対象者は警察署員。
誤った情報が広がらないよう、マスコミも入れて修正を測ろうとしている。
時計が10時を指し、用意された席はほとんど埋まっている。
その中にサラの姿も。
サラ、スマホにメッセージを入力している。
「姉が弟の勇姿を見届けてやる。しっかりやれよ」
レオ、スマホにメッセージ。送信者名はサラ。
メッセージを読み、顔を上げて会場をキョロキョロするレオ。
サラの姿を見つける。
サラ、レオと目が合い、笑顔で大きく手を振る。
レオ、バツが悪そうに目を伏せる。
レオ「あー、めんどくさい」

説明会が始まる。
郡司「本日は現在東京で3件確認された‘ラメア’という現象についての情報共有と、その対策本部を設置したことをお伝えしたく、お集まりいただきました。私はラメア緊急対策本部本部長に就任した郡司と申します」
プロジェクターでラメアの情報が映し出される。
郡司「ラメア。これは今、2045年の東京を急襲してきた悪魔です。被害に遭われた方が口々に『ラメア』といって、集結していくことから、我々はこの悪魔を『ラメア』と名付けました。とはいえ、現時点で、ラメアが何者なのか、全くわかっていません。果たしてウィルスなのか、高次の生命体なのか。目撃者の証言をつなぎ合わせ、わかってきたことをお伝えいたします」
郡司、プロジェクターの方を向く。ポインタで、黒い点を指す。
郡司「ラメアのコアは、これです。ビー玉大の球状、我々はこれをドロップスと呼んでいます。このドロップスがいつの間にか、するりとぬるりと人間に取り憑くようなのです。ドロップスに取り憑かれた人間には、一切の自覚症状がなく、外からわかる変化もないのです。また1人では有害化することはありません」
サラ、説明に聞き入っている。
郡司「しかし、同時に一定エリアに一定数以上がプロットされると、ラメアが活性化し、ラメア化した人間を引き寄せ合う現象が発生するのです。この現象をマグネティッククラスターと呼んでいます」
プロジェクターでは、ラメアヒューマンがゆっくりと心を失くしたように進んでいる後ろ姿を撮った画素数の粗い手ぶれの多い一般人の映像が映し出される。
木下圭吾(30)、立ち上がり、郡司からマイクを渡される。
木下「ラメア対策本部の木下です。今映像で確認いただいているのは、ラメア発生直前のものです。ラメア化した人間、つまりラメアが活性化したラメアヒューマンは、意識まで乗っ取られたような状態になり、『ラメア』と口々につぶやいていたとの証言が得られています。そして、目からドロップスがこぼれ落ちたかと思うと、頭のちょっと上の高さで浮遊しながら、他のラメアヒューマンたちとの集結ポイントへと導いていくらしいのです」
次の映像へと切り替える。
木下「これが、終結後の様子です。集結ポイントを中心に気温が急上昇、最高80度に達していたのではと言われています。このように広範囲の建造物にメルトダウンが見られます。また通信網は大きな被害を受け、復旧に数日かかる状態となります。なりよりも最悪なのは」
集結ポイントでレスキュー隊とシートに覆われた複数の被害者が映る。
木下「そのエリア内にいる人間は、苦しみながら熱死してしまうということです」
参加者「ラメアはどうなるんだ?」
マスコミ「ラメアヒューマンは?」
口々に質問が飛ぶ。
木下「もちろん助かりません。しかし彼らの遺体は回収できていません。目撃者の話によると、時空の隙間が開き、メルトダウンして液状化した彼らはそこに吸い取られていくとのことなのです。にわかに信じられないのですが、事実として遺体がないのです。そして、ドロップスはふわふわと空中へと高く舞い上がっていった様子が証言として複数上がっています」
サラ、手を挙げる。
サラ「ドロップスはどこに行くんでしょうか?」
木下「ドロップスは、また人間の首の後ろに張り付き、体内に入り込む。そして新たなラメアヒューマン予備軍を作り続ける。状況から推察するにそのようです」
広瀬、立ち上がり、木下からマイクを受け取る。
広瀬「北澤高次エネルギー研究所の所長の広瀬です。データとしてまだ整ったものを提示することはできないのですが、ラメアは何らかのエネルギー体と考える以外にない、私としてはそう考えています」
マスコミ「地球外生命体ということですか?」
マスコミ「エイリアンですか?」
会場の方々から声が飛び、ざわつきが起きる。
広瀬「わかりません。ですが、その可能性は棄却できないです。我々がラメアを捕獲するチャンスはかなり限られています。『ラメア』と呟き、ドロップスが生成されるその時、つまりラメア集結の直前です。「ラメアが取り憑いていた」とわかるのがその瞬間しかないからです。しかしドロップスが生成された後、ラメアヒューマンとなった際には超人的な力が宿ります。数人がかりでないと取り押さえられません。仮に取り押さえられたとしても、絶望的な状況でしかありません。『ラメア』と呟いてしまったらそれまでの記憶は失われているのです。そして言語野に損傷が起き、植物人間となってしまうからです」
会場がざわつく。
広瀬「とらえることができても目の前の被害を食い止めるだけで、根本的な解決には至らない、これが現実であります」

現在。
レオと木下、クルマの中で、コーヒーを飲んでいる。
レオ「え、ってことは、ドロップスは?」
木下「(首を振る)間に合わなかった、今回も」
レオ「キラキラと光りながら、ドロップスはお空高く舞い上がり、どこへともなく消えていきました、か……」
レオ、缶コーヒーも持っていないほうの手が、膝の上でぎゅっと握り締められている。
木下「さ、じゃあ、いったん戻るか」
レオ「ですね」
レオ、クルマのエンジンを入れる。

別の日。
対策本部がラメアに取り憑かれた人間を見分けられる重要な情報が持ち込まれた。「ガラスには、ラメアが取り付いた人間の姿は映らない」というものだ。
ドロップスに導かれているラメアヒューマンの様子を、一般人が動画に収めることに成功していた。
その動画を見ると、商業施設のショーウィンドーの前を通るラメアヒューマンは、その姿がガラスに映っていなかったのだ。
警察はその後ラメア化の疑いのある人間を片っ端から連行し、鏡やガラスの前に立たせるも、なかなかラメア化した人間は現れない。
レオ「え、ってことはフェイク動画ですか……?」
木下「そうかもしれない。けど、そもそもラメア化した人間が誰かもわからないんだからな」
郡司「蜘蛛の子を掴むどころじゃないな、これは」
ラメア対策本部、北澤研究所の研究員は意気消沈する。
広瀬「変数を徹底的に考えてみようかと思います。何か複雑な条件をクリアした場合のみ、ということかもしれないので」
広瀬たちは、いったん研究所に持ち帰る。
が、変数が多すぎることと、ラメア化したサンプルで検証ができないことがあいまって、数ヶ月経っても進展はみられないままだった。

そんな中、警察から漏れた情報に尾ヒレがつき、「ラメアヒューマンは鏡に映らない」というデマが拡散され、あちこちで「ラメア狩り」が起きる。
「ラメアバスターズ」という過激派も生まれ、暴動に発展するケースも度々発生。
警察は、本来戦うべきラメアとは別に、間違った正義感を振りまく悪とも戦わなくてはならなくなっている。
不安が恐怖を生み、恐怖がさらなる恐怖を呼ぶ。
疑心暗鬼にかられ、協力しあうのではなく、不信を押し付け合う人々。
テレビのニュース、ワイドショーは、連日ラメア関連で埋め尽くされている。
それがより一層人々の不安を不用意に煽ることにもなっている。
経済的に低迷し、生活困窮者が増え、国際的にも弱体化し、斜陽化する日本に、ラメアがさらなる追い討ちをかけ、とどめを刺そうとしているかのようだ。

再び、2ヶ月前。
説明会会場。
レオ、マイクを持ってプロジェクター前にいる。
プロジェクターで、粗い画像の人の後ろ姿が提示される。
レオ「対策本部の山戸です。これも一般の人から寄せられた画像なのですが、ここ、ラメアヒューマンの頭上にドロップスが確認できます。ドロップスの回収も困難を極めているのが現状です。これまでに回収に成功したドロップスは2つ。いずれも北澤高次エネルギー研究所にて、特殊耐熱処理されたケース内で保管されています。常にキラキラと光を放ち、時に静止もしますが、基本的にはふわふわと浮遊を続けています。ケース越しに組成の解析と試みてはいますが、ことごとくエラーになってしまいます。実はもう一つ回収されていたのですが、深夜に何らかの刺激によって高熱化し、そのケースを保管していた部屋の半分を溶かし、ドロップスは消滅してしまいました」
ざわつく会場。
レオ「広瀬所長がおっしゃっているように‘エネルギー体’と考えるのが一番しっくりきそうだと、私山戸もそう考えます」
サラ、メモをしながら説明に聞き入っている。
郡司、立ち上がり、レオからマイクを受け取る。
郡司「そして、何より重要なことなのですが」
郡司、広瀬のほうを見る。広瀬、うなずく。
郡司「公表しようか迷ったのですが、情報を広く集めるためにも、公表する必要はあると考えました。現在確認されたケースにおいて、ラメア化した被害者は高齢者層に偏りがみられるということです」
会場に走る衝撃。

現在。
最初のラメア集結が発生してから9ヶ月。
北澤研究所は、日夜ラメア関連のデータと格闘し、政府や警察の関係者の対応に追われている。
研究所の機能の半分をラメアで埋め尽くされている状態。
ドロップスは常にガラス越しで音波測定・観察が続けられているが、これといって解明の糸口はみえていない。

別の日。
サラ、バディの森田憲史けんし(35)と駅近くの立ち食い蕎麦屋の前に立ち、資料を見ている。
サラ「山中容疑者はこの立ち食いそば屋に立ち寄ってから、犯行現場である交差点向こうのパチンコ店に入った、と。えーと(資料をめくりながら)時刻は10時過ぎ」
森田「10時過ぎ? 朝のか?」
サラ「えと、はい、午前10時」
森田「何ごはんだ、それは」
サラ「は?」
森田「朝10時に食べるそばって、何ごはんだよ」
サラ「(むっとしながら)知りませんよ、そんなこと! 山中に聞いてくださいよ!」
森田「俺は、12時以降だな。そばが選択肢に入ってくるのは」
サラ「(小声で)ケンシの昼ごはんの選択肢なんか聞いてないし」
森田「聞こえたぞ。先輩を名前で呼ぶな。しかも呼び捨て」
サラ「(バツが悪そうに)失礼しました。なんか呼びやすくて、ケンシって」

「ぎゃー!ラメアだーっ!」
突然、ちょっと離れたところで絶叫に近い声。
サラと森田、声をする方に向かおうとする。
が、その方向から大勢の人の流れがサラと森田に向かってくる。
「ラメアヒューマンが5人集結すると、高熱を発し、建造物を破壊、通信網はシャットダウン、そのエリアにいる人は苦しみながら死ぬ」
ということが、マスコミによって十分に拡散されてしまったため、「ラメア」の一声で周辺がパニックに陥るのだ。
周辺道路のクルマは停止、身動きできなくなったクルマ同士がクラクションを鳴らし合い、我先に退路を確保しようとしている。
森田「無理だ、近づけない。戻ろう」
森田、群衆の流れにのって、戻ろうとする。
サラ「でも」
サラ、なおも声の方に向かおうとする。
森田、サラの腕を取る。
森田「冷静に考えろ。俺らが行って何ができる? 特殊班の防火服も着てないのに」
サラ「そうですけど……」
森田「それともあれか、山戸、お前、銃を使うつもりか?」
サラ、うなだれる。
集結ポイントに向かおうとするラメアが特定できたとして、今の自分にできることは、ラメアヒューマンを銃で撃つ、それしかない。
しかし、銃声によって群衆にさらなるパニックが波及してしまう。
しかも、ラメアヒューマンとはいえ、その人自身も実は被害者なのだ。
サラ、向かってくる人の群れをよけながら、脇に装着している銃のホルダーに手をやる。
少し考えて、
サラ「戻りましょう、ケンシ」
サラ、踵を返して、走り出す。
森田「おい、待てよ。何だよ、呼び捨て!」
森田、サラを追いかける。
逃げ惑う群衆。
鳴り響くクルマのクラクション。
スクランブル交差点で、四方から流れ込んできたクルマたちは行くべき方向を見失い、立ち往生している。
救急車、消防車の音がする。が、クルマの群れに塞がれ立ち往生。
駅の近くまで戻ってきたサラと森田。
足を止める。
森田「ここまでくればたぶん、大丈夫」
サラ、ガードレール上部の不安定な足場の上に立ち、後方を見やる。
森田「へぇ、すごい体幹だな。体育会出身だっけか?」
サラ「はい、チアリーディングを」
森田「チア……?想像の斜め上だったわ。で、何してるんだ?」
サラ「あ……」
2ブロック先ぐらいで煙が上がるのが見える。
サラ、絶望的な表情。
サラ「集結してしまったようです。燃えてます、あそこ」
森田もガードレールに上がる。不安定そうにグラグラしながら後方を見る。
森田「あそこか。よし、向かうぞ」
サラ「はい」
森田とサラ、人並みをかき分け、集結ポイントを目指す。
森田「警察です。ここは安全なエリアです。落ち着いて行動してください」
サラ「ここは大丈夫です。押さないで下さい」
2人は人々に声を掛けながら進む。
サラM「ラメア特殊班はいつ到着するのだろう。被害の程度はどれほどなのか。やはりラメアヒューマンはメルトダウンしてしまったのか」
サラと森田、2次被害、3次被害を最小限に食い止めるため、ポイントに急ぐ。
逃げ惑う人々の話し声が断片的に2人の耳に入ってくる。
通行人A「やっぱり高齢者だったらしいよ」
通行人B「ああ、あっちでもそういう話聞こえた」
サラ「また、高齢者が…」
通行人C「大きな紙袋持ってたんだよね、あのおじいさん。誰かへのプレゼントだったみたい」
森田「おい、あの人、目撃してるな」
森田、声の方を追っていく。
サラ、後を追おうとするが、別の声がふと耳に入る。
通行人D「一定期間回避できるらしいぜ、カプセルを飲み続ければ」
通行人E「高いんだろうな、カプセル。でもあると安心だな」
通行人D「自分がラメアかどうかもわかんないからしなー」
通行人E「マジそれ。効果あるとかないとか、わかりゃしないよなー」
サラ、ハッとする。サラM「ラメアを回避するカプセル? どういうこと? そんなものが世の中にあるのか?」
サラ、声のする方を振り返る。
サラ「ちょっと! すいません! そこの2人!」
サラ、森田とは離れ、声の主を追って群衆の中に消える。

(1話終わり)

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